兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2022年1月05日(1994号) ピックアップニュース

新聞部の会員訪問 姫路市 北村 アキ先生
心臓リハビリを広めたい

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姫路市・あき循環器心臓リハビリクリニック
北村アキ先生

【きたむら あき】2002年高知大学医学部卒業。神戸市立中央市民病院初期(胸部外科)・後期(循環器内科)研修を経て、兵庫県立姫路循環器病センター心臓血管外科、葉山ハートセンター心臓血管外科、赤穂市民病院心臓血管外科部長などを務める。2019年に姫路市にて、あき循環器心臓リハビリクリニック開院

 心不全の新しい治療法「心臓リハビリテーション」を普及させていこう−−。姫路市で2019年に心臓リハビリテーション専門のクリニックを開業した、協会理事の北村アキ先生に、開業の経緯や心臓リハビリの治療法・効果について、水間美宏理事がお話を伺った。

心臓外科医から心臓リハビリの道へ
 水間 先生が講演された、昨年10月の女性医師・歯科医師の会研究会を聞き、心臓リハビリについて非常に興味深く思っていました。本日はさらにくわしくお話を伺い、実際のクリニックも拝見したく、お伺いしました。先生はもともと心臓外科医だったのですね。
 北村 そうですね。姫路循環器病センターや葉山ハートセンターなどで勤務していました。女性の心臓外科医はめずらしいと言われますが、心臓外科医だった父に憧れて進路を決め、特に心不全の外科治療に関心を持って診療していました。
 水間 心不全の手術は、時代とともに変わってきていますが、先生が勤務されていた10年前はどのような手術だったのですか。
 北村 すでに心移植もありましたが、日本では重症心不全症例に対して、拡大した心臓の一部を切除し心臓の容積を小さくして機能を維持する左室形成術という術式が、施設によってはよくされていました。バチスタ手術もその術式の一つです。赤穂市民病院にいた時も姫路循環器病センターから応援を呼んだりして、重症心不全の手術も行っていました。
 水間 第一線の外科医として活躍しておられたのですね。それがなぜ心臓リハビリを始めたのですか。
 北村 患者さんの術後の経過に疑問を持ったからです。術後、エコーなどでは状態が良くなっているのに、思ったように元気になっていない方がおられ、よくよくお話を聞いてみると、退院後も体に負荷をかけないように生活しているため、筋力が落ちていることが原因だということが分かったのです。もともと、心臓外科医だった父親に憧れて心臓外科を志しましたが、医師としての根本は「患者さんに元気になってほしい」という気持ちでしたので、その信念を求めるためならば外科医に執着はありませんでした。
 心臓リハビリは、退院後にも日常的に適度な運動を維持し続け、体力の低下を防ぐ目的があります。入院患者さんにも術後の早期退院をめざして心臓リハビリはなされていますが、退院後も開業医の下で心臓リハビリを継続することは、QOLを高めるとともに、再発を防ぐために重要だと考えています。
運動・栄養・心理の三本柱
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聞き手 水間美宏理事

