兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2019年4月05日(1906号) ピックアップニュース

学校健診後治療調査結果 報告
歯科 要治療3分の2が受診せず

 協会は、県下の小中高校、特別支援学校に通う児童・生徒の学校健診の受診状況について調査し、児童・生徒の健康についての実態を明らかにしようと、昨年8月から11月にかけて調査を実施。歯科では受診が必要な子どもの3分の1しか受診せず、口腔崩壊の子どもがいる学校が33%に上ること、眼科健診で矯正器具が必要とされていたにも関わらず、メガネを作ってもらえず視力が悪化した事例などが明らかになった。結果を詳報する。

 本調査は、2017年に実施した学校歯科治療調査が大きな反響を呼んだことを受けたもの。調査内容は、眼科(視力検査含む)、耳鼻科(聴力検査含む)、内科、歯科の各健診と歯科のうち歯列・咬合検査について、要受診とされた児童生徒数と医療機関を受診した児童生徒数を尋ねるとともに、未受診の児童生徒の困難事例について具体的に記述をお願いするもの。
 県下の国公私立小中高校・特別支援学校1404校に調査票を送付し、全体の12.6%にあたる177校から返送があった。
高さ目立つ歯科の未受診率
 健診で要受診とされた児童・生徒の比率は、眼科34.1%、歯科29.9%、耳鼻科12.2%、歯列・咬合検査5.5%、内科4.3%となった(図1)。
 要受診とされた児童・生徒の医療機関受診率は高い順に、耳鼻科45.5%、内科45.1%、眼科39.1%、歯科32.5%、歯列・咬合検査25.6%となっている(図2)。どの科でも、年齢が上がるにつれ、受診率が下がる傾向にある。
 歯科の受診率は、2017年の調査でも35%であり、治療が必要な子どもの3分の1しか受診していないことが改めて確認され、他科と比べても歯科の受診率が著しく低いことが明らかとなった。
 「視力や聴力など見えづらい、聞こえないなどの症状があるものに対しては受診してもらえるが、歯科など今、自覚症状(痛みなど)がないものに対しては、あまり受診してもらえないように感じている」(公立小学校)との声が寄せられており、痛み等症状がない場合は、受診が進まない現状があると考えられる。
眼科
「メガネ作ってもらえない」
 眼科健診では、7割超の学校が、眼科未受診・矯正器具未購入の児童・生徒が「いた」と回答。
 具体的には、「メガネを作ってもらえず、姉のメガネをかけてきて、姉がメガネがないと訴える」(公立小学校)とメガネが買ってもらえない、度数があわないメガネをかけているとの事例が多数寄せられた。中には「片眼が視力低下し、たよりを出した(10月)が未受診、今年4月になり再度たよりを出し受診したところ、弱視になっており、要医療になった」(公立小学校)と、受診の遅れにより悪化したケースもあった。近視用メガネは保険適用ではなく、視力の悪化にあわせ、何度も作り直さなければならず経済的な負担が重いことが、メガネを作れない原因であると考えられる。
耳鼻科
難聴疑いで症状悪化
 耳鼻科健診でも、約7割の学校が、未受診の児童・生徒が「いた」と回答。
 具体的には、「耳垢栓塞」「アレルギー性鼻炎」が多く、「耳垢栓塞」に対する受診の必要性や、親の認識不足を指摘する声が目立った。また、「アレルギー性鼻炎」で、未治療により授業に集中できない、睡眠の質が落ちるとの声や、「右耳に難聴の疑いがあるにも関わらず、病院を受診していない。授業中は聞こえませんと言い続けている」(公立中学校)、「日常生活に支障がないため未受診、受診しても特に何も変化ないという理由で、受診を勧めても未受診(聴力)、難聴疑いで1年次から要受診だが未受診であったが、3年次で悪化していることが受診して分かった」(公立高校)と、未受診により日常生活に支障を来たしているケース、悪化したケースが報告された。
内科
尿検査・心雑音での未受診多く
 内科健診で、未受診の児童・生徒がいたと回答した学校は約5割。
 具体的事例では、尿検査陽性、心雑音、低身長の事例が多い。また、「校医より頻脈にて受診指示があり、勧告するも家庭は...当初受診を拒んだ。...粘り強く受診勧告し、受診。血液検査を受け、バセドウ病が発見され専門病院を紹介され転院治療となり、内服および手術となり現在も治療中であり、本人のしんどさは改善された」(公立中学校)と、学校の受診勧告により治療につながった例が報告された。
歯科
口腔崩壊「いる」33%
 歯科の要受診率29.9%、受診率32.5%、未受診率67.5%は、2017年に実施した調査の数値(要受診率31.6%、受診率35%、未受診率65%)と概ね同様の数値となった。また、口腔崩壊の児童生徒が「いる」と回答した学校数は33.3%で、前回調査(35.4%)とほぼ変わらず、口腔崩壊と報告された人数は247人にのぼる。
 「乳歯の時からほぼ全部がう歯で、生え替わった永久歯も、どんどんう歯になっている。給食を食べていても歯が欠けてしまうことがある。あまりにひどいので保護者に受診をうながすも、空返事をするだけで受診させることはない」(小学校)、「う歯(乳歯)の数が10本以上あるが、生え替わるという親の意識なのか、受診を勧めても行っていない。給食を食べるのは遅い」(小学校)、「口腔崩壊している児童は治療勧告しても受診せず。乳幼児医療、生活保護で無料であっても歯科医嫌い、乳歯のむし歯は治療しなくても良いと思っているなどの理由が考えられる(小学校)」など、深刻な例が多数寄せられている。
未受診の背景に貧困
 未受診の理由として関心が深いと思われるものについて、選択式で聞いたところ、「保護者の無関心」61.6%、「保護者の理解不足」51.4%と半数を超え、「共働き家庭」46.3%、「ひとり親家庭」31.1%、「経済的困難」20.9%(図3)と続いた。
 保護者の無関心や理解不足を理由とする回答が多いことに関連し、「公的な助成制度で小学生の医療費が無料であっても、保護者の生活にゆとりがない、養育する能力がない等の理由で『子どもを病院に連れて行くこと』ができない場合が多い。学校で子どもが体調不良になり、保護者に迎えをお願いしたときに、仕事を抜けてくることになり、それにより『給料が減り生活が困窮し、食べるものがなくなる』と子どもを叱ることもある。国が今後の日本をどうしていくか根本的に考え直さないといけないと思う」(公立小学校)との声が寄せられており、保護者に経済的余裕がなく、長時間労働を強いられる貧困状態であることが、子どもの未受診につながっていると考えられる。
 一方、未受診の理由の回答を高校に限ると、「経済的困難」との回答が52.0%と大きく伸びていること(図4)から、窓口負担無料化により、受診の経済的不安は軽減されていることが推察される。今年度から窓口負担無料に所得制限が導入された三田市の小学校からは、「保護者が忙しく、児童に自覚症状もそれほどない場合は受診が後回しにされることがある。今後、行政による乳幼児医療制度が見直され、医療機関での一部負担金が増えていくと、受診率が下がるのではないかと懸念される」との声も寄せられている。
 協会では問題解決に向けて、今後も取り組みを強めていく。

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