兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2022年3月05日(1999号) ピックアップニュース

2022年度 診療報酬改定答申 談話

 2022年度診療報酬改定について、中央社会保険医療協議会(中医協)は2月9日、厚生労働大臣に答申を行った。改定率および改定内容に対する医科・歯科それぞれの談話を掲載する。

医科 コロナ禍でのマイナス改定を許すな
研究部長  清水 映二
 政府は昨年12月、2022年度4月の診療報酬改定率を全体でマイナス0.94%、本体+0.43%(医科+0.26%)、薬価・材料価格▲1.37%と発表した。2014年から5回連続のマイナス改定であり、コロナ禍前の前回改定より本体のプラス幅は少ない。本当に必要である初・再診料や入院料等の基本診療料の引き上げは、いっさい行われていない。
 新型コロナウイルス感染症の拡大が、日本の医療提供体制の脆弱さを浮き彫りにした中でのマイナス改定は、コロナ禍で疲弊する医療機関経営の改善や地域医療の充実と逆行するものであり、到底許されない。
医療費抑制狙うリフィル処方
 医師の診察を省略し、1枚の処方箋を反復して利用できる「リフィル処方」を導入するが、医師が患者の症状変化に適した処方ができなくなることにつながるため、反対だ。
 政府は「症状が安定している患者について、医師の処方により、医療機関に行かずとも、医師及び薬剤師の適切な連携の下、一定期間内に処方箋を反復利用できる」ことで「再診の効率化につなげ」るとしている。これは要するに、医師の診察回数を減らすことによる医療費抑制を狙ったものだ。
 リフィル処方の活用は、今のところ医師の判断に委ねられている。しかし、今次改定での効果として医療費ベースで400億円以上の医療費削減を見込んでおり、「その効果について検証を行う」としていることから、さらなる受診抑制への「蟻の一穴」にしようという政府の思惑が透けて見える。
コロナ禍に乗じオンライン初診解禁
 コロナ禍での「臨時的」取り扱いとされている初診からのオンライン診療に、251点を付け、本格解禁する。同時に従来の「オンライン診療料」(71点)を廃止し、オンライン再診は対面診察と同じ73点となる。
 現在行われている電話等を用いたオンライン初診は、2類相当である新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う時限的なものであり、その効果やリスクなどの検証が十分なされているとは言えない。コロナ禍に便乗するオンライン診療の恒久化は認めるべきでない。
不十分な感染対策評価
 「外来感染対策向上加算」(6点)が新設される。「外来診療時の感染防止対策に係る評価」との位置付けだが、患者1人につき月1回の算定に限られるほか、「新興感染症の発生時等に、都道府県等の要請を受けて発熱患者の外来診療等を実施する体制を有し、そのことについてホームページ等により公開している」など、施設基準に19項目もの厳しい要件を求めている。基本診療料の据え置きとあわせて、院内での感染対策に日々労力を注いでいる医療機関の実情と乖離した評価だ。
医薬品供給不安への反省なし
 後発医薬品(GE)メーカーをめぐる問題に端を発して医薬品供給が不安定化し、これまでの行き過ぎたGE推進策の見直しが求められている中、反省もなく後発医薬品使用体制加算におけるGE使用数量割合の基準が引き上げられていることは問題だ。
診療報酬でオンライン資格確認推進
 マイナンバーカードを被保険者証として利用する「オンライン資格確認システム」を活用した場合の「電子的保健医療情報活用加算」(初診7点、再診4点)が新設される。そもそも「オンライン資格確認システム」は、従来から患者の個人情報漏洩リスクが指摘されており、その責任が医療機関に押し付けられている。そのようなシステムを診療報酬を用いて推進することは撤回すべきだ。
フリーアクセスの制限や保険外し
 紹介状なし受診患者への定額負担を引き上げ対象病院を拡大するが、患者のフリーアクセスをいっそう阻害することにつながる。加えて、定額負担を求める患者の保険給付から一定の点数を控除するという保険外しも行われる。
 また、1処方あたりの湿布薬の上限枚数も現行の70枚から、63枚までさらに制限される。
入院料基準、厳格化進む
 急性期病床の重症度、医療・看護必要度における「心電図モニター」の評価項目が削除され、療養病床では医療区分3の評価項目のうち、「中心静脈栄養を実施している状態」の要件が厳格化される。いずれも多くの病院への影響が危惧される。コロナ禍で病院経営が疲弊する中、入院医療をいっそう抑制する改定は行うべきでない。
医療的ケア児、学校等と連携推進
