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兵庫保険医新聞

2022年1月05日(1994号) ピックアップニュース

特別インタビュー 特定医療法人誠仁会 理事長 吉岡 巌先生
民間病院も新興感染症に対応できる診療報酬に

 新型コロナ禍で明らかになった日本の医療提供体制の脆弱性−−。新型コロナ患者受け入れが病院経営に与えた影響を明らかにするため、地域の民間病院として多くの新型コロナ患者を受け入れた大久保病院(明石市)を運営する特定医療法人誠仁会の吉岡巌理事長(協会副理事長)に、西山裕康理事長がインタビューした。

低いコロナ患者受け入れのための空床補償
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【よしおか いわお】1964年、神戸医大(現・神戸大学医学部)卒業。特定医療法人誠仁会理事長。日本産科婦人科学会認定産科婦人科専門医。日本産科婦人科学会所属

 西山 まずは先生の医療機関で新型コロナウイルス感染症患者の受け入れを始めた経緯を教えてください。
 吉岡 はい。もともと第1波の頃から、新型コロナウイルス感染症に感染した患者さんで、発症から2週間以上経た、いわゆる回復期と呼ばれる患者さんは、他の人に感染させる恐れはないというエビデンスがありますので、一般の病棟で受け入れていました。その後、第5波の際には明石市内でも病床逼迫が切実になり、当院でも新型コロナウイルス感染症患者さんを1日3人ほど受け入れるようにしました。
 西山 受け入れにあたって苦労されたことも多かったと思いますが。
 吉岡 そうですね。当院では4人部屋の病床3室を新型コロナウイルス感染症患者受け入れのために確保しました。行政からの指導もあり、新型コロナウイルス感染症患者は、1病室あたり原則1人しか受け入れることができません。ですから当院では1病室あたり3床は休床ということになります。ですから、絶対に休床補償は必要です。
 確かに、政府も病床確保料として休床補償を行っています。当院は地域包括ケア病床を新型コロナウイルス感染症患者用にしましたので、病床確保料と呼ばれる空床補償は稼働させている際の報酬とほとんど同じとなりました。しかし、これが稼働時の報酬が高い一般病床であれば、空床補償の方が低くなる場合もあったと思われます。
 西山 一時期マスコミなどでは、「幽霊病床」などと呼んで、病床確保料を受け取りながら実際に新型コロナウイルス感染症患者を受け入れていなかった病院があったという批判がありましたが、そもそも休床補償は経営上それほどメリットがあるものではなかったのですね。

病床だけでなくスタッフや空間の確保も

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聞き手 西山裕康理事長

 吉岡 そうですね。新型コロナウイルス感染症患者受け入れのために転換する病床は、感染拡大防止の観点からトイレ付でなければなりません。それに加え、当院では、それらの病床に対応するために新たにナースステーションも用意しましたし、ゾーニングのためのスペースも確保も行いました(図1)。
 また施設だけでなく、人員も必要です。当院では、新型コロナ感染症患者の数にかかわらず常に1人の看護師がナースステーションに常駐する体制をとりました。新型コロナウイルス感染症の患者さんに対応するスタッフへの手当も要ります。ですから、病床確保料が受け取れたとしても、90%程度で稼働させている一般病床での患者さんの受け入れを止めてまで転換する、経営的メリットはありません。もともと休床にしていた病床を新型コロナ感染症患者受け入れ用に転換した場合は良いのでしょうが、それでもスタッフを新たに雇い入れたりせねばなりません。そもそも私の知る限り、どの医療機関も病床逼迫の中、行政からの強い要請を受けて協力しているというのが実際です。当院でも明石市の副市長と保健所副所長が、直接来られて要請されました。補助金がもらえるから受け入れるなどという病院はなかったのではないでしょうか。

新型コロナ病床再転換の難しさ

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特定医療法人誠仁会 大久保病院
1976年開設、病床数199床(一般病床160床〈内 地域包括ケア病床48床、緩和ケア病床18床〉、療養病床39床)(病院ウェブサイトより)

 西山 なるほど。それでは、新型コロナウイルス感染症患者数が減っている今では、受け入れ病院の状況はどうですか。
 吉岡 おっしゃるとおり現在は、新型コロナウイルス感染症患者が全国的に減少していますので、第6波の際に再度3床を確保することを前提として、現在は新型コロナウイルス感染症患者受け入れ用病床を1床まで減らしています(図2)。その病床転換についてですが、当院の場合は新型コロナウイルス感染症患者用を3人受け入れるために、4人部屋を3室転換しました。現在は1部屋のみを引き続き受け入れ用として、残る2部屋は一般患者8人を受け入れることができ、すぐ満床になりました。しかし、病棟ごと新型コロナウイルス感染症患者受け入れ用に転換していた場合は、一般の患者用への再転換の際、なかなか満床にならないでしょう。経営上のダメージをかなり受けると思われます。

 

感染対策へ無料個室が設定できる診療報酬体系に
 西山 やはり、感染状況に合わせて臨機応変に病床を稼働させないと病院の経営がそもそも成り立たないということですね。診療報酬改定が迫っていますが、第6波に備えてどのような改定が望まれますか。
 吉岡 病院は85%以上の病床を稼働させなければ一定の利益が確保できないという、あまりにも効率性に傾倒した現行の診療報酬体系は改められるべきだと思います。今、日本の多くの民間病院では、4人部屋中心の病棟構成をしています。入院患者のアメニティを考えれば個室の方がよいでしょうし、感染対策上もその方がよいのは間違いありません。しかし、1床あたりの診療報酬が低すぎるので、限られたスペースと人員を有効活用しようと考えると、どうしても4人部屋のように多床室にならざるを得ませんし、さらにその4人部屋ですら、稼働率を高めなければなりません。
 やはり今年の診療報酬改定では、入院基本料などを抜本的に引き上げ、差額ベッド料を取らない無料個室をかなりの程度設定してそれに見合うスタッフを雇用しても、きちんと医業利益が確保され、病院が安定的に運営できるようにする必要があると思います。また、そうした医療提供体制のためには、医師や看護師など医療スタッフの増員も必要です。
 国は医療費抑制のために診療報酬を引き下げ、医療スタッフの数を制限してきました。こうした政策を転換しなければ、今回のような新興感染症流行時に、民間病院が対処することは難しいでしょう。
 西山 そうですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。協会では引き続き、病院の先生のご意見もお聞きし、診療報酬の抜本的引き上げと不合理是正に取り組んでいきます。

図1 【第5波時】COVID-19病棟ゾーニング(3床)
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図2 【現在】COVID-19病棟ゾーニング(1床)
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