兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2020年3月25日(1937号) ピックアップニュース

2020年度 診療報酬改定の要点〈医科・歯科〉

 2020年度診療報酬改定で、4月1日から実施される新点数について、特徴や問題点を掲載する。

2020年度 診療報酬改定の要点〈医科〉
初・再診料、入院料の引き上げなし
 政府は今次改定を全体▲0.46%(医療費ベースで約▲1900億円。本体+0.55%、薬価・材料価格▲1.01%)のマイナス改定とした。安倍政権発足後、4回連続のマイナス改定となる。
 医科本体は+0.53%とされているが、初・再診料や入院基本料は全く引き上げられず据え置かれた。診療所や病院が地域医療で担っている役割を正当に評価する上では、初・再診料や入院料そのものを引き上げることが不可欠である。
 これまでの改定同様、「かかりつけ機能の評価」と称して、「かかりつけ機能」にかかわる点数を届け出ている医療機関とそうでない医療機関を分断評価しているほか、入院料では急性期病床のさらなる絞り込みが狙われている。
 以下に主な改定項目を紹介するが、詳細は、3月下旬保団連発行『点数表改定のポイント』や、同時期に配信する兵庫協会の新点数解説動画を参照されたい。なお、届出が必要な点数には「(届出)」、届出は不要だが施設基準を満たす必要がある点数には「(基準)」と記載した。
〈主な改定項目〉
1.初・再診料等
[1]妊婦加算と産科・産婦人科特例加算が、2019年1月の凍結を経て廃止された。
[2]機能強化加算について、以下の改定が行われた。
 ア.院内に掲示する事項の中に次の(1)(2)が追加された。(1)必要に応じて、専門医や専門医療機関への紹介を行っている。(2)各都道府県のホームページに掲載されている医療機能情報提供制度(医療情報ネット)を利用すれば、かかりつけ医機能を有する医療機関等が検索可能である。
 イ.院内掲示事項と同様の内容を書面にして、患者が自由に持ち帰れる形で院内の見やすい場所に置くとともに、患者の求めに応じて交付することとされた。
[3]地域包括診療加算の施設基準について、選択要件の中の一つである時間外対応に係る要件が緩和され、時間外対応加算3の届出でもよいこととされた。
[4]電話等による再診の結果、急病等に対する治療上の必要性から、休日または夜間における救急医療の確保のために診療を行っている次の(1)〜(3)のいずれかの医療機関への受診を指示した上で、同日に受診先の医療機関へ診療情報を文書等(FAXまたは電子メールを含む)で提供した場合は、診療情報提供料(Ⅰ)を算定できることとなった。(1)地域医療支援病院、(2)救急病院等を定める省令に基づき認定された救急病院または救急診療所、(3)「救急医療対策の整備事業について」に規定された病院群輪番制病院、病院群輪番制に参加している有床診療所または共同利用型病院
[5]低紹介率初診料、低紹介率外来診療料の算定対象となる地域医療支援病院が、許可病床400床以上から一般病床200床以上に拡大された(2020年10月1日実施)。
[6]オンライン診療料の算定対象患者に対する事前の対面診療の期間が、6カ月から3カ月に短縮された。
[7]紹介状なしで受診した患者から定額負担を徴収する義務がある医療機関のうち、地域医療支援病院が許可病床400床以上から一般病床200床以上に拡大された。兵庫県下では新たに21病院が加わり37の全ての地域医療支援病院が対象となる。