 保育所や学校等で医療的ケア児が安心・安全に生活を過ごせるようにとの観点から、主治医と学校医等の連携を推進するため診療情報提供料(Ⅰ)の情報提供先が拡大されるなど、協会要求の一部実現もみられた。
歯科 わずか0.29%引き上げでは歯科医療を充実できない
歯科部会長  加藤 擁一
 歯科医療機関は長年にわたる低医療費政策により苦しい経営が続いてきたが、新型コロナ禍での院内感染対策経費の増加や、患者の受診控えによって、さらに厳しい経営状況に追い込まれた。歯科医療危機を打開するために、協会は1万筆以上の「保険でより良い歯科医療を求める」署名を国会に提出、歯科診療報酬の大幅引き上げを求めてきた。しかし、今回の歯科本体改定率は前々回、前回を大きく下回る+0.29%に留まっており、歯科医療の充実には不十分である。
 コロナ禍の中で、歯科医療機関は標準予防策に基づく徹底した院内感染防止対策を講じて、歯科医療を提供してきた。感染対策費用はコロナ禍の長期化の中で増加している。にもかかわらず、感染予防の徹底に必要として新設された歯科外来等感染症対策実施加算(5点)を昨年10月に廃止した上、今次改定でも感染対策の評価が全くされなかった。
 さらに、基本診療料はわずか3点の「引き上げ」に留まった。歯周基本治療処置(P基処、月1回10点)を廃止し財源に充てたというが、到底引き上げとは言えない。また院内感染対策の研修項目に標準予防策および新興感染症への対応が追加された。歯初診の届出廃止とともに院内感染防止対策の正当な評価と、基本診療料の大幅引き上げを改めて要求する。
 歯周病安定期治療(SPT)について、SPTⅠとⅡが統合されたが、かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)には加算点数が設けられており、Ce加算も含め一物二価の矛盾は解決されていない。
 CAD/CAMインレーが新設されメタルフリーが広がったが、強度や安定性への疑問の声が寄せられている。メタルフリーの非金属という特性を踏まえ、クラウンブリッジ維持管理料(補管)の対象から外すことが不可欠だ。
金パラ「逆ザヤ」、歯科技工問題の抜本的解決を
 金パラ「逆ザヤ」問題では、歯科用金属価格の随時改定が見直され、変動幅にかかわらず年4回の改定、素材価格の参照期間が改定実施の2カ月前に前倒しされた。改善はされたが、「逆ザヤ」が解消されるものではない。
 今回の補綴技術料のわずかな引き上げでは、歯科技工所の窮状を解決できない。メタルフリーの新たな導入がされたが、小規模歯科技工所では高額の設備投資ができず、経営が一層厳しくなることが予想される。歯科技工所の経営が成り立つよう、歯科技工物の保険点数の抜本的引き上げ、労働時間と原価計算に基づいた点数の制度設計などが求められる。
オンライン資格確認への誘導
 基本診療料にオンライン資格確認の評価が新設された。
 オンライン資格確認は受付業務の煩雑化や個人情報の漏洩リスクに加えて、多額の導入費用とランニングコストが発生する。
 さらに、マイナンバーカードの健康保険証としての利用や、カードリーダー設置は、患者も医療機関も政府が運営する「マイナポータル利用規約」に同意したものとみなされる。「利用規約」では、システム利用に伴うトラブルについて政府は責任を負わないことなどが明記されており、患者と医療機関が一方的に損害を被ることが危惧される。
 オンライン資格確認は問題が山積みである。遅々として進まないマイナンバーカードを広く普及するために、政府が診療報酬制度を利用することは許されない。
一部の施設基準廃止等運動により改善実現
 協会は、会員から寄せられた要求をもとに、不合理是正を求めて厚労省要請を繰り返してきたが、今回の改定で一部実現された。
 う蝕多発傾向者とフッ化物洗口指導加算(F洗)は対象年齢を拡大。フッ化物歯面塗布処置(F局)についても在宅等療養患者に限られていたが、65歳以上の外来患者に拡大された。
 歯科疾患管理料の総合医療管理加算の施設基準が廃止され、要件をみたせば全ての歯科医療機関での算定が可能になった。一方、廃止を求めていた歯科治療時医療管理料の施設基準は残された。
 口腔機能管理料と小児口腔機能管理料の対象年齢が拡大された。協会は生涯にわたる口腔機能管理を行う上で、歯科医師の判断で算定できるようにすることを求めてきたが、さらに指導、管理、訓練の機能を適正に評価して引き上げることが必要だ。
 そのほか、在宅患者訪問リハビリテーション指導管理料の対象疾患や対象年齢の拡大がなされた。処置、手術、検査、画像診断、有床義歯などで一部点数が引き上げられた。
 協会は、今後も歯科診療報酬の引き上げ、不合理是正を求めて、患者窓口負担の軽減とあわせて、「保険でより良い歯科医療」を求める運動に取り組んでいく。
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