兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2023年2月25日(2030号) ピックアップニュース

「保険でより良い歯科医療を」兵庫連絡会・市民学習会
子どもの「なりたい」阻む貧困なくそう

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所得再分配がなされないことにより、ひとり親世帯の貧困率が高いと指摘した武内先生

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会場では「歯の健康相談会」も開催

 協会などでつくる「保険でより良い歯科医療を」兵庫連絡会は2月12日、協会会議室で市民学習会「子どもの健康脅かす貧困そして歯科医療」を開催した。佛教大学社会福祉学部教授で耳原鳳クリニック小児科の武内一先生が「子どもの貧困問題-子どもの権利の視点で考える-」として講演。また、協会副理事長・歯科部会長の加藤擁一先生が「口から見える貧困-健康格差の解消を目指して-」として歯科分野から話題提供。医科・歯科医療関係者と市民ら34人(来場17人・Zoom視聴17人)が参加した。

 武内先生は冒頭、年収150万円の母子2人家庭を例にとり、「所得税、住民税や社会保険料を引かれると、各種手当などを加味しても生活保護基準以下の暮らしを強いられる」とした上で、80年代から、ひとり親世帯数が倍増するなか、児童扶養手当の減額などにより貧困化が進行している流れを解説した。「日本はひとり親世帯の貧困率が48.1%とOECD平均32.2%と比して極めて高い。所得再分配の機能が果たされていないと言わざるを得ない」と指摘した。
 また〝あってはならない生活状態〟を示す貧困概念が歴史的に変遷していることに触れ、「かつては、『栄養失調をきたすほどの生活状態』に限定されていたものが、『尊厳を維持するための物事に欠ける状態』と変わってきた。スマートフォンが現代人には不可欠な生活インフラであるなど、貧困概念を柔軟に捉えることが重要」とした。
 最後に、3歳から中3までの子どものいる世帯を対象とした「日本の所得格差と生活状況」インターネット調査の結果を紹介。「2019年と21年の比較では、母子世帯の非正規化や世帯収入の悪化が顕著。コロナ禍で格差と貧困がさらに広がったことは否めない」とし「日本では10~30代の死亡原因の第1位が自殺だが、その子の『もてる力の最適化』(Capability)の欠如が根本問題。子どもらの『ありたい』『なりたい』を阻む貧困の解決を」と呼びかけた。
 加藤先生は、全国の小中学校歯科検診で、要受診との指摘を受けた子どもが治療を受けているかどうか調べた「学校歯科治療調査」の結果を紹介。「要受診の子どもは全体の30%台。うち未受診者は40~50%台。大阪府・兵庫県の口腔崩壊者(むし歯が10本以上など咀嚼困難の状態)は0.3%にのぼる」とし、歯科治療が必要なのに受診できていない子が多くいると指摘。
 その原因は口腔崩壊の子どもの家庭で、親の時間的貧困、知識不足など複合的であるとし、「必要な受診のために国・自治体・学校などがそれぞれに役割を果たす必要がある」と訴えた。その上で国や自治体による実地調査や高校生までの医療費無料化などの解決策を提案するとともに、保険でより良い歯科医療を求める署名への協力を呼びかけた。
 参加者からは「歯科検診後の未受診者の多さについて市議会から追及されることもしばしば。生活実態の格差が理解されていない」(養護教員)、「お金の手当だけでなく高等教育の無償化や累進課税の強化など社会システムを大きく変えていく必要性を感じた」(歯科医師)、「詳細な統計から貧困問題の根深さがよくわかった」(一般市民)などの感想が出された。
 冨澤洪基先生(協会評議員・尼崎医療生活協同組合生協歯科)が司会を務めた。
 終了後「無料歯の健康相談会」を開催し、協会役員が市民の相談に応じた。
歯科技工所にも物価高騰対策の支援金拡充
連絡会の要求が実現
 「保険でより良い歯科医療を」兵庫連絡会は、かねてから国や県へ、医療機関のみならず、歯科技工所向けに、新型コロナウイルス対策や物価高騰対策を要求してきたが、このたび県が県内歯科技工所を対象とする物価高騰対策支援金実施を決めた。
 支給額が低額であるなどまだまだ不十分ながら、要求が一部実現したもので、連絡会は、県内の技工所500カ所にハガキで連絡会の運動と制度実施を周知した。引き続き抜本的な物価高への対策を国・県に求めていく。
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