兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2023年1月05日(2026号) ピックアップニュース

新春インタビュー 多様性認め働き方を
県立はりま姫路総合医療センター 臨床研修センター長 大内佐智子先生

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県立はりま姫路総合医療センター 
臨床研修センター長 
大内佐智子先生
【おおうち さちこ】1989年神戸大学卒業、同大学医学部附属病院内科研修医、91年県立姫路循環器病センター内科医員、94年東京女子医大消化器病センターへ国内留学、95年神戸大学医学部付属病院第二内科医員、97年新日鉄広畑病院光学診療部部長、2010年同病院消化器内科部長、12年県立加古川医療センター消化器内科部長、16年製鉄記念広畑病院内科統括部長、22年より現職

 医学部入学の4割を女性が占めるようになった。県立はりま姫路総合医療センター(はり姫)で臨床研修センター長を務める大内佐智子先生は、院内で女性医師の仕事と育児の両立などの体制を充実させるとともに、県医師会女性医師の会会長として制度改善を働きかけている。多田梢副理事長(兵庫県保険医協会女性医師・歯科医師の会世話人)がその取り組みについて聞いた。

育児と診療 どう両立するか
 多田 私が学生の頃はクラスに女性は数人という時代でした。今は半分近くに増え、すっかり時代が変わったと感じています。しかし、女性医師が働くにあたって、育児と仕事をどう両立するかが大きな課題というのは今も変わっていないように思います。
 大内 そうですね。私も、2人の子どもが小さかった頃、保育園が見つからず引越しをせざるをえなかったり、全く休みが取れず非常に大変だったという経験をしました。今、当センターや県医の女性医師の会で若い人の要望を聞いていると、その時と状況はかなり変わってきています。
 院内保育の整備が進み、病児保育を行う施設も増えてきました。ほとんどの先生が出産後に育休をとられるようになっていますし、以前は妊娠した人は申し出れば当直が免除されるという制度だったのが、今では特に当直をしたいという申し出がなければ、当然免除されるという風に変わってきました。それと、新型コロナ感染拡大で、専門医取得に必要な学会などにオンラインで参加しやすくなったことも大きな変化です。
 これまでの先生方が一生懸命進めてきた努力が実っていると同時に、第2ステージに入ったと捉えています。
 多田 確かに私の頃には想像もつかなかったです。とても改善が進んでいますね。背景には何があるのでしょう。
 大内 若い医師の働き方に対する意識の変化があると思います。特に年次有給休暇の年5日の取得が義務付けられたことが大きく、以前は、年休なんて取れないという雰囲気でしたが、今の研修医は皆、自分から年休取得を申し出てきます。また、コロナでやむを得ずスタッフが休むことが多くなり、休んでも診療はまわせるという意識ができてきているように感じます。
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聞き手 多田 梢副理事長