2.医学管理等
(新設点数抜粋)
[1]診療情報提供料(Ⅲ)(150点)(基準):以下のア〜ウの患者に対して継続的な診療を行っている場合に、紹介元の保険医療機関からの求めに応じ診療情報の提供を行った場合、初診日以外の日に、提供する保険医療機関ごとに3カ月に1回に限り算定する。
 ア.次のいずれかを届け出ている保険医療機関から紹介された患者。
 地域包括診療加算/地域包括診療料/小児かかりつけ診療料/在宅時医学総合管理料・施設入居時等医学総合管理料(在宅療養支援診療所または在宅療養支援病院に限る)
 イ.他の保険医療機関から紹介された妊娠中の患者。
 ウ.他の保険医療機関から、アの保険医療機関に紹介された患者。
[2]婦人科特定疾患治療管理料(250点)(届出):婦人科または産婦人科を標榜する医療機関において、器質性月経困難症を有する入院外の患者であって、ホルモン剤(器質性月経困難症に対して投与されたものに限る)を投与しているものに対して、適切な研修を修了した婦人科医または産婦人科医が治療計画を作成し、継続的な医学管理を行った場合に、3カ月に1回に限り算定する。
[3]精神科退院時共同指導料(指導料1の(Ⅰ)1,500点、同(Ⅱ)900点、指導料2 700点)(届出):精神病棟に入院中の患者に対して、入院医療機関の多職種チームと、患者の外来または在宅医療を担う医療機関の多職種チームが、退院後の療養等について共同で指導等を行った場合に算定する。指導料1は外来または在宅医療を担う医療機関で、指導料2は入院医療機関で算定する。
[4]遠隔連携診療料(500点)(届出):対面診療を行っている入院外の患者であって、指定難病の疑いや、てんかんの疑いがある患者に対して、診断を目的として、施設基準を満たす他の医療機関の医師と情報通信機器を用いて連携して診療を行った場合に、診断の確定までの間に3カ月に1回に限り算定する。
(一部新設、算定要件の変更等)
[5]小児科外来診療料・小児かかりつけ診療料:(基準)→(届出)となった。算定対象となる患者の年齢が3歳未満から6歳未満に拡大された。小児抗菌薬適正使用支援加算について、算定対象となる患者の年齢が3歳未満から6歳未満に拡大されたが、月1回に限り算定することとなった。
[6]診療情報提供料(Ⅰ):「歯科医療機関連携加算2」(100点)が新設された。周術期等における口腔機能管理の必要を認め、歯科を標榜する他の医療機関に予約を行った上で患者の紹介を行った場合に算定する。
 医療的ケア児が通う学校の学校医等に対して、児が学校生活を送るにあたって必要な情報を提供した場合にも、診療情報提供料(Ⅰ)が算定できることとなった。
[7]特定薬剤治療管理料1:算定対象に、川崎病の急性期の患者であって、シクロスポリンが投与されている患者が追加された。
[8]ニコチン依存症管理料:「2」として、初回から5回目までの一連のニコチン依存症治療に係る点数(800点)が新設された。2回目から4回目に「情報通信機器を用いた場合」の点数(155点)が新設された。加熱式たばこの喫煙者も算定対象とされた。
[9]生活習慣病管理料:糖尿病の患者については、病状に応じて年1回程度眼科の医師の診察を受けるよう指導を行うこととされた。療養計画書の様式に歯科受診の状況に関する記載欄が追加された。
[10]小児特定疾患カウンセリング料:公認心理師がカウンセリングを行った場合の点数(200点)が新設された。小児科または心療内科の医師の指示の下、公認心理師が当該医師による治療計画に基づいて療養上必要なカウンセリングを20分以上行った場合に算定する。
 対象患者に被虐待児等が含まれることが明確化された。
[11]小児運動器疾患指導管理料:(基準)→(届出)となった。対象患者について、他院からの紹介という要件が廃止され、対象年齢が6歳未満から12歳未満に拡大された。
 初回算定月から6カ月以内の期間は月1回に限り、6カ月を超えた期間は6カ月に1回に限り算定できることとなった。
[12]外来リハビリテーション診療料:医師とリハビリテーションスタッフとのカンファレンスに係る要件が緩和され、リハビリテーションスタッフから報告を受けていればよいこととされた。
[13]療養・就労両立支援指導料:点数(1,000点)が再編され(相談体制充実加算500点は廃止)、「初回」(800点)と「2回目以降」(400点)に区分された。初回の点数は、企業から提供された勤務情報に基づき、患者に療養上必要な指導を実施するとともに、企業に対して診療情報を提供した場合に算定する。2回目以降の点数は、診療情報を提供した後の勤務環境の変化を踏まえて、療養上必要な指導を行った場合に算定する。
 看護師または社会福祉士が相談支援を行った場合の点数として、相談支援加算(50点)が新設された(届出)。
 対象疾患について、がんの他に、脳卒中、肝疾患及び指定難病が追加された。
[14]オンライン医学管理料が廃止となった。代わって、以下の項目に「情報通信機器を用いた場合」の点数(100点)が新設された(基準)。
 特定疾患療養管理料/小児科療養指導料/てんかん指導料/難病外来指導管理料/糖尿病透析予防指導管理料/地域包括診療料/認知症地域包括診療料/生活習慣病管理料

