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兵庫保険医新聞

2022年11月05日(2021号) ピックアップニュース

特別インタビュー 県立はりま姫路総合医療センター 木下 芳一院長
地域で活躍できる人を育てる病院に

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【きのした よしかず】1980年神戸大学卒業、87年ミネソタ州メイヨークリニックへ留学(リサーチフェロー)、97年島根医科大学第2内科教授、2002年同大学附属病院光学医療診療部部長、03年島根大学医学部第二内科学教授、2004年島根大学医学部副学部長、07年同大学医学部学部長、12年同大学医学部附属病院副院長、19年製鉄記念広畑病院病院長、20年県立姫路循環器病センター院長

 今年5月に開院した県立はりま姫路総合医療センター(愛称:はり姫)は、県立姫路循環器病センター(330床)と製鉄記念広畑病院(392床)が統合してできた736床の姫路・西播磨地域で最大規模の病院だ。開院前から責任者として新病院計画を進めてきた木下芳一院長に、西山裕康理事長と宮武博明組織部長がインタビューした。

西播磨地域の医師不足改善担う
 宮武 開院後のお忙しい時期にインタビューをお引き受けいただき、また、保険医協会にご入会いただき、ありがとうございます。
 西山 本日は新病院の特色や開院までのエピソードなどをお伺いしたいと思いますが、まず、「はり姫」という病院の愛称がいいですね。
 木下 ありがとうございます。市民や職員の公募で決まったもので、対抗馬は「はりせん」でしたが別のイメージが浮かぶということで(笑)。開院から間もないですが、みんなに「はり姫、はり姫」と言っていただき、短期間で広まっていて、うれしいですね。
 西山 開院までの経緯をお聞かせください。
 木下 この播磨姫路圏域、特に西播磨地域は人口当たり医師数が県内で最も少なく、私が以前勤務していた島根県なら隠岐の島と同程度になります。毎年、姫路市周辺から医学部に進学する人は100人ほどいるのに、この地域に戻ってきていないのです。医師不足により重症患者の受け入れ困難事例が他地域の倍にのぼっており、医師を増やして救急体制を改善しようというのが、新病院のもともとのプランです。
 そこで、高齢者患者の増加に伴い、循環器疾患以外の対応を必要とするケースが増えていた県立姫路循環器病センター(以下、姫循)を総合病院化しようという方向となり、パートナーとして製鉄記念広畑病院(以下、広畑)が選ばれたのです。
「やらないこと」はっきり示し連携
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西山 裕康 理事長