多様な働き方認め医師を集める
 多田 若い医師の意識が変わっているのですね。ただ、少ない医師数で、診療体制を維持するのは大変ではないでしょうか。
 大内 確かにそうで、私自身の経験でも、製鉄記念広畑病院の頃は時間外の呼び出しが多く大変でしたが、合併しはり姫になって医師数が増え交代勤務がしやすくなったと感じています。ただ、大規模でない病院では難しく、医師数増が一番の課題でしょう。
 多田 はり姫では具体的にどのような取り組みをされているのでしょう。
 大内 今、私がいる総合内科は、他の医療機関への指導で週1日いない先生、子育て中で夜は勤務が難しい先生や、親の介護で週1日は地元に戻らないといけない先生など、事情を抱える先生がたくさんおられます。皆が休むので、子育て中の女性医師も特別気を遣うことなく、皆でうまく交代しながら働いています。
 このように時短の医師の受け入れを進めると徐々に総合内科に集まる医師が増えてきていて、多様な人を受け入れることが大事なんだと実感しているところです。
 多田 すばらしいですね。一方、科によってはなかなか難しいところもあるのではないでしょうか。
 大内 その通りです。ただ、最近は各科の医局も協力的になってきていて、これまでは医局派遣の先生が産休・育休で休むと欠員のままだったのが、補充人員を入れてくれるようになりました。医師数が少ないなか、女性医師に辞めずに勤務を続けてもらおうと、医局も徐々に意識が変わってきたのだと思います。
 多田 はり姫の女性医師はどのくらいおられるのですか。
 大内 常勤医師225人のうち、46人(研修医含む)です。今年の研修医は女性と男性が4人と6人で、来年は8人と6人とたまたまですが女性が多くなりました。
 院内の医局会で男女共同参画推進委員会をつくって、各診療科の先生に集まってもらって話し合いをしています。広畑の時は女性の先生を誘って食事に行ったりしていたのですがコロナでできなくなってしまったので、今はライングループを作って、知り合いの女性の先生に声をかけて、交流しています。いろいろな科の先生がいるので、若い研修医の先生にとっても情報が得られてよいようです。お金を出し合って出産祝いもしています。
 多田 そうやって先輩に相談できると心強いですね。育児で辞めてしまう女性医師は今も多いのでしょうか。
 大内 この数年で減っているように感じますが、夫が医師でもそうでなくても、家事・育児、介護などの多くを担っている先生がほとんどで、勤務時間や日数を減らすケースは多いですね。
 多田 家事や育児は女性という状況はなかなか変わりませんね。
 大内 そうですね。ただ、男性の育休取得も積極的に推進されるようになり、当センターでも育休を取得する男性医師が出てきました。これから10年経つと、意識、そして状況がさらに変わってくると期待しています。
 正直なところ今は私も、同僚の男性医師が17時に帰ると「困る」と思ってしまいます。男性が長時間労働をしないと回らない状況なのです。本当は医師数が全体として増えて、皆が長時間労働でなくなるのが一番なのですが。
 多田 われわれの働き方に対する意識を変えるとともに、医師数増が大事だということがよく分かります。
若い医師の声聞き行政に働きかけ
 多田 大内先生は院内だけでなく、県医師会の女性医師の会代表として、女性医師の働きやすい環境整備のためにさまざまな取り組みをされていますね。
 大内 前任の先生から昨年、会長を引き継ぎました。ちょうど専門医制度のプログラムも始まり、勤務医のほうが若い先生の状況が分かるだろうということもありました。
 診療科によって、そして個人の抱える事情によって、医師の働き方は大きく変わりますので、若手医師の声を聞きながら、それぞれに合わせた働き方の改革をしたいと考えています。
 この間では、県立病院の時短勤務の勤務時間が3パターンしかなかったのですが、県に働きかけ、柔軟に運用できるように改善していただきました。他にも、専門医制度で、診療科によってプログラム中に出産で休める期間が違い、出産・子育て時に対応しづらい問題などがあり、カリキュラム制など、もっと柔軟にしてほしいと政府や学会へ要望しています。
 この1月には、次に向けての取り組みとして、県内の勤務医を対象に、当直免除や時短勤務についての意識や、育児や介護を分担している割合などについて聞く実態調査を実施予定です。アンケートはグーグルフォームから入力できるようにしています。各医療機関に「医療機関等の勤務環境に関するアンケート調査」の案内が届きましたら、ご協力をお願いします。
 多田 世代や性別に分け、当直免除や時短勤務をどう思っているか、家事・介護などをどのくらい分担しているか分かるということですね。育児が終わっても、介護がやってくると。
 大内 そうです。実は私自身が今、介護の問題に直面しています。3年ほど前に父が亡くなったのですが、父の介護が必要だったのに私は勤務を休めず、家族や受験生だった娘らの力も借りました。今振り返ると、2週間だけでも休んで介護できていたらよかったと思います。今も、新たな介護の問題に悩んでおり、やはり必要なときに休める体制が必要と感じています。
 多田 まだまだ取り組みが必要ですね。協会もぜひ協力させてください。
 大内 ありがとうございます。今回、紙面で取り上げていただいたこともありがたく、できるだけ多くの皆さんに知っていただきたいと思っています。協会には、ずっと前から共済でお世話になっていますし、いろいろな情報も聞けて助かると聞いています。これからもよろしくお願いします。
 多田 本日はありがとうございました。
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