3.在宅医療
[1]在宅患者訪問診療料(Ⅰ)の「2」:6カ月を超えて算定する場合は、以下のア・イを満たす必要があることとされた。なお、算定回数や難病等の患者に係る「概ね6カ月ごとの情報提供」の取り扱いに変更はない。
 ア.主治医と診療状況を共有した上で再度依頼を受ける。
 イ.レセプト「摘要」欄に継続的な訪問診療の必要性について記載する。
[2]在宅患者訪問栄養食事指導料:「2」が新設された。自院医師の指示に基づいて、他院の管理栄養士や栄養ケア・ステーションの管理栄養士が訪問して指導管理を行った場合でも算定できることとされた。
[3]在宅療養支援病院の施設基準の「往診を担当する医師」について、オンコール対応でもよいこととされた。
[4]在宅医療の部の特定保険医療材料に交換用胃瘻カテーテル等が追加された。
[5]在宅自己注射指導管理料:導入初期加算における、処方内容に変更があった場合に1回に限り算定できる取り扱いについて、別表第9に掲げる注射薬の製剤に変更があった場合にのみ算定できることとされ、同じ製剤での一般的名称の変更のみでは算定できないこととされた。
 アドレナリン製剤(エピペン®)の自己注射を行う患者について、外来で導入前の2回の指導を行わなくても算定できることとされた。
 「情報通信機器を用いた場合」(100点)が新設された。糖尿病、肝疾患(経過が慢性なものに限る)、慢性ウイルス性肝炎の患者のオンライン診療料算定時に、在宅自己注射指導管理を行った場合に算定する。
[16]在宅自己導尿指導管理料に含まれるとされていた「再利用型カテーテル」の費用が、特殊カテーテル加算に新設された。
[7]血糖自己測定器加算に「間歇スキャン式持続血糖測定器によるもの」(1,250点)が新設された。強化インスリン療法施行中の患者または強化インスリン療法施行後に混合型インスリン製剤を1日2回以上自己注射を実施している患者に対して、フラッシュグルコースモニタリングシステムを使用した場合に3カ月に3回算定できる。糖尿病の専門の知識及び5年以上の経験を有する常勤医師または、当該医師の指導の下で治療を実施する医師が、当該システムを使用して血糖管理を行った場合に算定する。
[8]在宅医療の部の特定保険医療材料に、以下の材料が追加された。これにより、医師の診療日以外の日に訪問看護ステーション等の看護師等が、当該材料を使用して処置を実施した場合は、使用した特定保険医療材料の費用が算定できることとなった。追加された材料は、処方箋により調剤薬局から支給はできないとされた。
 膀胱瘻用カテーテル/交換用胃瘻カテーテル/局所陰圧閉鎖処置用材料/陰圧創傷治療用カートリッジ

4.検 査
[1]D017排泄物、滲出物または分泌物の細菌顕微鏡検査において、症状から同一の起因菌を検索する目的で同一部位から複数の検体を採取した場合は、主たる部位または1カ所のみの所定点数を算定することとされた。
[2]D019細菌薬剤感受性検査に、「4 薬剤耐性菌検出(50点)」と、「5 抗菌薬併用効果スクリーニング(150点)」が新設された。
[3]D023微生物核酸同定・定量検査の「3 淋菌核酸検出(240点)」と「5 淋菌及びクラミジア・トラコマチス同時核酸検出(278点)において、女子尿も含まれることとされた。
[4]D214脳波図、心機図、ポリグラフ検査を閉塞性動脈硬化症に対して行った場合は、「6 血管伸展性検査」で算定することと明記された。
[5]D215超音波検査(記録に要する費用を含む)について、以下の改定がなされた。
 ア.「2 断層撮影法(心臓超音波検査を除く)」が「イ 訪問診療時に行った場合」と「ロ その他の場合」に分割された。「イ 訪問診療時に行った場合」は部位にかかわらず月1回のみ算定できる。
 イ.「2 断層撮影法(心臓超音波検査を除く)」の「ロ その他の場合」の「(1) 胸腹部」を算定する場合は、検査をした領域についてレセプトの摘要欄に該当項目を記載することとされた。
 ウ.超音波検査(「3 心臓超音波検査」の「ニ 胎児心エコー法」を除く)を算定する際は、以下の要件をすべて満たすことが必要とされた。(1)当該検査で得られた主な所見をカルテに記載する、または検査実施者が測定値や性状等について文書に記載する。なお、医師以外が検査を実施した場合は、その文書について医師が確認した旨をカルテに記載する。(2)検査で得られた画像をカルテに添付する。(3)測定値や性状等について文書に記載した場合は、その文書をカルテに添付する。
[6]D261屈折検査に小児矯正視力検査加算が新設された。6歳未満の該当患者に対して眼鏡処方箋の交付を行わずに矯正視力検査を実施した場合に加算できる。
[7]D285認知機能検査その他の心理検査の「1 操作が容易なもの」が分割された。うち「イ 簡易なもの」には長谷川式知能評価スケールやMMSE等が含まれ、原則3カ月に1回の算定とされた。

