兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2021年5月15日(1973号) ピックアップニュース

「保険でより良い歯科医療を」兵庫連絡会「2021年歯科技工所アンケート」結果
歯科技工所の疲弊した実態 浮き彫りに

 歯科技工所(以下、技工所)では、低収入・経営難が恒常化し、若手技工士の離職率も高い状態が続いている。歯科技工士養成学校の閉鎖も相次ぐなどの厳しい状況から、〝10年以内に歯科技工の担い手がいなくなる〟との指摘もある。協会も参加する「保険でより良い歯科医療を」兵庫連絡会(以下、兵庫連絡会)は、コロナ禍における歯科技工士の現状把握と問題解決へ向けて県内の歯科技工所を対象に「2021年歯科技工所アンケート」を実施した。詳細を紹介する。

顕著な技工士の高齢化

 技工所管理者の年齢分布を見てみると、60代が一番多く、48.3%。次いで50代が20.0%、70代も15.0%であった。一方で20,30代は皆無で、技工業界の高齢化が伺える(図1)。
 事業所形態は、個人事業所が86.7%、法人事業所が13.3%。従業員数は1人が70.0%、2~4人が21.7%、5~10人が1.7%、11~20人が5.0%、51人以上が1.7%と、圧倒的多数が個人立・技工士1人体制であり、零細な経営事情が明らかになった。

週労働時間60時間超が6割

 1週間の労働時間を見ると、60時間超が60.0%にのぼる(図2)。1週間の休日についても週1日以下の技工所が83.3%にのぼっており、過酷な労働環境が示されている。

コロナ禍で技工物が激減

 2019年の1~12月と2020年の1~12月の比較では技工物の数が「減少した」と答えた技工所は80%以上。「50%以上減少」と答えた技工所も15.0%あり、昨年からの新型コロナウイルスの感染拡大に伴って技工所にも大きな影響が出ていることが分かった(図3)。特に減少した技工物を複数回答可で聞いたところ義歯が50.0%、クラウンが35.0%、ブリッジが35.0%、インレーが26.7%、CADが10.0%との結果となった。
 ただ、「技工物の数が減少した」と答えた技工所のうち、「対策を立てた」と答えた技工所は44.0%。「何もしていない、できない」は48.0%、無回答が6.0%と、コロナ禍においても有効な策を講じられていない。

技工所にも医療機関並みの感染対策支援を

 新型コロナ禍で国や県に望むことを複数回答可で聞くと「医療機関、薬局、介護施設等を対象とする感染対策事業を技工所にも適用する」が55.0%と最も多く(図4)、意見欄にも「歯科医院で預かる模型には唾液が付着している可能性があり、感染する可能性もある」などの意見が出された。兵庫連絡会が感染拡大防止等支援事業や慰労金等の対象に歯科技工所を加えることを求めている件については90.0%が賛同した。

直接保険請求の願い

 「適正な技工料金を保証するためにどのような方策が有効だと思いますか(複数回答可)」との問いに対しては「保険請求の技工所直接請求」が66.7%と最も多く、続いて「7対3」ルールの徹底が56.7%と続いた(図5)。直接請求の実現にはさまざまなハードルがあるが、自由意見では「歯科医師は保険点数が決まっているのに、技工料金は歯科医師と自由交渉になっているのはおかしい。製作時間に相応の料金が技工士に支払われるように考えてもらいたい」など切実な声が寄せられた。

孤立化する技工士?

 「普段から事業に関して相談する場所はありますか(複数回答可)」との問いに対しては「歯科技工士の仲間」が35.0%あったものの、「特になし」が46.7%と最も多く、先に見た事業所形態の傾向からも、問題を抱えても相談する先があまりない現状が伺える(図6)。

「離職者が後を絶たない」

 自由意見では「キャパオーバーで断っている仕事もたくさんあるんです。仕事を発注できる技工所がなくなって困っていらっしゃる歯科医の先生も大勢います。やりたくてもやれないんです。人がいない。仕事を請けても儲からない。国は何も変えない。こんな夢のない業界に誰が残りたいと思いますか?」「一つの補綴物を作るのに時間がかかるため、他の業種業界に比べ、1時間あたりの1人の売上と粗利が低すぎます。長年にわたり問題視されながら何の解決策もないため、離職者が後を絶ちません。国が技工士の取り分を明確にし、対策していただくことが何よりの解決策であると思います。その分歯科医院に対しては診療における保険点数を引き上げ、仕事内容としてしっかり住み分けされた業界にしていかないといけないと思います」などの意見が寄せられた。
 これらからも、日本の歯科医療・歯科技工は長時間労働や低賃金のもと、技工士の懸命な奮闘によりかろうじて支えられていると言える。ただ、コロナ禍によるさらなる経営の圧迫は甚大で、現状のままでは、歯科医療の根幹をなす歯科技工が成立しなくなるおそれもある。兵庫連絡会は、今回のアンケート結果を元に、市民や技工所と力を合わせ、歯科技工問題の解決をめざして引き続き取り組んでいく。
 以下に「アンケート結果を受けての兵庫連絡会からの提言」を紹介する。

兵庫連絡会からの提言

・コロナ禍における歯科技工所への打撃を踏まえ、直接の運転資金の援助や、無利子無担保の融資制度など早急に支援策を講じてください。
・「7対3」の厚生大臣告示に即した委託技工取引を実現するために、補綴を中心とした基礎的技術料を抜本的に引き上げてください。また、「7対3」実現のために、実効性のあるルールを確立してください。
・技術力と原価を正確に反映した技工物の保険点数決定システムを確立してください。その際決定のプロセスを公開してください。
・歯科技工士の養成がどの地域でもできるように対応策を講じてください。

アンケート調査の概要

調査期間 2021年3月1日~3月31日
送付先 県内の歯科技工所550カ所
実質送付件数 500件(50カ所が不達)
回答数 60件
回答率 12.0%
回収方法 封書にて送付・回収
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