兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2023年4月25日(2036号) ピックアップニュース

特別インタビュー 連携強化で島民の健康守る

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県立淡路医療センター 鈴木康之院長

【すずき やすゆき】1983年神戸大学医学部医学科卒業、1986年4月同大学大学院医学研究科入学、1990年年4月米国ウィスコンシン大学研究員。県立加古川病院などの勤務を経て、2005年神戸大学大学院医学研究科助教授(応用分子医学講座消化器外科学)。06年6月香川大学医学部教授(外科学講座消化器外科学)、12年4月同大学医学部副学部長(併任)、19年10月同大学附属病院臓器組織提供・移植医療支援室長(併任)、21年4月県立淡路医療センター病院長

県立淡路医療センター:病床数441床(一般377、精神45、結核15、感染4)、診療科目28。淡路島唯一の公立病院、かつ中核病院として13万の住民の医療を支えている

 淡路島で唯一の公立病院であり、淡路医療圏の最後の砦・県立淡路医療センター。鈴木康之院長に、新型コロナ感染拡大のなかでの苦労や病診連携などについて、協会の西山裕康理事長、高田裕淡路支部長(洲本市・たかたクリニック院長)、松井祥治理事(順心淡路病院院長)が話を聞いた。

高齢化率の高い淡路の医療支える
 西山 先生とは神戸大学の医局でご一緒だったので、ぜひインタビューしたいと思っていたのですが、遅くなってしまいました。さっそくですが、センターの特色を教えてください。
 鈴木 この淡路島は人口13万人に対し、高齢化率が38%と日本の平均より10ポイントも高くなっています。ですから、人口の割には患者さんが多く、特にがんや循環器疾患、脳卒中、また骨折などの外傷も多数にのぼります。以前から脳卒中や循環器疾患など血管治療に力を入れており、最近アンギオ室を1室増やし3室とし、診断治療を充実させています。高齢者はあまり遠方に入院したくないという場合が多く、なるべく島内で医療を完結できるように努力しています。
 西山 救急体制では、淡路地域で唯一の三次救急病院ということですね。
 鈴木 はい。依頼のあった救急は原則すべて受け入れるということで、救急車は島外に出さないようにと努力し、救急の応需率は95%です。
 高田 受け入れを断られることはなく、われわれ開業医も一次救急でもっと協力しなければと感じています。
 松井 24時間いつでも患者を引き受けてくださり、頼りにしています。おっしゃっていたとおり、血管造影や血管内治療に力を入れておられ、驚くほど質の高い医療をされているなぁと思っています。
 先生は肝胆膵外科領域がご専門ですが、今も手術はされているんでしょうか。
 鈴木 ええ、肝胆膵の高難度手術の件数は私が来たときは年間20数例だったのが今年は30例を超えると予想しています。
 松井 高齢で手術が難しそうな患者さんでも、ご本人の希望で紹介すると、手術して元気に帰ってこられ本当にすごいと感じました。
 西山 肝胆膵のがんは早期に発見、手術しないと予後が良くないですよね。
 鈴木 膵臓がんは2000年以降化学療法が発達し、現在では新しい薬で、術前に何カ月か化学療法を行ってから手術すると、前任地の香川大学附属病院では5年生存率が50%以上になっています。切除できた症例に限りますが、かなり良い成績かと思います。
 西山 すばらしいですね。研修医の確保も重要な課題と思いますが、いかがですか。
 鈴木 毎年13人ずつ研修医を募集し、枠はすべて埋まります。当センターでは疾患が多岐にわたり、コモンディジーズから珍しい症例まで経験できるということが強みです。大学病院から来て気付きましたが、当センターでは若手の外科医でも指導医の指導のもと、大学病院では任されないような手術も経験させるので、そこも魅力の一つだと思います。
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聞き手 西山 裕康 理事長

