兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2023年2月25日(2030号) ピックアップニュース

会員インタビュー 「ロシアのウクライナ侵略は中止を」
ウクライナの人々を音楽で支援

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丹波市・丹波アレルギークリニック 
眞田幸昭先生
【さなだ ゆきあき】1946年生まれ。1972年神戸大学卒業、78年同大学院修了。国立療養所兵庫中央病院、国立療養所秋田病院、兵庫県保健環境部健康課、西紀町国保診療所に勤務。趣味の登山をきっかけに1997年長野県で開業。リタイアしていたが義母の介護のため丹波市へ来たのをきっかけに、21年丹波市で再開業

 ロシアによるウクライナ侵攻から2月24日で1年となった。丹波市の眞田幸昭先生(丹波アレルギークリニック)は、この侵攻により被害にあったウクライナの人々への支援を音楽を通じて行おうとプロジェクトを立ち上げている。口分田真副理事長がその取り組みについてオンラインで聞いた。

こども病院爆撃でいてもたってもいられず
 口分田 プーチン大統領の一方的なウクライナへの侵略開始から1年が経ったにもかかわらず、戦争は終わる展望が見えておらず、暗澹たる気分です。医師として何ができるかと考える日々ですが、先生は「ウクライナの人々を音楽で支えるプロジェクト」を立ち上げたそうですね。
 眞田 はい。ウクライナのこども病院が爆撃を受けている映像を見て、小児科医として黙ってはいられないと感じたのです。何かできることはないかと知り合いに声をかけ、4名の音楽家と一つのアマチュア音楽集団のご協力を得て、「ウクライナの人々を音楽で支援するプロジェクト」を昨年3月に立ち上げました。
 口分田 具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?
 眞田 大きく二つあり、一つ目は、YouTubeでの音楽配信です。多川響子さんによるベートーベンのピアノソナタ「悲愴」第2楽章など、音楽家の演奏を無料で公開しています。
 口分田 誰でもアクセスできていいですね。登録なども先生が行われたのですか?
 眞田 はい、本を購入するなどして勉強しました。実は2年前の東京オリンピック時にも、新型コロナ感染拡大がひどい時期にオリンピックにばかり目を向けるのではなく、命や生活を考えてほしいと、IOCのバッハ会長にかけて「オリンピック期間中にバッハを聴こう」というキャンペーンを実施しました。そのときは業者の方にお願いしたのですが、今回は自分でやろうと。
 それともう一つ、支援コンサートも行いたいと思って、丹波市の「たんば黎明館」で昨年12月に古楽コンサートを行いました。
 ソプラノ歌手の原謡子さん、古楽器「テオルボ」奏者でバリトン歌手の笠原雅仁さん、チェンバロ奏者の杉本周介さんに、ジュリオ・カッチーニなど、17世紀前半の音楽を演奏いただき、入場料およびご厚志はユニセフに全額寄付しました。
 コンサートの参加者は20人程度と決して多くありませんが、感謝のお手紙をいただくなど、やってよかったと思っています。
 この音楽を聴いて、ウクライナで苦しむ人々のことを考え、支援の輪が広がるようにと願っています。 2030_06.jpg

