兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

兵庫保険医新聞

2021年7月15日(1979号) ピックアップニュース

特集 2021年県知事選 県知事選挙特集 政策座談会
保険医の要求実現のために投票へ行こう

1979_06.jpg

西山 裕康理事長

1979_07.jpg

水間 美宏理事

1979_08.jpg

坂口 智計理事

 7月18日投開票の兵庫県知事選挙にあたって、政策部ではこれまでの兵庫県政を医療政策を中心に振り返るとともに、協会が支持推薦する金田峰生候補をはじめ、主要な候補の公約等について議論した。司会は加藤擁一政策部長。参加者は西山裕康理事長、武村義人・川西敏雄両副理事長、水間美宏・坂口智計両理事。

全国的にみても不十分な県の新型コロナ対策

 加藤 まずは新型コロナウイルス感染症対策について、これまでの兵庫県政を振り返っていきたい。
 武村 この間の兵庫県の新型コロナ対策は他の都道府県に比べても非常に不十分だったと言わざるを得ないだろう。具体的には、PCR検査の少なさ、確保した新型コロナ感染患者用の病床の少なさ、ワクチン接種の進捗どれをとっても不十分だと思う。PCR検査について、高齢者施設でのクラスター発生を防ぐために、定期的な検査を行うよう、国は求めている。兵庫県では1159施設が対象になったが、5月下旬で263施設しかできていなかった。大阪府は1450施設を対象に2週間ごとに検査をしており、同時期にのべ1846施設に検査を行っている。兵庫県は、緊急事態宣言が出されていた他の9都府県に比べ半分以下の水準だと言われている。県は「1日に検査できる量が限られている」としているが、1年以上経っても、他の都道府県のようにPCR検査体制を整備してこなかったということだと思う。厚労省の担当官からも「定期的な検査をせずに感染拡大を防止できるのか」と言われる始末だ。
 水間 さらに病床確保についても、兵庫県の新型コロナ患者用のベッドは人口10万人当たり21.3床で全国平均の30床に及ばない水準だ。全国平均まで整備しようとすれば、さらに490床を整備する必要がある計算になる(図1)。重症者用のベッドも同様で、人口10万人当たりの全国平均が3.5床なのに対し、兵庫県では2.5床しかない(図2)。こうした状況が第4波における悲惨な状況を作り出したと言えるのではないだろうか。
 西山 第4波における病床の逼迫は非常に厳しいものだった。私たち一般診療所の開業医にも、保健所から自宅療養をしている新型コロナ患者に対する往診依頼が行われた。保健所から要請のあった例では、看取りまで含めて対応してほしいとの依頼もあり、当初であれば確実に入院ができた重症患者も自宅療養という名の自宅待機が行われていることがうかがえた。
 川西 医療現場に大変な負担をかけながら、県知事の発言や対応はひどいものだった。当初は国が決めた医療従事者への給付金も、「何もしていないのに、なんで慰労金を出すのか」などとして、一律に給付しない意向を示した。また、感染拡大に伴う医療現場の混乱や営業の自粛要請に応じている飲食店の苦労を蔑ろにして、「フェイスシールドがOKならば、飛沫感染防止で、うちわだとか扇子もOKなはず」と、飲食店に32万本ものうちわを配布すると発表して物議をかもした。

