兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2023年8月05日(2045号) ピックアップニュース

特別インタビュー 県立尼崎総合医療センター 平家 俊男院長
地域連携で住民の健康守る

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【へいけ としお】1979年京都大学医学部卒業、86年同医学研究科博士課程修了、同附属病院小児科助手、2010年同大学医学研究科発達小児科学教授、2014年同大学医学部附属病院副院長、2018年県立尼崎総合医療センター院長

 阪神医療圏の医療の中核である県立尼崎総合医療センター(730床)。院長の平家俊男先生に、地域でのセンターの役割と特色、地域連携などについて、宮武博明副理事長と綿谷茂樹尼崎支部長がインタビューした。

阪神地域の高度救急・周産期医療担う
 宮武 このたびは保険医協会にご入会いただき、インタビューの機会をありがとうございます。まずは阪神地域におけるセンターの特徴を教えてください。
 平家 当センターは、阪神地域全体で住民の方の健康・医療を守るという大きな目標のもと、高度救急医療・高度専門医療・政策医療を担っています。
 病気になられた方の社会生活を支えるには長いスパンが必要です。いかに周囲と連携をしていくのかが非常に重要だと思っています。地域の診療所・民間病院の先生方と一緒になって地域医療の充実を図っていきたいと思っています。
 綿谷 日ごろから患者の受け入れなどで、大変お世話になっています。県立尼崎病院と塚口病院が合併し、このセンターができて8年ですね。
 平家 5年前、院長に着任し、藤原前院長からの「量から質へ」「病院完結型から本格的地域完結型医療へ」「医療のみならず、マネジメント・サービスでもトップの病院!」の三つの大きな目標が素晴らしいと思いましたので、この目標はそのまま、新しい視点も取り入れながら、病院運営をさせていただいています。
 センターができた一つの大きなきっかけは、人口に比して周産期医療の診療体制の整備が十分でなかったということがありました。そのため政策医療のなかでも特に周産期医療、小児・産婦人科に力を注ぎながら、地域の方々に頼りにしていただく病院をめざしています。
 宮武 総合周産期母子医療センターは県内でも数少なく、カバーする地域は非常に広いのではないでしょうか。
 平家 阪神南地域だけでなく、阪神北地域の患者も多数おられます。京都大学と連携し、院内で専攻医の養成もしながら、充実を図っているところです。
新型コロナ感染防止を徹底
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聞き手
宮武 博明副理事長