5.投 薬
[1]一般名処方加算の品目数については、一般的名称で計算することが明確化された。ただし、一般的名称が同一であっても経口や注射のように投与経路が異なる場合は、別品目として計算することとされた。

6.リハビリテーション
(リハビリ実施計画書の変更)
[1]疾患別リハビリテーションの実施にあたり作成する「リハビリテーション実施計画書(以下、計画書)」の取扱いについて、以下のとおり変更された。
 ア.計画書は、リハビリ開始後原則として7日以内(遅くとも14日以内)に作成することでよいとされた。
 イ.計画書の作成前に疾患別リハビリを実施する場合には、実施するリハビリについて医師の具体的な指示があった場合に限り、疾患別リハビリテーション料を算定できることとされた。
 ウ.従来は計画書の内容を患者に説明し、その要点をカルテに記載することとされていたが、計画書の内容を患者またはその家族等に説明することに加え、計画書を交付することが必要となった。計画書の写しはカルテに添付することとされた。
[2]計画書の作成にあたり参考にすることとされている様式について、別紙様式21の2から別紙様式21の5までが削除され、別紙様式21に統合された。また、ADL評価にFIMまたはBIのいずれかを用いる等、様式の内容の整理・変更がされた。
[3]リハビリテーション総合実施計画書(以下、総合実施計画書)の様式について、別紙様式23の2から別紙様式23の4までが削除され、別紙様式23に統合された。また、内容も変更され、前半部分は別紙様式21と同内容とされた。

7.精神科専門療法
[1]通院・在宅精神療法:「1 通院精神療法」に療養生活環境整備指導加算(250点)が新設された(届出)。直近の入院においてB015精神科退院時共同指導料1を算定している患者であって、退院月の翌月末日までに当該保険医療機関を受診し、精神科を担当する医師の指示の下、保健師、看護師または精神保健福祉士が、療養生活環境を整備するための指導を行った場合に月1回に限り算定する。
[2]精神科訪問看護・指導料:「(Ⅰ)」(同一建物居住者以外に対する訪問看護)及び「(Ⅲ)」(同一建物居住者に対する訪問看護)について、「保健師、看護師、作業療法士又は精神保健福祉士による場合」の区分が、実施した職種によって「保健師又は看護師による場合」「作業療法士による場合」「精神保健福祉士による場合」に細分化された。

8.処 置
[1]人工腎臓:従前、HIF-PH阻害剤は人工腎臓に包括され、院内処方に限定されていたが、院外処方も可能とされ、HIF-PH阻害剤を院外処方した場合とそれ以外の場合に評価が分けられた。全体として点数は引き下げられた。
 HIF-PH阻害剤を院外処方し、人工腎臓を行う場合、HIF-PH阻害剤の服薬状況についてカルテに記載することとされた。
 他院でC102在宅自己腹膜灌流指導管理料を算定している患者について、自院においても週1回人工腎臓を算定できることとされた。
[2]J034-2経鼻栄養・薬剤投与用チューブ挿入術において、従前、挿入に際しての透視診断料、画像診断の費用は所定点数に含まれるとされていたが、当該点数の算定日に限り画像診断及び内視鏡等の費用は別に算定できると変更された。