病床逼迫を招いた国言いなりの医療政策
1979_09.jpg

司会 加藤 擁一副理事長

1979_10.jpg

武村 義人副理事長

1979_11.jpg

川西 敏雄副理事長

 加藤 確かにこの間の兵庫県の新型コロナウイルス感染症対策は極めて不十分だったが、その背景には何があったと考えるか。
 川西 それは、医療費抑制政策を進めてきた国の言いなりで県が医療政策を進めてきたからだろう。井戸敏三知事が就任した2001年の段階では兵庫県には29カ所の保健所があった。しかし、今ではそれが17にまで減らされてしまった(図3)。これでは十分なPCR検査や入院調整などできるわけがない。確かに保健所の統合は94年の保健所法が地域保健法に全面改正されたのを受けて全国的に進められたものだが、都道府県によっては、国の方針をそのまま受け入れず、保健所の数を維持しているところもある。たとえば、和歌山県では、1989年の段階で8カ所だった保健所は今でも同数が維持されている。
 西山 国言いなりの医療費政策といえば、地域医療構想も同様で、兵庫県は2016年に5万3747床あった病床を5万3032床まで削減してしまった(図4)。この地域医療構想についても、2014年に成立した医療介護総合確保推進法で都道府県に策定が義務付けられたもので、いわゆる団塊の世代が後期高齢者になる2025年の必要病床数を定め、厚労省は人口の減少にあわせて病床を削減するようガイドラインを定めている。兵庫県の地域医療構想はこれに沿って策定されたものだ。しかし、京都府など都道府県によっては、厚労省のガイドラインを柔軟に解釈し、一律に病床を削減しない地域医療構想を定めているところもある。兵庫県でも県が主体性を発揮して、保健所や病床を守っていれば、余裕をもったコロナ対応ができたはずだ。
 武村 さらに問題なのは、今回の新型コロナ禍で、そうした医療政策の誤りがはっきりしたにも関わらず、この路線を転換する気が県には全くないことだ。たとえば、保健所については芦屋保健所を廃止し、その機能を宝塚保健所に引き継ぐと言っている。当然、芦屋市民から不安と反対の声が上がっているし、機能を引き継げと言われた宝塚保健所の担当者もそんな余裕はないと言っているそうだ。それは当然だと思う。また、病床の削減についても見直す気はない。新型コロナ禍にあっても、神戸市の済生会兵庫県病院と三田市民病院は統合に向けた議論を進めている。こちらも住民の声は無視されている。やはり新型コロナウイルス感染症から県民の命と健康を守るためには県政の転換は欠かせないだろう。

削られ続けてきた福祉医療制度

 加藤 ここからは新型コロナ対策以外の医療政策についても議論したい。安倍・菅自公政権の下で医療制度の改悪が行われてきた。先の国会では私たちが反対してきた一定所得以上の後期高齢者の医療費窓口負担を1割から2割にする法案が強行採決されてしまった(6面に抗議文)。自治体の役割は、地方自治法にあるとおり「住民の福祉の増進」のはずだ。本来ならこうした国の政策にきっぱりと反対するとともに、県独自の福祉医療制度でこうした国の制度改悪から県民を守ることこそ求められていると思う。
 川西 そのとおりだ。しかし、兵庫県はこの間、福祉医療制度を改悪し、予算の削減を進めてきた(図5)。いわゆる「マル老」と呼ばれていた、低所得の高齢者に対して医療費の1割を助成する老人医療費助成は、20年間で徐々に所得制限が厳しくなった。2000年には全高齢者の7割が対象になっていたが、2015年には対象が5%まで減らされてしまい2016年度にはついに制度を廃止してしまった。老人医療費助成に代わって「高齢期移行者医療費助成」が導入されたものの、対象者はさらに限定されており、利用できるのはわずか2.4%だ。これに伴い2001年度には約74億円だった予算は2020年度には約1億8千万円と40分の1に激減している。同様に母子家庭等医療費助成も所得制限を厳しくするとともに、自己負担を増やし、2004年度には約15億円あった予算は2020年度には約4億円に、対象者も11万人から3万人と減少している。これでは県民が安心して医療を受けることができない。

