兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2020年9月25日(1953号) ピックアップニュース

主張
建物解体に伴うアスベスト飛散 住民による監視強め改善させよう

 建物の解体工事における不適切な対応によりアスベストが飛散し、住民の健康が危険にさらされる例が全国で相次いでいる。
 このアスベスト飛散を防止するには、何よりも正確な事前調査が重要となる。
 解体に着手する前に事業主が調査して、役所に届けることになっているが、当然、両者には適切さや公正さが求められる。法や条例は性善説を前提にしているが、世の中そんなに甘くはなく、残念ながらずさんな工事が横行している。
 アスベスト除去には多額の費用が掛かるため、これを隠そうとすることは何も不思議ではない。すなわち、事業主による過少申告を、役所や住民はどのように見破るかが問題となる。事業主の過少申告「アスベスト隠し」に対して、役所は届けられた場所だけ、アスベストが適切に除去されたかを確認するが、それ以外のアスベストの有無までを調べる責務は負っていないと主張する。すなわち、「アスベスト隠し」はすべて事業主の責任であるとするお役所の論理である。
 しかし、安全で安心できる社会のために、役所はさまざまな権限を付与されており、その積極的な行使が求められる。役所が権限を行使しなければ、現場は無法地帯となり、住民は日常的にアスベスト曝露を受けることになる。残念ながらこれが現実だ。
 環境省が作成した「リスクコミュニケーションガイドライン」では、これら三者に対して情報公開に基づく十分な説明により互いの信頼関係を築くことを説いている。これも性善説であり、これを実現させるには住民による積極的な関与が不可欠であるが、負担は大きい。数十年後に発病という曖昧さや、無味無臭で微細なため曝露に気づかないことがアスベスト特有の問題で、誰も責任を感じていない。子どもたちが成人したときに重篤な病になるようなことは許されない。
 本年6月に大気汚染防止法が改正されて、事前調査は資格を有する者が行うということがやっと加えられた。しかし、工事中のアスベスト濃度測定や除去後の完了検査は、関係者らの強い求めにも関わらず、またもやスルーされた。役所や事業主から独立した第三者機関によるこれらの検査は、誰もが常識と考えるがその実現はまだまだ遠い。
 住民としては、身近な工事現場に監視の目を注ぎつつ、役所に対しても情報公開を求めるなど権限不行使をチェックすることが重要だ。大変だが、役所・事業主の意識が変わるよう、積極的な働きかけが必要だ。
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