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兵庫保険医新聞

2020年4月25日(1940号) ピックアップニュース

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新型コロナウイルス感染症 病診連携深め収束めざす

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県立丹波医療センター 
地域医療教育センター長 
見坂恒明先生
【けんざか つねあき】1975年生まれ。2000年自治医科大学卒業後、県立淡路病院、公立和田山病院、公立村岡病院、公立豊岡病院、自治医科大学地域医療学センター総合診療部門准教授などを経て、2015年神戸大学大学院医学研究科地域医療支援学部門特命教授に着任、県立丹波医療センター(旧県立柏原病院)地域医療教育センター長を兼任

 拡大が続く新型コロナウイルス感染症--。地域住民の診療で最前線に立たされることとなる開業医が注意すべきポイントは何か。初期に感染者を受け入れた県立丹波医療センターの見坂恒明地域医療教育センター長(日本感染症学会専門医・指導医)に、口分田真副理事長がインタビューした(2020年3月28日)。

感染者受け入れ公表地域住民の信頼に
 口分田 県立丹波医療センターは丹波地域の中核病院の役割を担っておられます。今般の新型コロナウイルス感染症でも、3月初旬に丹波市内の患者さんを受け入れたことをメディアに公表なされました。風評被害を気にする医師も多いと思うのですが、不安などはなかったですか。
 見坂 おっしゃる通り、当然、病院への風評被害も想定されました。しかし、「入院しているらしい」という漠然とした噂が広がるくらいなら、最初に堂々と公表したほうが良いだろうとの判断となりました。公表時には、発熱外来患者さんの動線は区別しているので、心配なくこれまでどおりに通院いただけることを併せて周知しました。外来患者さんは一時的に減少しましたが、公表後に回復しました。
 口分田 協会の調査でも、マスクなどの防護具の不足を訴える医療機関が多いことが明らかとなっています。病院でもマスク等の不足は深刻ですか。
 見坂 どの病院も同様かと思いますが、マスクの供給が追いつかず、当医療センターでも数日間は使い続けることを前提として使用せざるを得ない状況で、困っています。
 口分田 感染も世界中に広がっています。日本でも東京や大阪、そしてこの兵庫を中心に拡大し続けています。
 見坂 丹波地域では幸い、現時点では感染がほぼ広がっていませんが、大阪や神戸の現状を見るに、いつ急増してもおかしくない状況だと感じています。ただ、感染しても軽症や無症状の人が非常に多いので、重症化さえしなければ、命の危険にさらされることは少ないです。必要以上に不安になったり、感染しているのではないかと疑心暗鬼に陥るべきではないでしょう。
診療所は感染対策を第一に
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聞き手
口分田真副理事長

