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兵庫保険医新聞

2022年6月25日(2009号) ピックアップニュース

特集 2022年参議院選挙 政策座談会
新自由主義と決別する選挙に

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司会 加藤擁一副理事長

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足立了平副理事長

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水間美宏理事

 7月10日、投開票が予定されている参議院選挙にあたって、政策・運動・広報委員会ではこれまでの国政を、医療政策を中心に振り返るとともに、主要な政党の公約等について議論した。司会は加藤擁一政策部長。参加者は、西山裕康理事長・武村義人・川西敏雄・足立了平各副理事長、水間美宏・木原章雄両理事。

繰り返された診療報酬マイナス改定
 加藤 いよいよ参議院選挙だ。まずはこれまでの自公政権について、振り返りたい。
 木原 今回の選挙で、医療・社会保障分野で問われているのは、コロナ禍で露呈した日本の医療提供体制の脆弱性を克服するために、これまでの徹底した医療費抑制政策を転換するのか、それとも続けるのかだ。
 西山 亡くなった方や後遺症で苦しんでいる方が大勢おられるのは事実だが、日本の新型コロナウイルス感染者数は欧米に比べて少なかった。にもかかわらず、医療崩壊とまで呼ばれる事態に至ってしまった。その背景には、OECD諸国と比較して少なすぎる医師数、地域医療構想による病床削減、公衆衛生行政の軽視、医療機関から余力を奪った度重なる診療報酬のマイナス改定などが長く続いてきたことがある(図1)。今後の新興感染症に備えるためには、それらの政策の転換が求められているのは明白だ。
 武村 しかし、岸田自公政権が行ったのは、医療提供体制の強化どころか、さらなる縮小だ。実際4月の診療報酬改定はマイナス改定だったし、本体部分もプラス幅はコロナ禍以前よりも小さかった。これが新型コロナウイルス感染症と最前線でたたかう医療機関に対する政府の姿勢だと思うと、本当にやりきれない。
 水間 その通り。さらに、今回の診療報酬改定では、医師の診察を省略し、処方箋を反復して利用できる「リフィル処方箋」が導入された。医師が患者の症状変化に適した処方ができなくなる可能性があり問題だ。政府の狙いは、医師の診察回数を減らすことによる医療費抑制だ。
 西山 また、紹介状を持たずに病院を受診する患者の定額負担の引き上げや対象病院の拡大、定額負担部分の保険外しも導入された。
 足立 今回の改定を見れば、歯科の分野でも岸田自公政権は、これまでの低医療費政策を改めようとしていないことは明らかだ。この間、口腔内の疾患が肺炎、循環器疾患、糖尿病等の増悪に関連していることが明らかになるなど、歯科医療の全身の健康に及ぼす影響が重要視されているにも関わらず、政府は25年以上、歯科医療費を据え置いたままだ。結果、コロナ禍に伴う患者の受診抑制も加わって、歯科医療機関は非常に厳しい経営を強いられている。
 川西 歯科医療機関の経営危機は、歯科技工士の待遇悪化にも直結している。すでに低すぎる歯科医療費のために、歯科技工士の給料は低くならざるを得ない。離職率も高く、このままでは日本国内で技工物が製作できなくなるとまで言われている。今回の参議院選挙では、これらの歯科医療危機を打開する選挙にしなければならない。
医療費抑制策続ける岸田自公政権
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西山裕康理事長

