兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2024年2月05日(2060号) ピックアップニュース

燭心

 1995年1月17日の阪神・淡路大震災を経験して以来29年間、災害が発生するたびに被災地を訪れ支援を行ってきた。その経験から思うことは一つとして同じ災害はないということ▼24年の幕開け、日本国民の多くがお屠蘇気分で過ごす元日の夕刻に発生した能登半島の大地震もまた過去例のない災害である。大都市を襲った阪神・淡路と異なり日本でも有数の高齢化と過疎が進んだ地域で起こった地震である。さらに半島という地形上の弱点は、壊滅的な道路の寸断により多くの孤立集落を生み出した。現在までの死者数は236人、地震災害では3番目となる。関連死も増えてきた▼関連死は、阪神・淡路の渦中にあった兵庫協会の上田耕蔵神戸協同病院院長が提唱された概念だ。当初は「震災関連疾患死」とされていたが、内閣府によって「災害関連死」と名付けられ、阪神・淡路では930人近くが認定された▼その中で最も多かったのが肺炎死である。24%と約4分の1を占める。次いで心筋梗塞、脳卒中と続く。この順位はその後の大地震でも変動はない。災害時肺炎のほとんどは高齢者の誤嚥性肺炎なので口腔ケアが有効である▼しかし、今回最初に報告された関連死のように、冷たい床の上で寝かされている高齢者は抗生剤の投与など医療の提供だけでは救うことはできない。まず必要なのは暖かい部屋と食べ物なのだ。日本の避難所環境は他国と比較し劣悪である。避難所の改善は急務である。それがあってこその口腔ケアだ。(九)
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