兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2021年8月25日(1982号) ピックアップニュース

主張 「黒い雨」訴訟上告断念
政府はすべての被爆者の救済を進めよ

 7月14日、広島高裁で「黒い雨」訴訟への判決が下され、原告の84人全員に被爆者健康手帳を交付するよう国に命じた。この判決に対し、国は直ちに最高裁で争おうとしたが、広島県・湯崎英彦知事と広島市・松井一実市長からも国に対して上告断念を求めるよう要請する方針を示したこともあり、最終的に菅首相は上告を断念した。
 「黒い雨」による外部・内部被ばくが被爆者の健康に影響を及ぼすことは明らかであり、手帳の交付は当然である。原告の一人は「ずっと本当のことを言ってきたのに信じてもらえなかった」と語った。勝訴まで非常な精神的、肉体的、経済的な苦痛を味わわれたことだろう。原告団長の高野正明氏は「訴訟の過程で亡くなった人も多く、手帳に重みを感じる」と訴えた。
 菅首相は判決を受けて7月27日に談話を発表し、「84人に被爆者健康手帳を発行するとともに、訴訟を起こしていない同様の事情にある人たちへも救済を検討する」との方針を示した。被爆者の高齢化を鑑み、迅速な対応を求める。
 一方で判決後、長崎県・中村法道知事と長崎市・田上富久市長が、長崎でも被爆者認定の対象を拡大するよう国に要望したが、菅首相は長崎での訴訟の行方を注視するとして、原告の救済には言及しなかった。また、判決で内部被ばくが健康への影響を認めたことについても、談話では「容認できない」としている。放射線による健康被害を矮小化し、すべての被爆者の救済に向き合わないことは、福島第一原発事故の被害者救済の幅を狭めることにもつながるもので、看過できない。
 核兵器は人類が生み出したものである。ヒロシマ・ナガサキの被爆や原発事故は、人間が引き起こしたものであり、決して天災などではない。核エネルギーは、放射性物質の半減期なども含め、現時点で人間の手に負えるものとは言えない。核廃絶運動は、IPPNWやICANがノーベル平和賞を受賞したように、人類が平和に暮らせる世界を構築するために最も重要な取り組みの一つであることは明らかである。
 世論調査では、日本政府に核兵器禁止条約への署名を求める意見が国民の多数を占めている。与党・公明党も核兵器禁止条約を高く評価し、締約国会合への日本政府のオブザーバー参加を強く求めるとする談話を発表している。
 協会は政府に対し、同条約への署名を強く求めるとともに、健康を守る医療人としてだけにとどまらず、われわれ医師・歯科医師一人ひとりが、核廃絶運動に取り組むよう呼びかけたい。
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