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武村義人副理事長

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川西敏雄副理事長

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木原章雄理事

 加藤 診療報酬改定以外の医療政策についてはどうだろう。
 川西 岸田自公政権が進めようとしているのが10月からの後期高齢者の医療費窓口負担2倍化だ。コロナ禍では感染の恐れから受診抑制が広がった。さらに、この間の物価高や4月からの年金引き下げ、景気の低迷による雇い止めなどで、高齢者の生活は苦しくなる一方だ。そのような中、医療費窓口負担を2倍化すれば、高齢者の受診抑制に一層拍車がかかってしまう。国立がん研究センターによると2020年に全国でがんの診断を受けた数が、前年に比べて5.9%、約6万件減少している。一刻も早く医療機関への受診回復を進めないと、多くの人の命と健康が脅かされてしまう。
 西山 財務省などが新型コロナ禍を利用して、新たな医療費抑制政策を導入しようとしていることにも注意が必要だ。財務省の財政制度等審議会財政制度分科会は、5月25日に「歴史の転換点における財政運営」を発表したが、その中で「かかりつけ医機能の強化の取組が実体面で実効性を上げているとは言えない状況下で、...新型コロナ感染の可能性のある患者に対して診察を断る医療機関も当初は少なくなかった」「我が国の医療保険制度の金看板とされてきたフリーアクセスは、肝心な時に十分に機能しなかった可能性が高い」などとして、かかりつけ医の制度化を進めようとしている。しかし、新型コロナウイルス感染症は2類相当の感染症で、当初は十分な情報も検査体制も治療ガイドラインもなかった。結果、専門的な医療機関と保健所で対応せざるを得なかったが、未知の新興感染症にもかかわらず当初から多くの医療機関が地域の患者に前向きに対応していたし、専門的な病院に代わって通常医療を提供していた。実際に協会のアンケートでも第4波の頃は、医科のうち約6割の診療所が発熱患者を受け入れており、かかりつけ医制度が整備されていないから国民の医療へのアクセスが制限されたというのは偏向した評価だ。
 武村 そもそも、政府はかかりつけ医制度の導入をコロナ禍以前から狙っている。その目的は、病院や専門的な医療機関に患者が直接アクセスすることを制限し、かかりつけ医以外の受診に患者負担を上乗せしたり、患者さんを登録制にして包括払い、さらには人頭払いを導入して、最終的には医療費を抑制することだ。決して患者の健康や利便性を第一に考えてのことではない。反対の世論を広げなければならない。
 木原 もう一点、コロナ禍を好機と捉え、医療分野でのIT化が進んでいないことを問題視し、オンライン診療の拡大やマイナンバーカードを利用したオンライン資格確認義務化、さらには保険証の廃止までも目論んでいる。私たちは医療技術の高度化については歓迎する立場だし、山間や離島などでの医療提供としてはオンライン診療の要望も高いだろう。しかし、医学的には患者から得られる情報の多い対面診療の方が優れているのは事実だ。オンライン診療を拡大するのであれば、オンライン診療に対面診療と同等かそれ以上の診療成績があるというエビデンスの積み重ねが必要で、今の段階での拡大は、拙速だと言わざるを得ない。背景には、IT産業のビジネスチャンス拡大要求があるとしか思えない。IT産業の利益のためにエビデンスのない診療行為を広げるのは、患者の不利益になるばかりか、医師が結果責任を問われることも危惧され問題だと思う。
 西山 マイナンバーカードによるオンライン資格確認も、患者にとってほとんどメリットがない。にもかかわらず、政府が頑なにオンライン資格確認を進めようとするのは、マイナンバーカードの普及が思うように進んでいないからだろう。利便性もなく国民が必要性を感じないマイナンバーカードの普及に政府はすでに2兆円を投じているという。この背景にもIT産業による要求があるのだろう。
 加藤 ここまでの話で岸田自公政権の医療政策はこれまでの安倍・菅政権と同様、医療費抑制政策を徹底するものであることがハッキリした。今回の選挙では、こうした方向にNOを突き付けることが大切だ。さて、医療政策以外はどうだろうか。
アベノミクスを引き継いだ岸田自公政権
 武村 当初、岸田首相は「新自由主義からの脱却」を掲げ金融所得課税の強化などを打ち出していたので、淡い期待を持ったのは確かだ。しかし、今回の「新しい資本主義」実行計画案では、当初掲げた「分配重視」は消え、「アベノミクス」の「3本の矢の枠組み」の「堅持」が明記された。これは、安倍・菅政権から続く新自由主義的政策を続けると宣言したもので、とても期待できるものではない。また、当初口にしていた「令和版所得倍増」もいつの間にか「資産所得倍増」になり、国民の資産をリスクの高い金融商品に誘導するもので、アベノミクスで進められたGPIFによる年金資産による株価の買い支えをさらに補強するものだ。
