兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2020年7月15日(1947号) ピックアップニュース

燭心

 新型コロナウイルス感染症は、なお世界中で拡大している。特にアメリカでは1日の新規感染者数が5万人を超えている。おそらく罹らないし、罹っても軽く済むだろうと考える若者が「接触」を求め「移動」し、感染を広げている▼このウイルスは、人間の移動と接触を制限する。だが、移動と接触は、人類が歩んできた一方向の道のりだ。もともと森や林を住処としていた初期猿人は、直立二足歩行を得ることで、草原を滑らかに歩き、発達した脳と手で道具を使用し始めた。やがて武器を手に入れ、生存競争で優位に立つ。その後も移動と接触を重ねながら、最後にホモ・サピエンスが世界中を制覇した。▼移動の理由は、当初は、気候変動から逃れ、豊富な水や食料を求める生存目的だったが、権力者の登場により、さらなる富と欲望から他民族や他国民を圧迫するようになった。大航海時代になると、移動と接触は、先住民の駆逐や征服、植民地化をもたらした。虐殺と強制労働(奴隷)が蔓延り、さまざまな感染症を持ち込んだため、先住民族を激減させたという歴史もある。近代では移民と名を変え、産業の下流行程を低賃金で引き受けている。▼今回も指摘されている「超過死亡」は、感染症流行時に弱者が多く亡くなることで、その後の死亡者数が減少することから「弱者刈り取り効果(Harvesting Effect)」とも言われている。移動と接触によって、多くは貧しい国や人々がひどい目にあう。考え直す機会かもしれない。(空)
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