9.入 院
[1]一般病棟入院基本料の急性期一般入院基本料にかかわる重症度、医療・看護必要度の基準が入院料1〜3で引き上げられた。該当患者基準ではB14「診療・療養上の指示が通じる」またはB15「危険行動」に該当する患者であって、A得点が1点以上かつB得点が3点以上の基準が削除された。また、A項目の一部及びC項目については重症度、医療・看護必要度Ⅰにおいてもレセプト電算処理システム用コードを用いることとされた。
[2]療養病棟入院基本料2の経過措置とされていた25対1配置(注11)は、2022年3月まで経過措置が延長された。しかし、減額幅は15%に拡大された。一方、注12の20%減算は廃止された。
[3]療養病棟入院基本料に含まれず別途算定できる注射薬(除外注射薬)に、エポエチンベータペゴル(ミルセラ®)が追加された。ただし人工腎臓または腹膜灌流を受けている患者のうち腎性貧血状態にあるものに対して投与された場合に限られる。医療区分3の評価項目のうち「中心静脈栄養を実施している状態」については、毎月末に中心静脈栄養を必要とする状態に該当しているかどうかを確認し、カルテに記載しておくこととされた。
[4]データ提出加算の届出が、許可病床数200床未満の病院であっても、回復期リハビリテーション病棟入院料5・6、療養病棟入院基本料を届け出るための施設基準とされた(2022年3月末までの経過措置がある)。

10.その他
[1]「医療資源の少ない地域」の一部が変更され、兵庫県下で新たに但馬医療圏の豊岡市・養父市・朝来市・香美町・新温泉町が対象となった。
〈届出について〉
[1]2020年3月31日現在届出を行っている施設基準の要件に変更がなく、引き続き要件を満たしている場合は、改めて届出を行う必要はない。
[2]施設基準の定められた新設点数や、施設基準が変更された既存点数(小児科外来診療料など)を4月以降引き続き算定する場合は、地方厚生(支)局等に届出を行う必要がある。2020年4月については20日までに届出書の提出があり、同月末日までに要件審査を終え、届出が受理されたものについては4月1日に遡って算定することができる。
[3]経過措置が設けられた点数については、経過措置が終了するまでに改めて基準を満たした上で届出を行う必要がある。
2020年度 診療報酬改定の要点〈歯科〉
医療機関を選別し、長期維持管理へ誘導
 政府は「骨太方針2019」で「口腔の健康は全身の健康にもつながる」として、「歯科重視」を掲げていたが、今次診療報酬改定は前回0.69%を下回る0.59%のプラスにすぎず、さらに金パラ「逆ザヤ」が解消されないもとで、歯科医療危機の打開にはほど遠いものである。
 また、歯科医療機関の選別路線を拡大するともに、歯科疾患管理料の見直し、「歯周病重症化予防治療」の新設などで長期維持管理に誘導するものとなっている。
 一方、協会は診療報酬改善を求めて、厚労省要請や国会要請を繰り返して会員の声を届けてきた結果、一部で改善を実現することができた。
 協会歯科部会は、引き続き、診療報酬の改善・保険適用の拡大・窓口負担の軽減へ、国民とともに「保険でより良い歯科医療」を求めて運動を強めていくものである。以下、主な改定内容について紹介する。
〈主な改定項目〉
1.基本診療料の施設基準の拡大
 基本診療料の施設基準届出に、診療補助や器具の洗浄などに従事する職員についても院内感染防止対策の研修実施の報告が義務付けられた。院内研修であっても良い。届出をした医療機関は基本診療料が引き上げられ、歯科初診料が10点増の261点、歯科再診料が2点増の53点になった。届出をしていない場合の初再診料は据え置かれた。届出の有無に関係なく全ての歯科医療機関が院内感染対策を行っているなかで、施設基準をさらに設けて基本診療料に格差を設ける仕組みは廃止すべきである。さらに、歯科疾患管理料の初診月はマイナス20点とされたため、基本診療料の引き上げは見せかけにすぎないものである。

2.歯科疾患管理料の見直し、長期継続管理への誘導
 歯科疾患管理料の初診月の算定が、100分の80に減算され80点になるが、臨床上納得が得られない減算である。初診月から6カ月を超える場合は「長期管理加算」が導入され、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)は120点、それ以外は100点を加算することとなった。同じ診療行為に対する一物二価の問題点が歯管にも拡大された。
 一方で、協会・保団連の要求が実現し、初診月から2カ月以内に算定しないと以後、歯管が算定できなくなる縛りが解消され、初診月から3カ月以降に初回の歯管を算定できることとなった。