 口分田 開業医としては、感染者が事前の連絡なく診察室に来られ、院内感染が起こることを懸念しています。
 見坂 感染性の病気かどうかを受付の時点で判別して、発熱患者の動線を分け、待合室も分けることが重要になります。診察室も別のところにすることが望ましいですが、開業医の先生方ではそれぞれの医院で限界もあることかと思います。マスク着用や、手洗いの徹底、トイレの消毒など、感染リスクを少しでも下げることが重要です。
 口分田 患者さんは受診すると感染するのではないかと心配して、受診を抑制しているように感じます。
 見坂 外来患者減は医院経営の課題ではありますが、それ以上に重大なのは、慢性疾患の適切なコントロールができなくなることです。受診が不安なのであれば、状態が安定した患者さんなら電話でも良いので、定期的に様子を聞くことが重要になります。
 口分田 この間の全国の休校措置では、小さい子どもがいる職員の勤務時間などを調整する必要に迫られ、困りました。また病院では、院内感染が発生した場合多くの職員が自宅待機となる懸念もあります。診療体制への影響が大きいのではないでしょうか。
 見坂 院内感染が発生すると外来診療の縮小・休止や救急の受け入れ停止など、地域医療に多大な影響が出てしまいます。そうならないために重要なことは、職員、特に患者さんと接触することが多い看護師や窓口対応の職員が、出勤前の健康をチェックして、体調不良があれば進んで休みをとることです。出勤職員は減ってしまいますが、対策として病床稼働率を落とし、急ぎでない外科手術や検査入院は、あらかじめ延期することで対処可能です。
 口分田 感染拡大を目の当たりにすると、病床数は足りているのか、医療崩壊は起こらないかが心配です。
 見坂 病床は地域によっては不足することも考えられますので、地域間で融通することも必要です。丹波以外の近隣市町で感染者が発生したときには、当院で受け入れることも想定しています(現在はすでに受け入れを実施)。軽症患者をホテルや自宅に待機として、入院を重症患者に限定することも重要なことです。
おすすめは「新型コロナウイルス問題集」
 口分田 開業医としては、患者さんの不安をなるべく減らしたいのですが、どういう情報を提供すべきですか。
 見坂 感染しないために「3密」を避けることはもちろんですが、感染者の多くは無症状や軽症で済んでいるので、過度に心配することはないということも伝えていただきたいですね。逆に高い熱が続いたり、咳が長く続くときは、帰国者・接触者相談センターに相談することも併せて強調してほしいです。
 口分田 開業医が診察や病院への紹介で注意しなければいけない点は何でしょうか。
 見坂 まずは医療従事者を守るため、基本は一般的な感染対策を改めて徹底することです。私も口分田先生も学会員である日本プライマリ・ケア連合学会発行の『新型コロナウイルス感染症 診療所・病院のプライマリ・ケア初期診療の手引き』では、プライマリ・ケア医がすべきポイントを3点挙げています(図1)。また、「診療時の感染予防策」では、感冒様症状の患者を診療する際の標準予防策として、飛沫感染、接触感染、空気感染対策を示しています。対応できない点があれば、対応可能なほかの診療所を紹介することが、感染を広げない上で重要かと思います。ぜひこの手引きをご覧ください。
 口分田 診断や紹介で注意すべき点は何でしょうか。
 見坂 感染がさらに拡大すると、病院だけでの対応には限界が来ることは容易に想像できます。その時に地域で先頭に立つのは、開業医の先生方となりますので、病診連携がこれまで以上に重要になるでしょう。そのためには、医師や看護師に正確な知識を備えていただくことが重要です。私がおすすめしたいのは、ネットで閲覧できる「新型コロナウイルス問題集」です。選択式の10問程度の問題を解くだけで、基本的な知識が身につきます(図2)。
 感染が疑われる患者さんに対しては、手順に従って医療機関を紹介し、必要な患者に対して適切にPCR検査を行うことが大切です。また、発熱や咳の症状がある患者さんは病院にただ紹介するのではなく、感染対策を講じた上でインフルエンザ等の検査を実施し、必要に応じて採血、レントゲンなど肺炎の鑑別に必要な検査を行ってほしいです。濃厚接触者は健康福祉事務所経由で紹介いただけたら、スムーズに検査につなげられます。当院の場合は、隣接して丹波市立ミルネ診療所があります。発熱外来も実施し、動線も分けられる構造ですので、そちらでまず診療を受けて、重症者は当院に入院するという形が理想的です。
 ただ、問題は重症者が急増したときです。日本は死亡者数が非常に少ないですが、今後入院患者増加により診療が回らなくなれば、医療崩壊も考えられます。当院にも、人工心肺装置エクモは使用可能で、重篤患者にも対応できますが、数は少ないので、重篤患者が増えるとすぐに治療困難な状態となります。
国民各々に必要な補償を
 口分田 感染者の増加を抑制することが重要ということですね。感染拡大防止には、行政の取り組みも重要だと思いますが、いかがでしょうか。日本国内のPCR検査の実施件数については、さまざまな意見がありますが。
 見坂 日本で可能なPCR検査の数は限りがあるので、より重症な人への必要な検査を徹底して、自宅待機が可能な軽症者へは検査を少なくすることを求めたいです。軽症者への検査を増やしてしまうと、検査体制のパンク、入院などの医療のキャパシティの面での不安、さらには陽性になったときの感染者の行動制限や、周囲や近所の人への風評被害などのデメリットも想定されます。地方では感染者が少ないことからも、政府が人の往来を制限することや自粛要請には効果があるように思います。
 一方で全国一律の休校は疑問です。家庭への影響が大きいため、3月初旬の時点では、感染者数が少ない地域は対象から外すなど、地域ごとの実情を踏まえるべきでしょう。また、自粛と補償はセットであるのが望ましいです。院内感染が発生し、診療を縮小・休止した医療機関への補償も必要でしょう。
 口分田 補償も含む必要なあらゆる措置を講じて何とか医療崩壊を防がねばいけませんね。院内感染拡大や、収束が見通せないことから、医療従事者の中に閉塞感が漂っていると思います。感染症拡大時には、公立・公的病院が果たすべき役割は一際大きくなると思います。長期の自粛に対応できるよう、協会も政府に対し、影響を受ける全ての人への補償を求めていきます。本日はどうもありがとうございました。

図1 日本プライマリ・ケア連合学会が発行している「新型コロナウイルス感染症 診療所・病院のプライマリ・ケア初期診療の手引き」より
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図2 新型コロナウイルス問題集
新型コロナウイルスに関する知識確認のための問題集【医療職向け】
新型コロナウイルスに関する知識確認のための問題集【一般職向け】
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