聞き手 口分田真副理事長


 口分田 出演者の方々はどうやって探されたのですか。
 眞田 もともと私は長野県で開業しており、診療の合間にいろいろなコンサートに足を運んでいました。そのときに知り合った方々が主ですね。私が主催していた食物アレルギーの会にご協力いただいていた長野県立こども病院の先生が院内でちるくま音楽隊というのを作っておられたので、協力をお願いしました。
 口分田 人のつながりは大事ですね。
 眞田 ええ。このコロナ禍時代には特に感じます。
政治と音楽の関係考えるきっかけに
 口分田 そもそもなぜ、音楽で支援をと考えられたのでしょうか。
 眞田 まず、中学生の頃からクラシック音楽を聴くのが好きだったということがあります。もう一つ、政治と音楽との関係はどうあるべきなのか、私の人生の命題の一つです。
 プーチン大統領がウクライナへの爆撃を開始した直後の2月27日、世界最高峰のオーケストラであるウィーンフィルが、プーチンに近いとされる指揮者ゲルギエフを降板させました。音楽史に残る決定だと思います。ゲルギエフは以前からプーチンのクリミア侵略への支持を表明していた人物でした。私はこれまで、旧ソ連のスターリンによるショスタコービッチへの迫害などの歴史的事実から政治と音楽は切り離すべきと考えており、政治的な理由で音楽性を否定するのはどうかと思っていましたが、今回の侵略を支持するような人物ならどうなのか、難しい問題です。一方、ウクライナ政府が教科書から「戦争と平和」をはじめとするトルストイの作品をすべて削除したように、国籍などの出自により排除するのは誤りと感じます。
 口分田 悩ましい問題ですね。スポーツでも、ロシアの選手はサッカー・ワールドカップなどの多くの国際大会に出場できていません。オリンピックでは、差別に対して抗議のパフォーマンスを行い処分を受けた選手もいました。本来、芸術やスポーツと政治は別であるべきと思いますが、切り離せない側面があります。
 眞田 1964年の東京オリンピックのときに、当時・外山雄三さんという指揮者の方が作曲を委嘱されましたが、そのなかにインターナショナルの歌を取り入れたためキャンセルされたということがありました。今は大御所として活躍していますが、まさにイデオロギーの観点から、国家権力がマエストロを引きずりおろした事件だったと思っています。
 口分田 音楽はそれだけ力があるということなのでしょう。
 眞田 かつてスペイン内戦の折亡命した故パブロ・カザルス(チェロ奏者、指揮者、作曲家)は、日本の子どもたちに「音楽は世界を救う」という感動的なメッセージを残しました。
 口分田 本当にその通りですね。
微力でもつながり広げて
 口分田 プロジェクトの今後のご予定はいかがですか。
 眞田 これ以上コンサートを開かなくてよいように、一刻も早くこの侵略戦争が終わってほしいと願うばかりです。私のプロジェクトは、プーチン政権の暴挙を前に本当に微力で、自己満足かもしれません。でも、発信しつながっていくことが大事だと思っています。
 口分田 実は私も、昨年3月から毎朝、診療が始まる前の時間に、診療所の前で「NO WAR」を掲げるスタンディングを続けています。幹線道路沿いということもあり、多くの方が通るので、年末にも原付に乗った人が親指を上げて激励してくれました。この戦争を中止させるため、微力でもつながりを広げていくことが重要と実感しています。
 どんな理由があっても、他国の領土に土足で踏み込み、殺戮と破壊を行うことは許されませんし、これを理由に軍事的緊張を高めることも決して許されないと思います。
 眞田 すばらしい行動で尊敬します。
 日本政府はウクライナ問題や北朝鮮のミサイル挑発を理由に、防衛費の大幅増強や敵基地攻撃能力保有、原発活用などを一気に進めようとしています。貧困や格差、生活保護家庭の教育権、一生、住宅ローンに追われる国民生活やジェンダー平等問題など、国民が安心して暮らせるために改革すべき根本課題が山積みなのに、これらはすべて放置されたままです。復興予算や留保金等を防衛費に横流しするのは論外です。
 私は学生の頃、公害運動などに熱心に取り組まれた故・野村和夫先生(尼崎市・野村医院、元協会副理事長)の医院へカンパでお伺いし、多くのことを学びました。
 保険医協会には、「日本国憲法」を軸に、侵略を一日も早く中止させ、平和を実現させるよう世論をリードしてほしいです。
 口分田 保団連は開業医宣言の「10・平和の希求」で、「人命を守る医師はいかなる戦争をも容認できない。私たちは歴史の教訓に学び、憲法の理念を体して平和を脅かす動きに反対する」と宣言しています。今、この内容を実践していかなければならないと改めて感じます。
 眞田 まさにその通りと思います。
 口分田 共にがんばっていけたらと思います。本日はありがとうございました。

2030_07.jpg YouTube「ウクライナの人々を音楽で支援するプロジェクト」

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