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宮武 博明 組織部長

 宮武 民間病院と県立病院の統合というのは、聞いたことがありません。責任者の先生にはいろいろなご苦労があったのではないでしょうか。
 木下 新病院の責任者にというお話をいただき、私がまず2019年に広畑の病院長に就いたときは、なぜ統合するのだ、そんな大きな病院はいらないだろう、という声をよく耳にしました。
 そこでまず、四つのミッションを明確にしました。救命救急、高度専門医療、人材育成、臨床研究です。特に人材育成では、当院のためではなく、地域全体で活躍できる総合内科的な能力を持った人を育てると説明しました。
 そしてもう一つ、「何をやらないのか」をはっきり示しました。かかりつけ医や回復期機能、地域包括ケア病床、慢性透析、一般健診は行わず、当院は高度急性期の救急と専門医療に特化するので、他の病院・クリニックに助けてほしいと、ポスターを何回もつくるなどして繰り返し説明すると、少しずつ理解が進んできました。
 西山 大病院が地域の患者も医師もすべて引き付けてしまっては、周囲の医療機関との連携が難しくなります。
 木下 ええ、地域医療には協力体制が重要です。
 それと、県立となる新病院に、広畑の職員は雇用されるのかという懸念が強くありましたが、採用試験として面接を行い、希望者の多くを新病院で採用することができました。県職員は病院以外の部門にも異動しますが、広畑には長年働き病院の事務的な業務をよくご存じの方が多く、非常に助かりました。
 待遇面でも、看護師や事務職員では全体としての待遇は、県の方がよく、医師も長期間勤務の幹部の方以外は同様だったので、大きな問題は起きずに済みました。
 病院建築や設備関係では苦労続きで、壁の厚さが当初の設計と違ったり、会計の機械をすべて稼働させようとしたら電圧が足りなかったり、電話がつながりにくいなど、次々に起きるトラブルを一つひとつ改善しながら、進んでいるところです。
 西山 病院統合にあたり、地域医療連携推進法人を作られていたと思いますが、現在はどうなっているのですか。
 木下 推進法人は県立と民間という管理者が全く違う病院を統合するにあたって、共同で準備を行い、事務手続きを取りまとめるために立ち上げたものですので、新病院開院時に解散しています。同法人には利点もありますが、法人グループ外の医療機関には疎外感を与えかねません。全国的にも、地域の全医療機関が入っているなど上手に利用するのに気をつかう点もあり、公立・公的病院が入って有効に活用されているものは、ごく一部に限られるのではないでしょうか。
 宮武 先日、当会の入会案内に伺ったときに、二つの病院で、性格が全く違うと仰っていたのが印象的でした。
 木下 ええ、統合準備にあたり、私は両病院に勤めましたが、組織としての性格が全く違うのです。診療報酬改定など変化があると、広畑は、すぐに対応しようと動き、走りながら改善します。一方、姫循はまず対応をよく議論しシミュレーションします。
 川を渡る場合に例えると、広畑は近くに落ちている物干し竿を見つけたら、その長さなどは気にせず、とにかく川の真ん中に突き立てて飛んでみる。姫循は物干し竿を無視し、木の橋があっても渡らず石の橋を探し、石の橋を見つけたらトンカチで叩いて、大丈夫と分かったら、さらに誰から渡るのか検討します。
 新型コロナ患者を初めて受け入れたときも、広畑は受け入れ要請があると、すぐに応諾の返事をして対応しました。一方、姫循は受け入れ開始時期は遅くなりましたが、元々体制が整っていましたので、受け入れると決まった後は多くの患者を受け入れました。それぞれ長所も短所もあるので、双方の良い点を取り入れていくことが新病院では大事だと思っています。
県立病院として救急に注力
 宮武 開院後、研修医のマッチング結果はいかがでしょうか。
 木下 広畑は初期研修医の定員が8人でした。新病院では14人の定員に対し、来春の応募者は60人と4倍以上の倍率になっており、非常に多くの研修医に興味を持っていただいているのは間違いないと手応えを感じています。
 宮武 すばらしいですね。先生のご努力の賜物と思います。
 西山 地域の開業医との関わりも非常に密にされているように感じます。
 木下 はい、紹介いただく入院患者の多くは周辺の病院から、外来患者の多くは周辺地域のクリニックからですので、病院・診療所どちらも重要と考えています。
 地域連携懇談会も行っていますし、救急や循環器、脳卒中、気胸、外傷などのホットラインも多数用意しており、それぞれの必要にあわせて消防や病院だけでなく、地域の診療所ともつながっています。また、医療機関専用の救急ダイヤルがあり、いつでも当院で対応できるような体制をとっています。
 西山 それは安心につながりますね。
 宮武 ホットラインでは看護師の役割が重要と思いますが、体制はいかがですか。
 木下 救急のICUに日勤帯は21人、夜勤帯は10人、救急初療エリアに8人ほどおります。それでも一度に心カテを2例行うと十分な救急受け入れが困難になります。現在はまだ全病床を稼働できておらず、来年春にフル稼働する計画ですので、それまでには救急初療の看護師を増やしたいと考えています。
 宮武 すばらしい体制ですね。ただ、これだけ救急部門に重点を置くと、経営的には苦しいのではありませんか。
 木下 はい、救急が病院機能の半分を占めますが、診療報酬上の加算要件をすべて満たしても、救急は赤字になると思いますので、非常に苦しいところです。
 西山 救急などの不採算部門は公立病院が担うべき重要な役割の一つですから、県民の理解を得て、県が財政負担することが必要と思います。
 木下 その通りです。経営的に考えると、当院のような救急に特化して、維持透析も地域包括ケア病棟も一般健診も行わない病院というのは成り立ちません。そこで、地方公営企業法に基づく総務省が定めている基準に基づいて繰入金を計算していただきました。この繰入金を加算すると、何とか赤字にならずに運用できるかと思っています。本当はもう少し補助金を増やしてくれればと思いますが(笑)。
 西山 施設基準などでは、当会のサポートがお役に立てればと思っています。
 木下 ありがとうございます。要件を満たすのが非常に大変で、しかも頻繁に変更となり苦労していますので、保険医協会にサポートいただけると大変ありがたいですね。それと、高齢者が増えていく中で、救急患者もその多くが高齢者のため、在宅医療が重要になっていると考えています。在宅医療との連携やそのサポートに力を入れてほしいと思いますね。
 宮武 在宅医療との連携は、協会としても課題と感じていますので、ご意見を受け止め、サポート体制を充実していきたいと思います。
 西山 「はり姫」が地域住民から、大事な病院だと理解され、大きく発展されることを願っております。
 木下 ありがとうございます。私の目標は、診療圏外から来られる患者が5%いる病院です。他の地域からもたくさん患者さんが来て、地元の人から「うちの町には『はり姫』があるんよ」と言っていただけるような病院をめざしたいと思っています。
 宮武 先生ならきっと実現できると思います。本日はありがとうございました。
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