3.歯周病重症化予防治療の新設
 歯周病安定期治療(SPT)の対象外の歯周病患者に対する継続的な治療として、歯周病重症化予防治療(P重防)が新設された。歯数に応じて1歯〜9歯は150点、10歯〜19歯は200点、20歯以上は300点をそれぞれ算定する。対象は、「歯管または歯在管を算定し、2回目以後の歯周病検査の結果、歯周ポケットが4ミリメートル未満」「部分的な歯肉の炎症またはプロービング時の出血が認められる状態」の歯周病患者とされた。3カ月に1回の算定で、SPTとP重防は3カ月に1回移行できることから、歯管と同様に長期継続管理の一環である。具体的な治療の流れなど不明な点が多く、疑義解釈通知などは出されていない中で4月から導入することは診療現場に混乱をもたらしかねない。

4.世代別の口腔機能管理の評価、医科との連携
 高齢者等の口腔機能管理では、口腔機能管理加算(口機能)が口腔機能管理料100点として独立した。口腔機能の低下が疑われる患者への舌圧検査が、6カ月に1回から3カ月に1回算定できることとなった。小児の口腔機能管理は、小児口腔機能管理加算(小機能)が小児口腔機能管理料100点として独立した。両管理料とも、歯管と異なる日でも算定でき、歯科特定疾患療養管理料(特疾患)算定患者も対象になった。しかし、それぞれ100点のままであり大幅な引き上げをすべきである。また小機能は長期継続管理を行わざるを得ない上、指導・訓練は月に複数回におよぶ場合があり月1回のみの制限撤廃が求められる。
 口腔機能発達不全症の診断について、従来、小児口腔機能管理加算の対象外とされていた、歯の萌出していない患者に対する口腔機能の指導・管理が新たに導入された。
 口腔機能発達不全症の診断を目的とする、小児口唇閉鎖力検査100点が新設された。3カ月に1回算定できる。
 医科との連携では、医科医療機関から文書提供を受けた糖尿病患者に対する機械的歯面清掃処置の毎月算定、周術期等口腔機能管理計画策定料の対象範囲の拡大、診療情報提供料Ⅲ(情Ⅲ)の新設など評価が拡大した。協会は、今回の改定を受けて、引き続き医科歯科連携の推進を強めていく。
 小機能の独立、小児口唇閉鎖力検査の新設、診療情報提供料Ⅲの新設は、協会が近畿ブロックとともに会員の強い声を、厚労省に届けて何度も交渉した結果、実現したものである。