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聞き手
綿谷 茂樹尼崎支部長

 綿谷 この間のコロナ感染拡大での対応は大変ご苦労されたのではないでしょうか。
 平家 県内で最初のコロナ患者の入院は、当院からでした。3年余り前、2020年3月1日です。
 感染拡大時はコロナ病床を46床、そのうち重症者10床を用意していました。この46床の確保のためには大変労力を使い、他部署から看護師を配置換えし、730床のうち150床分をコロナ病床確保のために転換せざるをえませんでした。
 全国どこでもそうだと思いますが、感染の大きな波のなかで忸怩たる思いを感じる時期もありました。当院では隔離期間が終わった患者は挿管されていても一般病棟のICUに移すなどの運用でコロナ病床の適切な運用を心がけ乗り切ってきました。
 宮武 職員も感染して大変だったのではありませんか。
 平家 私は当初からゼロコロナ政策はありえないと感じていました。PCRは検査時点での結果はわかっても、次の日はわかりません。いくら防御策を立てても感染は防ぎきれないということを前提とし、職員一人ひとりの感染防止対策を徹底的にお願いしています。そして、これがうまく機能しなくてクラスター的な感染拡大が起こる徴候を察知すれば、ICT(感染対策チーム)も介入しながら、次の改善点に結び付ける。これを繰り返しました。その結果、これまで病院運営に支障を来すような院内での感染拡大は起こっていません。ただ、ウイルスの感染力が強くなっていますので、今後は分かりません。日々注意しながら日常診療を続けています。
 一方で、通常診療の受け入れを止めるわけにはいきません。通常診療とコロナ診療のバランスをとりながら、職員に持っている力を発揮してもらうことが大事と思っています。一時的に120%で頑張っても疲弊してしまい続きません。無理しすぎず、職員の心身の健康を維持し、継続的に力を発揮できることを意識しています。
サポートセンターで患者を総合的に支える
 綿谷 今年2月に、患者の入院前から退院後まで総合的にサポートするという「患者サポートセンター」をオープンされたのですね。病院本館の北玄関横に新しい建物ができていました。どこの病院でも患者サポートはされていると思いますが、何が違うのでしょうか。
 平家 何か目新しいことを始めたというわけではありません。新病院オープン後、入院前から社会的背景を把握して退院後のフォローまで行う必要があるという意識が高まってきて、患者さんが多くの部署をまわり、同じようなことを何回も聞かれるような状態が起こっていました。それなら、患者さんは同じ場所にいていただき、各部署の職員が訪れて話を聞くようにしたほうがいいだろうということでしたが、院内にはスペースがなかったので新たに建物を建てました。
 必要な書類も各部署で共通で使えるようにし、電子カルテも少し改変して、地域連携に関わる情報を統合的に見られるようにしました。医師以外にも、看護師、薬剤師、栄養士、MSWなど多職種で対応する必要があるからです。
 見直ししながら運用していますので、開業医の先生方からのご意見も取り入れながら、さらに改善していきたいと思っています。
 このサポートセンターは、当院が(1)患者さんの総合的サポートであるPFM(Patient Flow Management)、(2)運用する職員の満足、(3)高度な標準医療ができているかというクリニカルパス、この三つを中心に据え、標準医療・高度専門医療を進めていく大きな柱だと思っています。
 宮武 他にこのような取り組みをされている病院はあるのでしょうか。
 平家 長野県の諏訪中央病院なども見学させていただきました。ただ、そのまま取り入れるのではなくこの地域にあわせて、新たに1年ほどかけてこのシステムを作ってきました。
地域医療連携積極的に
 宮武 医師の働き方改革の実施が来年4月に迫ってきました。展望はいかがでしょうか。
 平家 当院の使命である高度救急では、周産期や脳外科など、いつ発症するか分からない患者さんに備えて、常に即応できる体制を空振り覚悟で備え続けることが必要です。そうすると、どうしてもそのスタッフの労働時間が長くなります。そのなかでも、他医療機関にお願いできることはできるだけ連携し、当院でしかできない医療を断らない、などメリハリをつけて対応していきたいと思っています。
 宮武 医師数が限られるなかで、非常に難しい課題ですよね。研修医のマッチングはいかがですか。
 平家 ありがたいことに現在、初期研修医も専攻医も、多くの方に希望いただいています。研修の内容、研修後の行先を十分に意識した医療教育になっているかを重視しています。
 綿谷 職員のメンタルケアはどうでしょうか。この間のコロナで心身共に疲弊されているかと思います。
 平家 そこも、非常に意識しており、ストレスチェックやハラスメント研修会、相談体制をとるなど対策し、外部からの苦情については専門の部署を24時間体制でつくって対応し、職員の負担を軽減しています。
 綿谷 さまざまな対策をとられていますが、県立病院ということで、病院運営の採算が問題にされることはあるのでしょうか。
 平家 平均在院日数などを意識しなければならないということは当然ありますが、民間病院では採算面で担うことが厳しい周産期や高度救急医療などは政策医療として必ず行っていかなければならないものです。当院の使命に見合った診療をしているかだと思っています。
 宮武 最後に、保険医協会に期待することをお願いします。
 平家 医療が進歩する中で、診療報酬体系もどんどん新しくなり、返戻などがどうしても出てくるのは病院にとって悩ましい問題です。どうすれば適切な医療に適切な対価がいただけるのか、お力添えいただきたいと思っています。
 宮武 来年には改定も控えていますし、返戻だけでなく、日常的な点数算定や適時調査時など、ご遠慮なく聞いていただければと思います。
 綿谷 院内向けの保険点数の講習会の開催も、神戸大学でも行ったように可能です。
 一つ尼崎支部からお願いです。支部では医療・福祉・介護の連携を進めようと多職種での研究会「医療と福祉を考える会」を20年以上前から続けていますので、この開催について引き続きご協力いただきたいと思っています。
 平家 わかりました。たとえば地域医療連携部と共催などご協力できることがあるかと思います。
 地域医療連携について強調したいのは、当院で患者さんを抱え込むのは避けたいということです。地域の病院や開業医の先生方などとの連携のために情報交換の努力は惜しまず行っていきたいと思っています。
 綿谷 ぜひよろしくお願いします。
 宮武 本日はありがとうございました。
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