兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2020年3月05日(1935号) ピックアップニュース

2020年度 診療報酬改定答申 談話

 2020年度診療報酬改定について、中央社会保険医療協議会(中医協)は2月7日、厚生労働大臣に答申を行った。改定率および改定内容に対する医科・歯科それぞれの談話を掲載する。

医科
初・再診料の引き上げなく矛盾そのまま
研究部長  清水 映二
 協会は、国民医療の充実と医療機関経営の改善をめざし診療報酬の大幅幅引き上げを求めてきたが、政府は今次改定を全体▲0.46%(医療費ベースで約▲1900億円、本体+0.55%、薬価・材料価格▲1.01%)のマイナス改定とした。医科本体は+0.53%とされているが、初・再診料や入院基本料は全く引き上げられず、安倍政権発足後4回連続のマイナス改定となったことに強く抗議する。
「かかりつけ機能」で医療機関を差別
 これまでの改定同様、「かかりつけ機能の評価」が掲げられているが、内容は政府尺度の「かかりつけ機能」にかかわる点数を届け出ていない医療機関を差別するものだ。
 他医療機関から紹介された患者の診療情報を紹介元に提供した場合、3月に1回、150点が算定できる「診療情報提供料Ⅲ」が新設された。ただし算定要件は、(1)患者は、産科または産婦人科から紹介された妊婦であること、(2)紹介先または紹介元どちらかの医療機関は、地域包括診療科加算や小児かかりつけ診療料などを届け出ているか、在宅時医学総合管理料を届け出ている在宅療養支援診療所(病院)であること-のいずれかとなる。いずれも満たさない場合は、同じ行為でも評価されない不平等な内容だ。
フリーアクセスさらに制限
 包括点数である小児科外来診療料とともに、小児かかりつけ診療料の対象患者が従来の3歳未満から6歳未満へと拡大されたが、小児かかりつけ診療料は一人の患者に対し一つの保険医療機関でしか算定できず、「患者が医療機関を自由に選べなくなる」との批判がある。
 また、紹介状なし大病院受診時の患者定額負担は、対象となる地域医療支援病院が400床以上から200床以上へと拡大され、兵庫県下では新たに21病院が加わり37の全ての地域医療支援病院が対象となる。
 いずれも、患者のフリーアクセスをより制限することにつながるものだ。
窓口負担の改善なく妊婦加算廃止
 妊婦加算は、妊産婦にのみ追加で窓口負担を押し付けることは差別だとされたが、それは患者窓口負担そのものがもつ矛盾である。妊産婦への診療行為への評価として初・再診料に加算された点数が、算定要件や窓口負担の改善がはかられることなく廃止されたことは、問題である。
在宅医療点数の矛盾そのまま
 点数構造が複雑化していた在宅時(施設入居時等)医学総合管理料の改善はみられなかった。同じ医学管理にもかかわらず、同一建物内で同管理料を算定する人数によって点数が異なるなど、矛盾は残されたままだ。
 在宅患者訪問診療料Ⅰの「2」(主治医から依頼を受けて行う訪問診療)についても、月1回の算定制限は緩和されなかった。
オンライン診療拙速な緩和
 オンラインによる診療や医学管理は、事前の対面診療が必要な期間が6カ月から3カ月に短縮され対象患者が拡大されるなど、要件が緩和されている。オンライン診療の検証も十分でないまま、なし崩し的に進められることは認められない。
 検体検査では、200項目以上で点数が引き下げられた。超音波検査では、検査で得られた所見をカルテに記載し画像をカルテに添付することなどが要件となった。医学管理等でのカルテへの記載・添付の要件は、個別指導時によく指摘される事項だ。要件を満たしていない場合には自主返還を求められることもあるため、今後注意が必要だろう。
勤務医負担軽減につながるか疑問
 入院料では、急性期病床のさらなる絞り込みを狙い、急性期一般入院基本料の重症度、医療・看護必要度の割合が、それぞれ引き上げられた。
 また、勤務医の負担軽減など「働き方改革」への対応の一つとして、地域医療体制確保加算(520点)が新設された。しかし、対象は救急患者搬送件数が年間2000件以上の病院に限られるほか、そもそも医師数増や診療報酬の抜本的引き上げなしに、勤務医の負担軽減につながるかは疑問である。
初・再診料や入院料の引き上げを
 今次改定では、点滴注射1・2や静脈血採取料、常勤薬剤師がいる場合の調剤技術基本料、処置・手術の一部点数などが引き上げられたほか、協会・保団連要求による若干の改善もみられる。しかし、診療所や病院が地域医療で担っている役割を正当に評価する上では、初・再診料や入院料そのものを引き上げることが不可欠である。
 協会は今後、新点数の内容や運用を研究しながら、会員とともに不合理是正と診療報酬抜本引き上げの運動を行っていくので、ご協力いただきたい。
歯科
歯科医療費の総枠拡大基礎的技術料の大幅引き上げを
歯科部会長  加藤 擁一