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聞き手 高田 裕 淡路支部長

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聞き手 松井 祥治 理事

新型コロナ対応で病床がひっ迫
 西山 先生が院長になられたのは新型コロナウイルス感染拡大の真っ只中ということで、対応は大変だったのではないでしょうか。
 鈴木 はい、当センターでもクラスターが起きたり、職員の欠勤が100人規模になった時期もありました。それでも、救急患者の受け入れを止めるわけにはいかず、また新型コロナ患者の入院治療ができるのも島内では当センターだけなので、救急とコロナ対応を優先し、一般の入院待ち患者を後回しにせざるを得ない状況になってしまいました。441床のうちコロナ病床は21床ですが、最も感染が拡大した時期には病床が不足し、院内での患者発生もあったので、一般病床も利用して入院を受け入れたり、一つの病棟を縮小、閉鎖して、その担当看護師にコロナ病床に回ってもらうなどで対応せざるを得なくなりました。
 5月から5類になると、一般病院でも受け入れるようにと言われていますが、どうなるのでしょう。
 松井 今のところ全く見当がつきません。受け入れを断ると、応召義務違反となるのかと不安です。しかし、感染防止体制が十分でなければ受け入れはできません。連休が明けて、コロナの感染状況がどうなるのかも想像できません。
 鈴木 必ず来るであろう、次の第9波で入院管理していただける病院が増えれば助かるとは思いますが、高齢患者が多く、もとの疾患に加えコロナで弱って重症化してしまう危険性が高いですから、難しいことはよくわかります。
 西山 5類化でコロナ患者の入院調整は個人的ネットワークに任せる方向となりますが、協会が実施した会員アンケートでもその点への不安が最も強くなっています。また、補助金も廃止の方針ですね。
 鈴木 入院については、淡路は中核病院が当センターだけなので、5類化で大きく変わることはなく、第9波でもしっかり役割が果たせるように備えたいです。
 補助金の廃止は厳しいですね。物価高騰などにより水光熱費、医療材料費など経費が増加している状況で、県からの繰り入れを含めて何とか黒字を維持していますが、コロナ関連の補助金がなくなると、赤字になる可能性が高いと思っています。
 西山 県立病院としての役割を果たしながら、マイナスとならない診療報酬が必要ですね。
開業医・中小病院・センターがさらなる連携を
 西山 地域医療での連携についてはいかがでしょう。
 鈴木 最初にお話ししたように、高齢者が多いこの地域では、リハビリや在宅が非常に重要で、連携は特に重視しています。松井先生の順心淡路病院などの後方支援病院や高田先生ら開業医の先生方との連携のため、「あわじネット」という診療情報ネットワークを立ち上げ、当センターの電子カルテの一部の診療情報をオンラインで参照できるようにし約50の医療機関が登録し、約9500人の患者さんの診療に役立てています。
 松井 私たちの病院では、センターからご紹介を受けた患者さんは、2週間以内に入院できるように努力しています。地域連携の担当者が在宅復帰サポートに取り組み、退院後の自宅、施設に合わせて、すぐに介護保険を使えるようにするなど、入院時から退院後を見据えて準備しています。また、当院で診療可能な救急要請はできるだけ受け入れ、機能分化の役割を果たしたいと思っています。
 西山 在宅医療はどうでしょう。都市部では在宅専門の医療機関も増えていますが。
 高田 淡路ではそういう医療機関はなく、一般の診療所が在宅を担っています。周辺地域では在宅医療を担うのは私しかいないような状態で、今朝も緊急で患者さんに呼ばれ、救急外来に連絡しました。センターで安定したら順心淡路病院のような病院に転院しリハビリを行い、落ち着いたら在宅へという流れが理想です。地域の事情があるとはいえ、もっと連携の充実が必要と考えています。
 進行がんや神経難病など医療的な処置やケアが必要な患者も、介護保険などさまざまな制度を使って、在宅で診療できる時代になっていますが、まだ病院の先生方には十分知られていないように感じます。協会淡路支部ではセンターと連携して勉強会を定期的に開催しており、勤務医の先生方と情報交換し理解が進めばもっとスムーズにいくと思っています。
 鈴木 当センターにとってもいい機会です。よろしくお願いします。
 西山 今回、入会に際して協会に期待することを教えてください。
 鈴木 やはり診療報酬の算定や施設基準に関するサポートです。査定で気になることも多々あり、審査指導などで相談に乗っていただけると助かります。
 松井 解釈が難しいときなど協会に相談すると、いつも親身に対応していますよ。
 西山 対応する専門部があり、大学病院はじめ大病院からも多く問い合わせをいただいています。また、勤務医の先生にもライフプランにあわせた共済制度を用意していますのでご利用ください。本日はありがとうございました。
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