 西山 今、多くの国民の生活が物価高騰により苦しくなっている。政府はウクライナ危機が原因だと強弁しているが、先進各国が利上げを行う中、日本はアベノミクスの下で極端な低金利政策で円安誘導を行って来たため、利上げを行うことができず、日米の金利差により円安に拍車がかかり、物価が高騰しているというのも事実だ。
 足立 物価高騰で暮らしが苦しくなっているのは、これまでの政治が家計から余力を奪ってきたという面も大きい。度重なる社会保障改悪で年金が引き下げられ、医療や介護の窓口負担や利用者負担は引き上げられ続けてきた。また、消費税増税も家計に大きな負担を強いてきた。また、これまでの大企業を優遇する政策によって雇用が破壊され、非正規雇用が増やされ続けてきたし、正社員の賃金も低く抑制されてきた。これでは、家計が物価の高騰に耐えられるわけがない。黒田東彦日銀総裁が物価高について「家計の値上げ許容度が高まっている」などと発言したが、批判を受けて撤回に追い込まれたのは当然だ。
 水間 やはり、今必要なことは消費税の減税ではないだろうか。実際に、コロナ禍を受けて、世界89の国と地域で消費税の減税が行われている。日本も見習うべきだろう。
 川西 そのとおりだ。今、必要な経済政策は、新自由主義的政策の見直しだ。資本主義の生まれた国イギリスや資本主義の総本山と呼ばれるアメリカでも法人税率の引き上げや金融資産・所得課税強化が行われている(図2)。日本でも、これまでの新自由主義的政策で内部留保を積み上げ続けてきた大企業や資産を増やしてきた超富裕層に応分の負担を求めて、それを財源に社会保障を充実させ、雇用を安定化させ、賃金を引き上げて家計を温め、将来不安を払しょくさせるべきだ(図3)。そうすればGDPの中でも最も大きな部分を占める家計消費が拡大し、30年にわたり停滞してきた経済も活性化し、再び成長ができるはずだ。
野党は政治変革の思いを受け止める構えを
 加藤 では、各党の社会保障や経済政策についてみていきたい。自公両党は政権与党として岸田政権を支える立場で、期待できない。注目すべきは野党の政策だと思う。ただ、この間の国政選挙では、立憲野党による共闘が行われて、市民連合を中心に政策要望書を各党で確認してきたが、今回の野党共闘はかなり限定的となったので、各党の政策をそれぞれ分析する必要がありそうだ。
 武村 まず、医療政策だが、立憲民主党は、後期高齢者の医療費窓口負担割合引き上げの撤回や「地域医療構想」の抜本的に見直しを掲げていて私たちの要求に合致する部分は多い。ただし、「日本版家庭医制度」の創設を盛り込んでおり、政府が進めようとしているかかりつけ医の制度化には前向きともとれるため注意が必要だ。前回の総選挙で躍進した野党第2党の日本維新の会だが、ベーシックインカムの導入や消費税の減税など見るべき政策はあるものの、同時に社会保障給付の削減や法人税の減税なども同時に掲げており、新自由主義が標榜する「小さな政府」を徹底するものだ。実際、維新の会が政治を担う大阪府・市では、公立病院や地方衛生研究所の統廃合に代表されるような行政サービスの徹底的な切り捨てが行われており、とても期待することはできない。また、議員の不祥事も多く、それに対する党の対応も非常に甘い。身を切る改革を掲げているが実際には、新たな利権政治を生み出すだけではないだろうか。
 川西 国民民主党についても変革は期待できないだろう。今年の通常国会でも野党であるにもかかわらず、政府提出の本予算、補正予算案に賛成した。予算案というのは、政府与党の政治の大本をなすもので、それに賛成するというのは、与党の政治に全面的に賛成するということだ。さらに内閣不信任案に反対するなど、完全に政権を支える存在となっている。背景には、政府自民党と連合の関係が非常に近くなっているという事情がありそうだ。そもそも連合が組織している大手民間企業の正社員が望む政策は自民党との整合性も高い。連合はすでに労働者のナショナルセンターとしての役割をもう果たしていないと見ることもできる。連合には非正規雇用で働く人も含めて、働く人を代表する健全な労働組合になってほしい。
 木原 共産党は新自由主義を転換して「やさしく強い経済」をつくると言っている。具体的には消費税の減税、社会保障予算の充実、医学部定員の拡大、地域医療構想の見直しなどを掲げており、大いに期待が持てそうだ。財源論として新たに大企業の内部留保への課税を掲げている。私たちは内部留保については、法人税の引き上げや雇用の安定化、賃金の引き上げを通じて、解消するべきだとの立場だが、大企業に応分の負担を求めるという点では一致していると思う。
 川西 れいわ新選組は、消費税は法人税減税の穴埋めに使われているとして、消費税廃止を訴えている。また、医療従事者の処遇改善や公的医療保険に対する国費投入を倍にすることを訴えていて、私たちの主張にも近い。特徴的なのはその財源論で、政府には通貨発行権があるので、自国通貨財源の不足に直面することはなく、インフレ率に基づく財政規律を重視すべきといういわゆる現代貨幣理論(MMT)を採用している。また、社民党は、憲法の理念が実現された社会、格差を是正した生活優先の社会を掲げており、大きく私たちが望む政治を目指していると思う。
 西山 各党それぞれの公約を見てきたが、現在の岸田自公政権に政策の転換を迫るほどの野党の躍進は見込めないのではないだろうか。この間の世論調査を見ても内閣支持率も自民党の支持率も非常に高いが、野党への国民の期待は薄い。
