兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2023年9月25日(2049号) ピックアップニュース

主張 福島第一原発事故
「ALPS処理水」は汚染水であり海洋投棄は即刻中止を

 東京電力は8月24日、漁業関係者をはじめ国民の多くが反対の声を上げる中、東京電力福島第一原発事故で発生した「ALPS処理後水」の「海洋放出」を開始した。
 これに先立ち、岸田首相は「今後数十年にわたろうとも、漁業者が安心してなりわいを継続できるように必要な対策を取り続けることに全責任を持って約束する」と発言したが、将来にわたってなんら実効性のある対策を確立することもないままの強行であり、政府・東電の「関係者の理解なしにいかなる処分もしない」との約束を反故にした、まったく許せない行為である。
 政府・東電は、海洋に投棄したのは福島第一原発事故で発生した放射性物質を含む「汚染水」ではなく、汚染水をALPS(多核種除去装置)にかけ、トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化した水=「処理水」であり、トリチウムについても安全基準を十分に満たすよう、処分する前に海水で大幅に薄めているため、安全であると説明している。
 しかし、この政府・東電の説明には、何重にも問題がある。
 まず、福島第一原発事故で発生し続けている汚染水は、高濃度放射能デブリに直接触れたさまざまな放射性物質が含まれたものである。
 ALPSによってトリチウム以外にも多くの放射性物質が除去されずに残存しており、希釈濃度が排出基準以下であったとしても、危険な放射性物質を総量としてはかなりの量を今後も排出していくものであり、正常稼働中の原発の二次冷却水中で間接的に中性子線を浴び、放射励起によりトリチウムだけが発生した排水とは全くの別物である。
 もちろん、トリチウム自体の安全性についても疑念がある。
 また、東電は、これまで万全な対策を謳いながら、福島第一原発事故を起こし、さらにその後もずさんな対応で安全対策の不備等を繰り返し、柏崎刈羽原発の再起動に際し、原発運営者としての適格性を原子力規制委員会から疑われ、柏崎刈羽原発は現在、運転禁止命令を受けている。
 このような会社が、安全に今回の計画を遂行することができるだろうか。
 実際、現在保管されているALPSで処理された汚染水の約7割は、処理が不十分でトリチウム以外の放射線物質が基準をはるかに超えて含まれている汚染水であり、再度ALPSでの確実な処理が必要とされている。しかし、同社はこの事実が報道されるまで積極的に明らかにしてこなかった。
 政府・東電が言う「処理水の海洋放出」は、実際は「放射能汚染水の海洋投棄」であり、「風評被害」への対策を行うと繰り返すが、被害は明らかに実害である。
 政府・東電は汚染水の処理方法について、「保管場所がなくなり海洋放出するしかない」と説明しているが、専門家から、地上での長期保管場所の確保も可能であること、汚染水発生の抜本的対策として広域遮水壁が必要であることなどが提案されている。汚染物質を世界中に拡散させてはならない。
 私たちはいのちと健康をまもる医療者として、政府と東電に対し、放射性汚染物質の影響を矮小化し、世界中に放射能汚染物質をばらまく懸念のある汚染水の海洋投棄の即刻中止を強く求める。
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