兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2024年2月05日(2060号) ピックアップニュース

診療報酬改定・中医協「議論の整理」のポイント
基本診療料の大幅引き上げが必要

 2024年度診療報酬改定に関する厚生労働大臣からの諮問を受け、中央社会保険医療協議会(中医協)は1月12日、改定内容の「これまでの議論の整理」を発表した。医科・歯科それぞれについて内容の一部を抜粋し、協会のコメントを掲載する。

医科※「○」は抜粋。⇒以下は協会コメント
〇看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種について、賃上げを実施していくため、新たな評価を行う。
⇒低診療報酬により医療従事者の賃金は他の業種に比べて低く抑えられてきている。十分な賃上げのためには基本診療料の大幅な引き上げを実施し、現在でも厳しい経営を強いられている医療機関の持ち出しとならないよう、また一部の医療機関に偏らないような制度設計を求める。
〇外来診療において標準的な感染防止対策を日常的に講じることが必要となっていること、職員の賃上げを実施すること等の観点から、初再診料等の評価を見直す。
⇒COVID-19への対応は発熱外来だけでなく、すべての医療機関で引き続き負担が大きいことから、加算だけでなく基本診療料の引き上げによる評価を求める。
〇保険医療機関・薬局におけるオンライン資格確認等システムの導入が原則義務化され、オンライン資格確認に係る体制が整備されていることを踏まえ、医療情報・システム基盤整備体制充実加算の評価の在り方を見直す。
⇒医療機関ではマイナ保険証による顔認証付き資格確認システムの導入が義務化されているが、「『無効・該当資格なし』と表示された」など、低い利用率の現在でもトラブルが多発し、窓口ではその対応で負担を強いられている。マイナ保険証の利用を診療報酬によって誘導することには反対であり、現行の保険証廃止の方針を撤回すべきである。
〇急性期入院医療の必要性に応じた適切な評価を行う観点から、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度について、必要度の判定に係る評価項目及び該当患者割合の基準を見直す。
⇒「重症度、医療・看護必要度」基準について、評価項目や当該患者割合の一層の厳格化には反対。重症度、医療・看護必要度ではなく看護配置による評価を重視すること。
〇医療機関間の機能分化を推進するとともに、患者の状態に応じた医療の提供に必要な体制を評価する観点から、急性期一般入院料1の病棟における実態を踏まえ、急性期一般入院料1について、平均在院日数に係る要件を見直す。
⇒継続入院が必要な患者の無理な退院につながりかねない「平均在院日数」基準のいっそうの短縮は撤回すべき。
〇療養病棟入院基本料について、疾患・状態と処置等の医療区分と医療資源投入量の関係性を踏まえ、医療区分に係る評価体系を見直す。適切な栄養管理を推進する観点から、中心静脈栄養の評価を見直す。
⇒看護配置による評価を重視すべきであり、療養病棟入院基本料の医療区分に係る評価基準のさらなる厳格化や、中心静脈栄養に係る新たな要件化は撤回すべき。
〇かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師の機能の評価
⇒そもそも「かかりつけ機能」という厚労省の尺度で医療機関を選別して加算等で評価するのではなく、すべての診療所や病院が地域医療で担っている役割を正当に評価し、基本診療料そのものを引き上げるべき。「かかりつけ医」を持つことは患者の自由な選択によるべきで、複数医療機関への受診制限につながるような診療報酬制度にすべきではない。
〇より質の高い在宅医療の提供を適切に評価する観点から、訪問診療の算定回数等に応じて在宅時医学総合管理料及び施設入居時等医学総合管理料の評価を見直す。患者の状態に応じた適切な往診の実施を推進する観点から、緊急の往診に係る評価を見直す。