 協会歯科部会は、保団連や近畿ブロックとともに、診療報酬の改善に向けた要請行動を行ってきた。「保険でより良い歯科医療を求める」署名は、過去最高の13000筆を超える署名を国会に提出し、会員と国民の切実な声を届ける運動を積み重ねてきた。
 今次診療報酬改定では、これらの運動の結果一部に改善が見られるものもあるが、前回の0.69%を下回る0.59%のプラスにすぎず、歯科医療危機を打開するものになっておらず、強く抗議する。また、協会が批判してきた歯科医療機関の機能分化路線を拡大するともに、歯科疾患管理料の変更、「歯周病重症化予防治療」の新設など長期維持管理に誘導するものとなっている。
 政府は「骨太方針2019」でも「口腔の健康は全身の健康にもつながる」として、「歯科口腔保健の充実...歯科保健医療提供体制の構築に取り組む」としていたが、今回の改定は、歯科医療機関の経営改善にほど遠いものとなった。協会歯科部会は、あらためて歯科医療費の総枠拡大と基礎的技術料の大幅引き上げを求めるものである。
基本診療料の施設基準拡大
 基本診療料の施設基準に職員研修が追加された。職員研修の要件の詳細は今後通知等で出されるものと思われる。施設基準を拡大した上、届け出た医療機関はわずかに点数を引き上げ〈初診料261点(+10点)、再診料53点(+2点)〉、届け出ない医療機関は据え置きとされるが、次に述べるように初診月の歯科疾患管理料が20点引き下げられたため、初診月はマイナスとなる。そもそも、施設基準を設けて基本診療料の格差をつける仕組み自体を廃止すべきで、全ての歯科医療機関が必要な対策を十分行える大幅な基本診療料の引き上げが求められている。
「歯管」要件を変更
 歯科疾患管理料は、初診月の算定が100分の80に減算され80点になる。初診月と再診月に点数に差を設けることは妥当性がなく、不条理である。さらに、初診月から6カ月を超える場合は「長期管理加算」が新設され、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(120点)とそれ以外(100点)で点数に差を設けたが、同じ診療行為であるにもかかわらず点数に格差をつけたことは、不合理をいっそう拡大することになり、患者と医療従事者にとって理解しにくいものとならざるをえない。初診から2カ月以内に算定する規定が廃止されたことは、協会・保団連の運動の成果といえる。
 「小児口腔機能管理加算(小機能)」と「口腔機能管理加算(口機能)」の取り扱いが見直され、それぞれ名称を変えて、加算ではなく独立点数となり、歯管との別日算定が可能となった。協会は繰り返し要求してきたことが反映されたが、点数は変わっておらず、大幅な引き上げが求められる。また、指導・訓練は月に複数回に及ぶ場合があり、月1回のみの制限を撤廃すべきである。
長期維持管理への誘導
 新設された「歯周病重症化予防治療」は、歯周病安定期治療(SPT)の対象でない歯周病患者に対する継続的な治療評価とされたが、長期維持管理へ誘導して初・再診料を算定しにくくする意図が感じられる。歯周基本治療、機械的歯面清掃処置などが包括される可能性があり、具体的な治療の流れや対象などを含めて、今後の通知等で検証していきたい。
金パラ「逆ザヤ」問題の解消を
 金パラ「逆ザヤ」問題については、厚労省へのパブリックコメントの半数にも及ぶ多くの意見が寄せられたにもかかわらず、まったく解決の方向を示していない。協会が実施している「金パラ『逆ザヤ』の即時解消を求める要請署名」では、会員からは、「国の制度に従って診療しているのに材料価格の高騰で治療をすればするほど損をする状況は異常です」「これ以上続けば患者さん第一の診療はできません」「患者さんによりよい治療を受けてもらうことと現実がかけ離れています」などの切実な声が寄せられている。現状を放置すれば、国民が受けられる歯科医療の質の確保が困難になる。金パラ「逆ザヤ」問題の即時解消のための緊急対応を強く求めるものである。
歯科技工問題の抜本的解決を
 「保険でより良い歯科医療を」兵庫連絡会とともに取り組んできた歯科技工問題については、補綴技術料をわずかに引き上げたのみであり、抜本的解決にはほど遠い。多くの歯科技工士が低収入、長時間労働の下で職場を離れざるをえないことは、歯科医療にとって深刻な事態である。補綴関連点数の大幅な引き上げとともに、労働時間と原価計算に基づいた製作技工・保険点数の決定プロセスの透明化などが欠かせない。歯科医療を支えている零細歯科技工所の経営が成り立つ制度が求められている。
 そのほか、改定では、経口摂取が困難な患者に対する口腔管理の新設、CAD/CAM冠の適用拡大、麻酔の算定の見直しなど、協会・保団連が繰り返し要求して実現したものもみられる。
 協会は、今回の改定の不合理是正を求めるとともに、引き続き「保険でより良い歯科医療」を求める運動に取り組んでいくものである。
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