 木原 とはいうものの、政治が変わってほしいかとの世論調査の質問には多くの国民が「変わってほしい」と回答している。問題は現在の自公政権に代わる政治勢力として立憲野党が認識されていないことだと思う。そういう意味では、これまでの立憲野党による野党共闘が後退してしまったのは残念だ。立憲野党には今からでも1人区を中心に共闘を進めてほしい。
平和国家としての岐路に立つ日本
 加藤 さて、今回の選挙でもう一点非常に大切なのが、平和を巡る問題だと思う。
 水間 ロシアによるウクライナ侵攻では、すでに多くの人命が失われており、即時停戦を求めたい。協会としても侵攻に強く抗議を行ったように、許されざる蛮行と判断している。ただ同時に、ここまで戦闘が長引き、多くの犠牲が出ている一つの原因には、いわゆる西側諸国によるウクライナへの武器供与や、ゼレンスキー大統領がウクライナの成人男性の国外退去を禁止し、ロシア軍への徹底抗戦を指示しているという点も見逃せない。また、侵攻を受けて、北欧諸国が軍事同盟であるNATOに加盟を申請したが、これもロシアを刺激して地域の軍事的緊張を高めるものだ。各国には冷静な対応を求めたい。
 足立 日本の政治に引き付けて考えれば、ウクライナ危機を利用して国民の不安を煽り、日本の軍事大国化を進めようとする主張が勢いを増している。非常に危険だと思う。
 西山 ウクライナ危機に際して自民党が打ち出したのは、防衛費のGDP比2%までの引き上げ、敵基地攻撃能力の保有、憲法9条の改正だ。これには、国民民主党も「反撃力を整備するために必要な防衛費を増やす」とほぼ賛同している。維新の会に至っては、自民党よりもタカ派で、自民党の政策に加えて「核共有」の議論を行うとしている。
 武村 軍事力に対して軍事力で対抗するという考え方では平和は訪れない。ウクライナはこの間、軍事費をずっと増やしてきたし、NATO諸国に接近してNATO加盟を模索していた。しかし、そのことがロシアの不信感を煽り、今回のウクライナ危機が起こったのではないだろうか。自公政権や維新の会は、日本がウクライナのようにならないために軍事費を増やして日米同盟を強化することが必要だというが、それは周辺諸国に不信感を振りまき、軍拡競争を招き、戦争につながりかねない危険な道だ。
 木原 にもかかわらず、マスコミが連日、危機を煽り日本の軍事大国化を推し進める世論作りをしている。まるで戦前の翼賛体制のようで非常に危機的な状況だ。こうした時こそ冷静にならなければならない。
 武村 敵基地攻撃能力の保有は、従来の憲法解釈である「専守防衛」を覆すものだ。さらに政府は、「敵基地攻撃能力」は集団的自衛権の行使の際にも利用できるとの見解を明らかにした。つまり、日本が攻撃されていないのに、米国をはじめとする同盟国の戦争を理由に安保法制により認められた集団的自衛権を発動して、自衛隊が相手国に「敵基地攻撃能力」を使って攻撃を加えることができるということだ。これは、もう先制攻撃以外の何物でもなく、憲法9条を空文化するもので、極めて危険なものだと思う。
 川西 憲法は法規範であり、国会議員をはじめ公務員には憲法尊重擁護義務がある。守らないという人には投票しない。もう一点、軍事費をGDP比2%まで引き上げるというが、それは年間6兆円の財源が新たに必要になるということだ。その財源をねん出するために、社会保障予算の削減や国民負担増が行われるのは明らかだ。
 水間 東京新聞によれば、それだけの予算があれば、大学無償化、児童手当の拡充、給食無償化ができるし、年金であれば、全受給者に月1万円を上乗せすることができる。また、消費税を2%引き下げることもできる。医療の窓口負担であれば、ほぼゼロにすることができる金額だ。まさに、今回の選挙は「大砲かバターか」が問われる選挙といってもいいのではないだろうか。やはり軍事費を増やすのではなく、社会保障費を増やせと訴えなければならない。
投票に行こう
 西山 医師・歯科医師としての立場、責任からは、やはり医療・社会保障政策を重視し、憲法を守るのかどうかをよく考えて投票先を決めてほしい。「選挙に行っても政治は変わらない」のではなく、選挙でしか政治は変えられない。投票しなければ18歳以下の子どもと同じ扱いで、政治家が投票しない人への政策を軽視するのはある意味合理的だ。投票率が下がれば熱心に選挙に行く層や、多額の献金をするような団体の意向に沿った政治が進められてしまう。これは、政治が劣化する負のスパイラルだと思う。
 加藤 政治に関心を持ち、少しでも知識を得て、家族やスタッフ、患者さんとも話をして、必ず投票に行ってほしい。

図1 減らされ続けた保健所と病床
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図2 アメリカやイギリスでは新自由主義を改める動きも
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図3 増え続ける内部留保・配当金と上がらない賃金
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