 水間 心臓リハビリは運動療法のことを指すのですか。
 北村 心臓リハビリは運動療法だととらえられがちですが、実はそれにとどまりません。心臓の機能を取り戻すために、運動療法や栄養指導、心理療法の三つを組み合わせることが重要になります。
 まず運動療法についてですが、以前まで心臓病の患者さんには運動させてはならないという意見が主流でした。しかしそれでは体力が落ちフレイルに陥ります。そこで、医師の管理の下で、一人ひとり適切な負荷を定めての運動が重要になります。適度な運動は心肺機能を改善させ、心不全の再発を抑制する効果があることが分かっていますので、医師の管理の下で脈拍や心電図などを計測しながら運動することで、適切な負荷での運動処方が可能となるのです。ここでは2階のトレーニングルームで運動療法を行います。
 次に栄養指導ですが、心臓リハビリでは、生活習慣病改善とフレイル予防の栄養管理が重要になります。体脂肪が過剰な患者さんには、目標を定めて減量を指導します。これには日々の家庭での取り組みが重要になりますので、家で自炊する人の方が、栄養バランスを調整しやすくなり、より効果的です。そのため、コロナ禍前には、クリニック1階のキッチン付きセミナー室で料理教室を開いていました。海外では、菜食中心の治療がなされることもありますが、日本はバランスよく食べることを美徳とする文化ですし、肉を食べないようにするとビタミンB12や鉄分などが不足してしまいますので、参加者の方には、野菜を多くとってもらうべく、「カラフルな食卓にしましょう」と呼び掛けています。
 水間 特に独居男性の方でしたら、どうしても家にふさぎがちになってしまい、体力的にも低下しそうですし、食生活も悪くなってしまいそうですよね。
 北村 その通りです。三つ目の心理療法とも関わってくるところですが、心不全を患った方の中には、家で安静に過ごすようになって社会的にも孤立する人もおられます。そうすると精神面でも、不調となりがちです。当クリニックは運動療法を集団で行っておりますので、患者さんは待ち時間や運動開始前にスタッフや他の患者さんとコミュニケーションを取れ、精神的にも良い影響があると思います。気持ちが前向きになると運動を継続するモチベーションにもなりますし、実際に遠方から車を運転して受診される方もおられます。
 また現代社会では、どのような人でも日々の生活の中で必ずストレスを受けていますが、このことも心臓や身体に悪影響を与えますので、一人ひとりがいかにストレスを処理できるか、自己管理が大切になります。当クリニックでは、ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院のストレス管理プログラムを受けていただくこともできます。
 水間 どのような内容なのでしょうか。
 北村 少人数でのグループワークです。ストレスイベントについてその人なりの対処法を互いに交流することなどで、自身のストレス反応に気付き、対処法を得るという認知行動療法です。これらはオンラインでも受講可能で、患者さんだけでなく、会社員など一般の方にも参加いただいています。またストレス管理には良質な睡眠も重要です。良い睡眠のための生活習慣などがまとめられた「睡眠のための12箇条」を参加者にお伝えするなどして、生活改善に取り組んでもらっています。中には1週間で効果が得られた方もおられました。
 これらの取り組みのおかげか、今のところ心不全の再入院はゼロですので、この調子でいきたいですね。
心臓リハビリをもっと身近に
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心臓リハビリでの運動を体験

 水間 非常に幅広い取り組みをされておられ、頭が下がる思いです。今後さらに取り組みたい点はありますか。
 北村 心臓リハビリはお話しした通りさまざまなメリットがありますが、まだまだ知名度が低いのでどんどん普及してほしいですね。例えば心臓リハビリを専門とする病院ができれば、経験豊かな看護師やスタッフを育成することもでき、より良い医療を広く提供できます。心臓外科や循環器内科がご専門で、開業を考えておられる先生方は、「心臓リハビリもあるかな」と開業時の選択肢に入れてもらえるとうれしいですね。実際にこのクリニックを見学され、その後心臓リハビリクリニックを開業された先生もおられますので、今後も普及に努めたいと思います。
 水間 最後に協会の活動で期待することをお教えください。
 北村 2019年開業ですが、コロナ禍でようやく新規個別指導が回ってきました。協会は事前に指導での注意事項について、医療機関でカルテとレセプトチェックをしてくださりました。昨年には理事にお声掛けいただき、患者さん本位の医療の実現へお役に立てるならと、お引き受けさせていただきました。
 心臓外科医時代には、知見を得るために台湾、中国、シンガポール、アメリカなど、多くの国をめぐって勉強してきました。各国の医療事情なども勉強になり、国によってはお金のあるなしで、受けられる医療が大きく違う国もあり、やはり日本の皆保険制度は優れていると感じました。協会では、各国の医療制度を研究する国際部に所属していますので、経験も生かしてお力になれればと思います。
 水間 日本の保険制度の良い点は守っていかなければなりません。先生の国際部での活動にも期待しています。本日はありがとうございました。
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