兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2021年10月05日(1986号) ピックアップニュース

2021年神戸市長選挙にあたって
開業保険医師・歯科医師の重点要求(案)
2021年9月 兵庫県保険医協会神戸支部

 神戸支部は、9月16日の幹事会で、2021年神戸市長選挙にあたっての開業保険医師・歯科医師の重点要求(案)を承認した。この要求(案)をもとに候補者と懇談し、支持・推薦を決定する。要求(案)全文を掲載する。

はじめに
 2021年神戸市長選挙は、新型コロナウイルスの感染拡大で医療提供体制の充実が求められるなか、政府による医療・介護負担増、病床削減が推し進められる状況下で行われることとなる。全国有数の政令指定都市の首長である神戸市長の姿勢は、市政にとどまらず、国政にも大きな影響を与えるものである。
 しかし、現久元市政は不要不急の三宮再開発と、人口の少ない市域の行政サービスを切り捨てる神戸市都市空間向上計画を強引に進める一方で、公約に掲げていた「中学生以下の医療費無料」を撤回し、国の方針に従い国保料の独自控除や法定外繰り入れを廃止してきた。
 われわれは、地域医療を担う者として、医療政策のみでなく、市民の平和と安全を確保するという点から、国政問題を含めて、下記の要求の実現を求めるものである。
Ⅰ.神戸市の医療施策について
1、新型コロナウイルス感染症・新興感染症に対応できるよう地域医療・公衆衛生体制を充実すること
(1)医療提供体制や保健所の体制を抜本的に見直し、感染症病床やICUの増床、検査体制を充実させ、保健所を各区に再配置し、区民の健康に責任を持てるスタッフを配置すること。
(2)新型コロナウイルス感染症を直接診療しない医療機関も、市民の命・健康を守るために、感染リスクにさらされながら、感染防止策を万全に講じて診療を継続しており、すべての医療機関へ感染対策への補助や減収への補償を行うこと。
(3)北区の地域医療の核である済生会兵庫県病院と三田市民病院との統合再編を行わず、済生会兵庫県病院への公的支援を拡大すること。
(4)小児科・産科の二次救急医療、入院医療確保への公的支援を拡充すること。
(5)垂水駅前に新設される徳洲会病院が約束通り「産科・小児科救急を含めた救急機能を持った総合病院」として役割を果たせるよう支援すること。同病院に口腔外科を設置するよう求めること。
(6)西市民病院の移転・新築計画にあたっては、病床数削減を行わず、救急医療・感染症対応等医療機能の充実・強化を行うこと。
(7)灘区の六甲病院の民間移譲にあたって、救急や緩和ケアなど現在の地域医療体制を維持・充実させるよう支援を行うこと。
2、医療産業都市施策を改善すること
(1)医療ツーリズムや混合診療の受け皿とならないようにすること。
(2)市民病院など市民のための医療資源を、先端医療研究に過度に振り分けないこと。
(3)今後に予定されている病院建設計画は、一点に集中するのではなく分散型とすること。
(4)医療産業都市の防災計画を一から見直すこと。とくにバイオハザードに対する危機管理についてガイドラインを策定すること。臨床病棟に入院する患者の移送計画を策定すること。関西近隣の原発が事故を起こした場合について明確な指針をもうけること。
3、福祉医療制度を拡充すること
(1)子どもの医療費助成は、高校3年生世代まで通院・入院とも無料とすること。
(2)高齢者の医療費助成制度対象を広げ、該当する人口の半数程度を対象とすること。
(3)重度障害者(児)、ひとり親家庭等の助成内容・対象を拡充すること。
(4)流行性耳下腺炎、ロタウイルス予防接種への助成を拡大すること。定期接種開始以前の小児へのB型肝炎予防接種の推進のために助成制度を新たに創設すること。
(5)小児ぜんそくに対する公費負担を復活させること。
(6)院外処方における薬局での負担をなくすこと。
4、国民健康保険を改善すること
(1)一般会計からの法定外繰入を行い、市民が安心して払える保険料にすること。
(2)「特別な事情」がないことを確認できない限り、資格証明書や短期被保険者証を発行せず、正規の保険証を発行すること。
(3)国保法44条による一部負担金免除を拡充すること。
(4)国保法77条の国保料の独自軽減制度について、対象所得と減免割合を拡大すること。
(5)国保広域化による統一保険料押し付けに反対し、国庫負担増を要求すること。
(6)神戸市の独自控除方式を復活すること。
(7)中学3年生までの、こどもの保険料(均等割)は、無料にすること。
5、歯科医療
(1)歯科技工士(所)や、歯科技工士の研修、育成のための補助金を支出すること。
(2)歯科検診・予防活動のセンターとなる口腔衛生センターを設置すること。
(3)学校歯科検診の結果と受診実態を公開し、受診率向上を図る対策、口腔崩壊の子どもへの対策をとること。
(4)中学生以下の歯列矯正費用に関して助成制度を創設すること。
(5)歯科技工士学校を市内に創設すること。
6、介護保険制度を改善すること
(1)保険料減免制度の所得制限を緩和すること。
(2)食費・居住費の利用者負担についての助成制度を新設すること。
(3)マンパワーの増員や特別養護老人ホームの増設、在宅ケアのための住宅改善を進めること。
(4)新総合事業を担う事業者の報酬を引き下げず、これまでと同様の介護サービスを維持すること。
7、市民の健康を維持する環境を整備すること
(1)巨額の費用を投じる三宮の巨大再開発は見直し、費用を医療・福祉の充実に使うこと。
(2)地方を切り捨てる「コンパクトシティ構想」を復活せず、市民の健康を維持するための環境を整備すること。
