兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

兵庫保険医新聞

2021年6月25日(1977号) ピックアップニュース

特集 2021年県知事選 政策解説
5年間に県下で715床を削減

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、全国的にこれまでの医療提供体制の脆弱性が明らかになった。これまでの兵庫県の医療提供体制はどうだったのか検証したい。

公衆衛生行政の切り捨てが招いた新型コロナ禍
 新型コロナ禍において、保健所は、帰国者・接触者相談センターとしての機能やPCR検査、検体搬送、積極的疫学調査として感染源の追究や濃厚接触者抽出、入院調整、移送、医師会・医療機関等との連絡・調整などを担っている。
 当初、日本のPCR検査数が他国と比べて非常に少ないことが大きく取りざたされた。さらに、この間の「第4波」では、保健所が感染者の重症度から、医療介入の必要性を判断しているが、医療機関からは保健所が機能不全に陥っているとも言われている。
 これらの背景には保健所の統廃合など公衆衛生行政の切り捨てがあると指摘されている。政府は1994年に、それまでの保健所法を地域保健法に改定するとともに、「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」を発出し、従来人口10万人に1カ所とされていた保険所所管区域を一気に2次医療圏単位とした。これにより全国的に保健所は統廃合され、1994年当時625カ所あった都道府県保健所は2017年には363カ所にまで減少した。兵庫県でも2000年に県内に29カ所あった保健所が2021年には17カ所へと統廃合された(図1)。背景には国や都道府県の医療・社会保障費抑制政策がある。
 しかし、兵庫県では新型コロナ禍以前より持ち上がっていた芦屋保健所を宝塚保健所に統合する計画をいまだに進めている。兵庫県のこの姿勢は、とても新型コロナウイルス感染症から県民の命と健康を守るものではない。
病床削減をとめる気がない兵庫県
 新型コロナ禍では、新型コロナウイルス感染患者用の病床や重症者用病床の逼迫が問題となっている。現時点で兵庫県のコロナ患者用の病床は人口10万人あたり21.3床であり、全国平均の30床に遠く及ばない。さらに、重症者用の病床についても、同様に2.5床で全国平均の3.5床という水準に達していない。それぞれ、全国平均の水準まで整備するためには、新型コロナ患者用の病床を490床、重症者用病床では53床が必要となる(図2・3)。
 このように緊急的に新型コロナ患者用の病床を確保できない背景には、公立・公的病院の統廃合がある。2014年、医療介護総合確保推進法の成立を受けて、都道府県において地域医療構想を国のガイドラインに沿って策定し、推進することとされた。これに沿えば、各都道府県は今後の人口減に合わせて地域の病床を削減することになる。兵庫県では2016年に5万3747床あった病床が2021年には5万3032床に、715床が削減されている(図4)。この多くは県立病院をはじめとする公立・公的病院の統廃合によるものである。
 確かに地域医療構想の策定は都道府県に法的に課された義務である。しかし、都道府県によって国の策定ガイドラインをそのまま用いず、地域の医療ニーズに合わせてきめ細やかな計画を策定しているところもある。
 たとえば、京都府では地域医療構想で2016年の水準を最低水準として確保する計画を立てており、どの2次医療圏にも病床削減計画は掲げられていない。結局、兵庫県は国の言いなりに地域医療構想を策定し、病床削減を進めてきた結果、新型コロナ禍にあっても、必要な病床を確保できなかったと言える。
 この地域医療構想については、新型コロナ禍を受けて、病床削減ありきの計画は見直すべきだとの声が各界から上がり、厚生労働省も地域医療構想に感染症対策を盛り込むことを決めた。しかし、兵庫県は厚労省のこの方針転換について、計画の見直しを行うとしながらも、最終的に5万2445床までに病床を削減する計画を堅持している(図4)。
 兵庫県は、国の医療費抑制政策を受けて公衆衛生行政や必要な病床整備を蔑ろにしてきた。このような県政では県民の命と健康を新型コロナウイルス感染症から守ることはできない。
知事選挙を医療提供体制充実のチャンスに
 7月18日には兵庫県知事選挙が行われる。これまで5期20年を務めた井戸敏三知事の退任に伴い、井戸知事と自民党の一部が推薦する前副知事の金澤和夫氏と、維新の会と自民党の一部が推薦する前大阪府職員の齋藤元彦氏、元兵庫県議で協会も参加する「憲法が輝く兵庫県政をつくる会」が推薦する金田峰生氏らがすでに立候補を表明している。
 金澤氏は公約で「感染状況に機動的に対応できる病床体制を確保します」「兵庫県版CDC(疾病予防管理センター)を司令塔として、政令市・中核市の保健所も含めた県内保健所の一体的な連携体制を構築します」などとしている。また、齋藤氏も「感染症病床を増床します」「『コロナ病床確保計画』を定めます」「保健所の体制を強化します。職員の増員をもっと機動的、大胆に行うほか、市町の消防署とも連携し入院調整や搬送業務の円滑化を図ります」としている。
 どちらも県民世論を意識して、感染症病床の充実や保健所の体制強化を打ち出しているが、その実効性には疑問符をつけざるを得ない。
 というのも、金澤氏は新型コロナ感染症流行下で、井戸県政を副知事として支えた人物である。副知事でありながら、新型コロナ対応病床を抜本的に増やすことができなかったことはもちろん、県の病床削減方針に異を唱えることもしてこなかった人物である。また金澤氏は井戸知事の後継を自任しており、とてもこれまでの医療・社会保障軽視の井戸県政の転換などできるとは考えられない。
 また、齋藤氏も大阪府の財政課長として、維新の会の大阪府政を支えてきた人物である。大阪府では、橋下前知事時代に、徹底して保健所を統廃合したことや、大阪府市の維新政治が、公的病院を地域の反対を押し切って統廃合したことにより、新型コロナによる被害を拡大させたと言われている。齋藤氏もまた、医療・社会保障の充実を担うことはできないのではないだろうか。
 金田氏は私たちの「開業保険医の要求案」を全面的に支持し、協会は、金田氏の支持推薦を決定した。金田氏にはぜひ、開業保険医の重点要求案にある県内の医療提供体制の充実に取り組んでほしい。

図1 井戸県政下で保健所の数は4割減
1977_03.gif

図2 全国平均より少ない兵庫県の新型コロナ患者用ベッド
1977_04.gif

図3 重症患者用ベッドも全国平均より少ない
1977_05.gif

図4 コロナ感染拡大後も病床削減を続ける方針
1977_06.gif

バックナンバー 兵庫保険医新聞PDF 購読ご希望の方