兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2020年3月15日(1936号) ピックアップニュース

燭心

 神戸市兵庫区、湊川公園の一角にひっそりと置かれた黒御影石。「ここにねむるいのち ここから はばたく」と刻まれている。作家藤本義一さんの題字、阪神・淡路大震災の慰霊碑である。あれから25年、たくさんのいのちに見守られて、今、震災を知らない子どもたちが公園を駆け回っている▼その藤本さんも亡くなられて7年が経つ。ダンディーな人だった。私が中学生の頃、TVの深夜番組の司会を担当しておられた。大人の香りに魅せられて、親の眼を盗んで見ていたことも懐かしい。大阪出身の方だが、神戸をこよなく愛しておられた。ケアハウス建設など、被災者支援の活動にも精力的に取り組んでいただいた▼藤本さんの死因は悪性中皮腫だった。アスベストが原因の癌である。どこで〝死の棘〟が刺さったのかは不明だが、おそらく震災の時ではなかろうか。あの何年間か、私たちはすさまじい粉塵の中で過ごした。高度成長期、アスベストは、強い、軽い、安い、〝理想の建材〟として大量に使われたのだ▼70年代に欧米でその発ガン性が指摘され、使用が禁止された後も日本では使い続けられた。完全に禁止されたのは2004年になってのことだ。未だに、国も企業も、責任を認めていない。今、震災が原因とされる石綿関連疾患が、相次いで出てきている。東日本大震災から9年、熊本地震からもうすぐ4年が経つ。それらのがれき処理はどうだったのか、明日の被害を防ぐためにも、しっかりと検証しなければならない(星)
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