5.処置、手術、歯冠修復・欠損補綴関連の点数引き上げや適用拡大
(1)処置関連の点数引き上げや適用拡大
[1]抜髄、感染根管処置、根管貼薬処置の点数が全ての根管で引き上げられた。また、3根管以上の場合の根管充填や加圧根管充填処置の点数が引き上げられた。加圧根管充填処置を行った患者に、歯冠修復完了後6カ月を経過し、再度の感染根管処置を行う場合、電気的根管長測定検査、根管充填処置、加圧根管充填処置がそれぞれ必要に応じて算定できることが通知に明記された。
[2]咬合調整は、同一初診期間中1回限り算定とされていたが、前回算定した日から起算して6カ月を超えた場合は、算定できることとなった。
[3]手術用顕微鏡加算400点の適用が、3根管以上で複雑な解剖学的根管形態を有する歯に対する加圧根管充填処置および根管内異物除去においても加算できることとなった。
[4]歯髄保護処置が34点に、スケーリングが72点に、機械的歯面清掃処置が70点にそれぞれ引き上げられた。除去の困難なものが42点、著しく困難なものが70点に引き上げられた。
(2)手術関連の点数引き上げや適用拡大
[1]埋伏歯抜歯が1054点に、下顎完全埋伏智歯の加算が120点に引き上げられた。
[2]顎関節授動術の「徒手的授動術」の算定には、パンピングや関節腔洗浄療法の併用が必要だったが、徒手的授動術を単独で実施した場合も440点が算定できることとなった。
[3]手術の際の麻酔薬剤料が算定できることとなった。
[4]静脈内鎮静法については、術中だけでなく、術前・術後の管理に配慮し、120点から600点に引き上げられた。算定要件に変更はない。
(3)義歯新製にかかる算定ルールの変更
[1]ア.新製有床義歯管理料(義管)の「困難な場合」が、臼歯部の咬合関係にかかわらず、総義歯か9歯以上の義歯を装着した場合に算定することとなった。その一方で、例えば少数歯欠損の新製義歯を装着する場合で、対顎に総義歯が装着されていた場合であっても算定できなくなった。イ.アの変更に併せて、歯科口腔リハビリテーション料1の困難な場合も、調整や指導する義歯が総義歯か9歯以上の義歯の場合に限られた。ウ.アの変更に併せて、有床義歯咀嚼機能検査の対象も臼歯部の咬合関係に関係なく、装着する義歯が総義歯、9歯以上の義歯または両側7番を含む臼歯4歯欠損の義歯かで判定することとなった。
(4)歯冠修復・欠損補綴関連の新たな評価や適用拡大
[1]ア.CAD/CAM冠の対象が上顎の6番にも拡大された。下顎の6番に対する場合と同様に、上下顎両側7番がすべて残存し、左右の咬合支持がある場合に算定できる。イ.従来のCAD/CAM冠用材料(Ⅰ)が(Ⅰ)と(Ⅱ)に細分化され、従来のCAD/CAM冠用材料(Ⅱ)が(Ⅲ)に変更された。
[2]失活前歯の充填にあたり、歯冠部の破折防止のため複合レジンと併せて各種ポストを用いて行った場合、充填の点数に加え支台築造「2 直接法」を算定できることとなった。
[3]接着冠に対してサンドブラスト処理などの内面処置をした場合に装着料の内面処理加算2が新設され45点が算定できることとなった。
[4]在宅患者の臼歯単独冠に対し、シリコーンゴムを用いて咬合印象した場合、咬合印象140点が新設された。著しく歯科診療が困難な患者の場合または訪問診療料を算定する場合には所定点数に100分の70を加算することとなった。
[5]充形が128点に、充填単純なもの106点・複雑なもの158点に、レジンインレー単純なもの124点・複雑なもの176点に、支台築造印象が34点に、レジン前装ポンティックの大臼歯部の加算が60点にそれぞれ引き上げられた。また、レジン床義歯が引き上げられた一方、熱可塑性義歯は引き下げられた。
(5)新規技術の名称変更と点数の再評価
[1]乳歯冠の技術料を準用し2018年12月に導入された永久歯金属冠は、「既製金属冠」に名称変更された。点数は229点(材料料を含む)を算定する。乳歯金属冠と既製金属冠の総称が「既製冠」になった。
[2]間接歯髄保護処置を準用し2019年12月に導入された歯科用シーリング・コーティング材を用いたコーティング処置は、象牙質レジンコーティングの名称で独立点数となり、Hys処置と同じ46点で算定することとなった。生PZから装着までの間に1回算定できる。なおこの期間中は、Hys処は併せて算定できない。

6.金パラ「逆ザヤ」の即時解消求める署名にご協力を
 金パラの4月からの公示価格は62,490円(30g)にとどまり、解消にほど遠いものとなっている。今回の改定は歯科本体プラス0.59%とされているが、「逆ザヤ」拡大の現状では、実質大きなマイナスである。
 協会・保団連は、昨年から金パラ「逆ザヤ」問題についていち早く厚労省要請、国会議員要請を積み重ねてきた。即時解消のための緊急対応を強く求める。
 同時に、6カ月ごとの随時改定のシステムでは、現場の実勢価格と乖離が生じる。実態を反映した価格ルールへの見直しなどを求めて粘り強く運動を続けていく。
 協会が取り組んでいる金パラ「逆ザヤ」即時解消を求める署名運動では、たくさんの切実な声が寄せられている。国の政策を変えさせるためにも、全会員に署名へのご協力をお願いする。

7.歯科技工問題の抜本的解決を
 協会は、「保険でより良い歯科医療を」兵庫連絡会とともに、歯科技工士の就労や歯科技工所の経営を守るために、歯科技工問題の抜本的解決を求めてきた。
 今回の改定では、補綴物の技術料をわずかに引き上げたのみであり、歯科技工料問題の解決にはほど遠い。点数の引き上げに加えて、歯科技工物の保険点数決定プロセスの明確化と改善、実効ある取引ルールの明確化を求める。
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