兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2020年9月25日(1953号) ピックアップニュース

声明
医師の長時間労働を放置する「令和2年医師需給推計」を改め抜本的に医師養成数を増やすことを求める
兵庫県保険医協会 第1118回理事会

 厚生労働省の医師需給分科会が8月31日、「令和2年医師需給推計の結果」を明らかにしたことを受け、協会は9月12日の第1118回理事会で、医師養成数の増員を求める右記の声明を採択し、厚生労働省など関係機関に送付した。以下に声明の全文を掲載する。

 厚生労働省の医療従事者の需給に関する検討会医師需給分科会は8月31日、「令和2年医師需給推計の結果」を明らかにした。この推計結果はこれまでの医師需給推計と同様に、その論拠が極めて恣意的であると言わざるを得ない。
 第一に、医師需要について「現在の医療体制で、必要な医療サービスについて概ね提供できている前提」に立つため、現在の地域における医師不足を全く省みないだけでなく、将来の医学や医療の高度化や複雑化、専門分化を軽視した推計となっている。
 第二に、医師の労働時間を最も短縮するとするケースでも、年間720時間という一般労働者の労働基準法上の上限にあたる時間外・休日労働を想定している。これは、現在政府方針のもと、厚生労働省がその実現に向けて取り組む「働き方改革」に逆行するものである。しかも、そうした長時間労働を医師に強いてもなお、2032年までは需給均衡を達成できないという推計結果は、極めて深刻な医師不足が起こっている現状を厚生労働省が自認するものである。この現状を招いた過去の医師養成政策の誤りを率直に認め、決して繰り返すべきではない。
 第三に、「医師需給推計の結果」では、「現在の医学部定員数が維持された場合、2027年頃に人口10万人対医師数がOECD加重平均に達する見込み」としているが、この間OECD各国では人口当たりの医師数が増加を続け、27年になってもその時点のOECD加重平均に届かないことは容易に予想できる。そもそも、人口当たりの医師数がOECD加盟38国の中位に達した程度では、世界で最も高齢化が進む日本の医療を支えるために必要な医師数であるとはいえないのは当然である。
 第四に、そうした医師の絶対数不足が明らかであるにもかかわらず、都道府県に策定が義務付けられた「医師確保計画」等の施策が、あくまでも地域偏在対策でしかなく、医師養成数をこれまで同様に抑制するという方針では、医師を疲弊させ、日本全体の医療提供体制を脆弱化させることは明らかである。
 最後に、新型コロナウイルス感染症により日本の医療提供体制の脆弱性が明らかになった。その一つに集中治療医や保健所等で勤務する医師の不足があげられている。今後も繰り返される新興感染症に備えるためには、平時から余裕のある医療提供体制が望まれる。
 政府はこれまでの政策を抜本的に改め、地域医療を充実させ、国民の命と健康を守るために、医師養成数の拡大とそれを支える医療費の拡大を行うべきである。
以 上
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