ワクチン頼み、民間医療機関バッシングの保守両候補

 加藤 次は各候補の公約について評価してもらいたい。候補者についてマスコミは連日、分裂した自民がそれぞれ推している候補の一騎打ちだと報じている。しかし、この分裂は政策的な違いや政治的立場の違いが招いたものではなく、保守勢力内での主導権争いでしかない。県民をないがしろにしたひどい話だ。協会が実施した候補者アンケートの回答(前号既報)を見ても、両候補ともに財源がないことを強調するなど政策的な違いもそれほどない。
 西山 まず井戸敏三知事のもとで副知事を務めていた金澤和夫候補だが、協会が実施した候補者アンケートへの回答で「非常に厳しい病床逼迫の状況が続いていたが...持ちこたえた」「弾力的な入院・療養体制の構築による患者の目詰まりを防ぐための転院コーディネート等にも取り組んだ」などと評価しているが、実際の医療現場の実状とはかけ離れているのではないだろうか。入院させたくても病床がなく、やむなく自宅待機をさせられた患者さんや、一般の病院や高齢者施設で発生した患者さんの搬送を断られなすすべがなかったという事実を見ない評価だと思う。
 武村 その点では、大阪府で財政課長を務めていた齋藤元彦候補は「私立病院や各地医師会のさらなる協力が得られれば一層の進展が望める」としており、「民間病院や開業医が協力的でない」という維新の会が行っている民間への責任転嫁に通じるものがある。とても受け入れることができない考え方だ。
 川西 協会が推薦する金田峰生候補が、緊急事態宣言の実効性を挙げるために県民や飲食店に対して、十分な補償が必要であるとしている点は、その通りだと思う。
 加藤 PCR検査についても各候補の見解は分かれているが。
 水間 金澤候補は「検査数を拡大する」としながら「ワクチン接種の拡大により、...検査の必要性について...検討する必要がある」などと述べており、ワクチン接種が進めばPCR検査は縮小するという方針のようだ。新型コロナウイルスは変異を繰り返し、ワクチンの有効性も絶対ではないのに、こうした態度をとっているのはとても科学的とは言えず問題だ。
 西山 齋藤候補は「PCR検査を実施することは、...感染拡大防止に一定の効果がある」としながらも「財政負担が大きい」としている。財源がないからPCR検査が進まなくてもしょうがないともとれるような意見を持つ候補を評価することはできない。
 坂口 その他の医療政策についても齋藤候補は私たちが求める福祉医療制度の充実、歯科矯正治療に対する補助の創設などに対して「財政状況が非常に悪い兵庫県としてどの範囲まで充実できるか」「財源確保との関係でどの程度支援できるか」などと財源を理由に実施が困難であるとしている。優先順位を考慮した財源確保が必要だと思う。

大企業優先の予算配分見直しで財源確保を

 加藤 では、財源について考えたい。
 西山 確かに、外郭団体も含めた借入金残高の指標である「将来負担比率」が全国ワーストであるなど、兵庫県の財政状況は厳しい。しかし、なぜそうなったのかを考えなければならない。兵庫県は財政難の原因を阪神・淡路大震災からの復興に予算を費やしてきたからだと説明してきた。しかし、多くの被災者の実感からは、財政が傾くほどの支援を県から得てきたとはとても言えないだろう。それもそのはずで、県が掲げた「創造的復興」は高速道路や国道の整備、関西国際空港の2期工事など、県民の暮らしとは直接関係がないハコモノ等に費やされたからだ。
 武村 県民の暮らしを犠牲にし、大型公共事業等を通じて大企業に還元する県の姿勢はいまだに変わっていない。30年前から計画されている播磨臨海地域道路は、今後さらに20年の歳月と5900億円の費用をかけて実施されることになっているし、バブル期に取得し「塩漬け」になっている土地の民間企業への格安での払い下げも進めている。こうした点を見直せば財源を確保することは可能だ。
 水間 金田候補も同様の考えだ。「県がこれまで行ってきた行革は、福祉を削り、無駄な大型公共事業は借金までして進めるというものでした。...この間違ったやり方を抜本転換(します)」という公約を掲げている。
 川西 金澤候補は井戸県政の後継を自任するだけあって、相変わらず「道路ネットワークの整備」「空港・港湾の整備・活用」を進めるとしている。一方で「必要なサービスは重点的に取り組む『選択と集中』を基本に改革を進めます」と福祉医療制度の切り捨てを示唆している。
 坂口 その点は、齋藤候補も同様だ。齋藤候補は「道路ネットワークの整備を強力に進めます」としつつ「コロナ禍に伴って財政支出の拡大と大幅な税収減が見込まれる」「行財政改革を断行します」と公約している。

医療切り捨て、大企業奉仕の県政転換を

 武村 新型コロナ禍で医療や福祉といった公共財の整備を軽視し、大企業の利益を優先するという新自由主義的政策の誤りが世界中で明らかになった。こうした誤りを正し、社会の持続可能性を高めることが世界共有の認識となっている。そういう意味では、金澤候補も齋藤候補もともに従来の自民党や維新の会が進めてきた新自由主義的・保守的政策をそのまま受け継ぐもので、期待できない。
 西山 東京都議選挙では、過去2番目に低い投票率となった。兵庫県知事選挙は、新型コロナ禍で浮き彫りになった県の医療政策の誤りを正す絶好の機会だ。医療や公衆衛生を担う医師・歯科医師として、ぜひ誘い合わせて投票に行っていただきたい。

1979_05.gif
バックナンバー 兵庫保険医新聞PDF 購読ご希望の方