兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2018年10月15日(1891号) ピックアップニュース

厚労省パブコメ「後発医薬品の使用原則化」へ意見提出
医師の処方権の担保を

 協会は、「指定医療機関医療担当規程の一部改正」に先立ち、厚生労働省が実施したパブリックコメントに対して9月15日に意見を提出した。この規程の改正内容は、今年の通常国会で成立した改定生活保護法に基づき、生活保護の患者について、後発医薬品の使用を原則化するもの。協会は、医療扶助費抑制のためとして生活保護受給者に後発医薬品使用を強いる改定に反対し、貧困対策を中心とする社会支出の抜本増こそ必要だと指摘した。提出した意見全文を掲載する。

 「指定医療機関医療担当規程の一部を改正する件(告示)の概要」では、「2、改正内容」の「(1)指定医療機関における後発医薬品の給付の原則化」において、「医師又は歯科医師は、投薬を行うに当たって、医学的知見に基づき、後発医薬品を使用することができると認めた場合について、原則として、後発医薬品により投薬を行うこととする」、「薬局の薬剤師は(中略)当該処方せんを発行した医師が後発医薬品への変更を認めている場合は、原則として、後発医薬品を調剤するものとする」とされている。これは、改定生活保護法の「原則として、後発医薬品によりその給付を行うものとする」によるものである。
後発医薬品の有効性・安全性に疑問も
 後発医薬品の有効性や安全性は一般に先発医薬品と同等とされているが、医師・歯科医師の間でも、後発医薬品の安全性や有効性について疑問が示されることは多い。兵庫県下の医師・歯科医師で構成する兵庫県保険医協会が会員を対象に行なった調査でも63.6%の医師が、「先発品に比べ効きが劣るものがあると感じることがある」と回答している。同様の傾向は厚生労働省が行った「後発医薬品の使用状況調査報告書」でも明らかとなっている。
 すでに生活保護受給者における後発医薬品使用割合が医療全体より高いにもかかわらず、生活保護受給者に対する後発医薬品使用が原則とされれば、生活保護受給者は非受給者よりも安全性や効果の低い可能性のある医薬品使用を、医療扶助費抑制の目的のためにさらに推進されることになる。また、薬局において後発医薬品を調剤しなかった理由は「患者の意向」の割合が67.2%と高い。これらのことから、改定生活保護法が「この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない」と定めていることに反しているばかりでなく「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」とする日本国憲法14条に抵触している可能性もある。
医師の処方権強く担保する規定を
 また、2015年度の生活保護受給者の構成割合は高齢者49.5%、障害者11.7%、傷病者15.6%であり、実に生活保護受給者のうち8割近くが一般的により手厚い医療を必要としている人である。
 これらの人に、非受給者よりも安全性や効果の低い可能性のある医薬品を強制的に使うことになれば、早期の治療に困難をきたし、法改正の「生活困窮者等の自立を促進」という趣旨にも反することになる。よって、同法の具体的運用を定める同規程については廃止するか、少なくとも医師の医学的知見とそれに基づく処方権を強く担保する規程を盛り込むべきである。
 また、医師による先発薬の処方を萎縮させないために、先発薬の処方を行った際に、規程違反とならないことを盛り込むべきである。
貧困対策費の抜本増を
 そもそも、本法改正の目的は、生活保護受給者に対して全額公費で賄われる医療扶助費抑制であることは明らかである。
 日本では人口の1.6%しか生活保護を利用していないと言われており、先進諸外国よりも利用率はかなり低い。さらに捕捉率はドイツの64.6%、フランスの91.6%、スウェーデンの82%に比べ、日本では2割程度にすぎないとされている。生活保護制度は憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を権利として具体化したものであり、財政的な理由で、ましてや公費を抑制するために、患者の受療権を侵害するのは誤りである。
 また、改正の理由はどこにも明確にされておらず、このような制度の推進は、公的医療が醸成してきた公平性を著しく欠き、社会に分断と差別と対立を増長する危険性が高い。高齢者や障害者、傷病者が大半を占めるという生活保護受給者の構成割合からも明らかなように、生活保護受給者増加の背景には、極めて不十分な老齢年金や障害年金制度がある。
 今、求められているのは生活保護受給者への後発医薬品使用原則化などによる生活保護費抑制などではなく、貧困対策を中心とする社会支出の抜本増である。
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