(3)保育所の環境整備やスタッフの確保など、乳幼児の健康を守る環境を整えること。
(4)神戸製鋼による市街地での石炭火力発電所増設工事を中止するよう、神鋼に求めること。
(5)阪神・淡路大震災時のアスベスト吸引曝露の可能性について広く持続的な啓蒙活動を行い、被曝の可能性のある者へのハイリスク検診としてのアスベスト検診の強化・充実を行うこと。一般肺癌検診においては職業曝露のみならず、環境曝露を意識した問診を具体的に行うこと。建築物解体工事においては専門資格所持者によって設計図書に基づき、事前にアスベストの有無を厳しく監視するとともに、一定規模以上の解体工事に際しては、事前に立ち入り調査を行うこと。
(6)市営住宅下山手4号棟における石綿見落としの原因の分析および3回の調査結果が異なることについて、専門家を交えての検証を行うこと。住民説明会の範囲や内容について、新たな基準を設けること。
Ⅱ.阪神・淡路大震災関連について
8、借り上げ住宅入居者の延長入居を認めること
 阪神・淡路大震災で借り上げ住宅に入居した高齢被災者等に対して、転居を強制するのではなく、希望者の入居継続を認めること。
Ⅲ.国政の重要課題について
9、新型コロナウイルス感染症対策の抜本的強化を国に求めること
 新型コロナウイルス感染症に対し、政府は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などを発令し、多くの国民や商業主に我慢を強いるばかりで、医療提供体制の抜本的増強や、国民生活の安定のための所得保障などには背を向け続けている。
 神戸市は政府に対し、新型コロナウイルス感染症患者の治療や観察のための医療機関の機能分化の推進や、第一線で新型コロナウイルス感染症患者の振り分けや通常医療の提供を継続する診療所等への減収補填を強く求めるべきである。さらに、新型コロナ禍を理由にする解雇や雇い止めで経済的に困窮する国民の所得を保証する制度や、経営危機に瀕する中小零細事業主に対する営業補償を行うよう強く求めるべきである。
10、診療報酬増を求め、患者負担増に反対すること
 政府は医療費抑制のために、診療報酬マイナス改定を続け、患者負担増をさらに推進しようとしている。受診時定額負担導入やOTC薬の保険外しなどは、患者の必要な受診を抑制するものであり、断じて許されない。
 また、政府は医療提供体制もさらに縮小しようとしている。地域医療構想実現のために、病院の統廃合に消費税財源を利用するとしている他、医師の長時間労働を容認する法案を成立させ、医学部定員拡大による抜本的な医師不足解消に背を向けている。市は、これらの政策に断固反対し、診療報酬の大幅増を求めるとともに、地域に十分な病床や医師を確保するよう国に働きかけるべきである。
11、大企業や富裕層の応分の負担で社会保障を充実させ、所得再分配機能を強化するよう求めること
 新型コロナ禍にあって、世界中で効率至上主義や市場原理主義の弊害が指摘されている。にもかかわらず、政府は相変わらず政策理念として「自助・共助・公助」を掲げ、国民に自己責任を押し付けている。一方で、オリンピックの開催強行など一部大企業への利益供与には余念がない。
 こうした政治を抜本的に転換し、新型コロナ禍にあっても内部留保を増加させている大企業に対する法人税増税や、富裕層への増税など、応能負担の原則に基づいて財源を確保し、社会保障制度を抜本的に拡充し、国民生活に安定と豊かさをもたらすよう政府に働きかけるべきである。
12、国民監視に道をひらく「デジタル改革」を改めるよう求めること
 政府は新型コロナ禍での行政サービスの混乱を、「デジタル化」が進んでいないことが原因だとして、マイナンバーカードでのオンライン資格確認の導入などによるマイナンバーカードの普及をはじめとしたデジタル改革を進めようとしている。しかし、政府が成立させたデジタル改革関連法からも明らかなように、その目的は国民の資産をくまなく把握し、負担増をさらに進めるとともに、国民の健康情報などセンシティブ情報を民間企業に売り渡し、国民に対する社会保障給付を削減し、替わって各種サービスを市場で調達させようとするものである。そればかりか、国民の個人情報を国家が集中管理することで監視社会化を一層強めようというものである。市はこれらに反対し、市民の個人情報を保護し、市民の自己情報コントロール権を確立すべく政府に働きかけるべきである。
13、原発・石炭火発ゼロをめざし、再生可能エネルギーへの転換をめざすこと
 史上最悪の被害をもたらした福島第1原発事故は、未だ収束しておらず事故原因の検証も不十分な中で、原発の再稼働は断じて容認できない。県の一部が50㎞圏内となる福井県の原発の再稼働に反対し、全原発を廃炉にする道に踏み出すよう求めること。同時に、2050年にCO2排出実質ゼロの目標を実現するため、市内の石炭火発の新増設を認めず、再生可能エネルギーへの転換を促進すること。
14、災害被災者の生活復興を支援すること
 阪神・淡路大震災から26年、東日本大震災から10年となるが、未だ被災者の生活再建はままならない。これらの大震災以来続く、「創造的復興」に名を借りた被災者の生活再建とかけ離れた大型公共開発路線を改め、被災者生活再建支援法の抜本的充実を行うよう国に求めること。
15、非核神戸方式をまもり、憲法を基盤とした市政をめざすこと
 世界に誇る非核神戸方式を堅持し、神戸から非核と平和の理念を発信すること。社会保障の土台でもある憲法を守り、憲法通りの市政をめざすこと。
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