⇒往診や訪問診療の内容やタイミング、頻度は、患者・患家からの依頼と医師の医学的判断・患者同意に基づくものであり、算定回数等の一面的な尺度で往診料や在宅患者訪問診療料等の点数設定を行うべきでない。
〇食材費等が高騰していること等を踏まえ、入院時の食費の基準を引き上げる。
⇒入院時食事療養費が30円引き上げられることとなっているが、現下の食材料費、水光熱費や人件費等の高騰を踏まえると全く不十分である。患者負担となる標準負担額の引き上げではなく、国費による入院時食事療養費のさらなる引き上げを求める。
〇アウトカムにも着目した評価の推進。回復期リハビリテーション病棟における運動器疾患に対してリハビリテーションを行っている患者については、1日6単位を超えた実施単位数の増加に伴うADLの明らかな改善が見られなかったことを踏まえ、運動器リハビリテーション料に係る算定単位数の上限が緩和される対象患者を見直す。
⇒患者の選別にもつながる「アウトカム評価」のさらなる推進は撤回すべき。「回復期リハビリテーション病棟における運動器疾患に対してリハビリテーションを行っている患者については、1日6単位を超えた実施単位数の増加に伴うADLの明らかな改善が見られなかった」とあるが、リハビリテーションは医師や理学療法士等の専門的知見により内容や単位数、期間は決定されるものである。現在でもリハビリ単位数の制限に対しては医療機関から「実態を無視している」との批判が強く、上限緩和対象患者の見直しには反対。
〇生活習慣病に対する質の高い疾病管理を推進する観点から、生活習慣病管理料について要件及び評価を見直すとともに、特定疾患療養管理料について対象患者を見直す。
⇒高血圧や脂質異常症、糖尿病など多くの該当患者のいる疾患を特定疾患療養管理料から外し、計画書の作成など算定要件の厳しい生活習慣病管理料に移行させることが狙われているが、撤回すべき。実施されると内科系診療所を中心に医療機関経営にいっそうの大きなマイナスとなる。また、これまで以上に書類作成等の業務が生じて医師に大きな負担をかけることとなり、「働き方改革」に逆行することにもなる。
〇リフィル処方及び長期処方の活用並びに医療DXの活用による効率的な医薬品情報の管理を適切に推進する観点から、特定疾患処方管理加算の評価を見直す。
⇒処方期間は、医師が診察で患者の状態等を見極めながら医学的に判断するものであり、リフィル処方や長期処方への診療報酬による誘導はすべきでない。
〇医療保険財政の中で、イノベーションを推進する観点から、長期収載品について、保険給付の在り方の見直しを行うこととし、選定療養の仕組みを導入する。
⇒後発品のある長期収載品の選定療養化には反対。医薬品の選択は医師の医学的判断に基づくものであり、選定療養という本来の趣旨とは異なる制度を用いて後発医薬品処方へ強引に誘導することは、到底認められない。
歯科※⇒以下は協会コメント
〇医療従事者の人材確保や賃上げに向けた取組
⇒初再診料や歯冠修復・欠損補綴の評価を見直すとしているが、医療経済実態調査で、歯科診療所(個人)は前回との比較で医業収益も保険診療収益もマイナス。一方、費用面は人件費や感染対策の増加、物価高騰とりわけ水道光熱費は大幅増加で、損益差額も赤字が7.8%、最頻値は500万円~750万円未満など非常に厳しい経営状況に陥っていることが判明している。医療従事者の人材確保や賃上げのために、歯科診療報酬とりわけ基本診療料の大幅引き上げを求める。
⇒「歯初診」施設基準の届出を廃止すること、普段から徹底した感染防止対策を講じていることを正当に評価して、基本診療料を大幅に引き上げることを求める。基本診療料に含まれるとされている処置等は個別の再評価を求める。
⇒歯科技工の人材と技術の継承が不可欠。歯科技工士の長時間・低賃金労働の根本問題の解決のために、チェアサイドにおける技術料を大幅に引き上げることを求める。
〇リハビリテーション、栄養管理及び口腔管理の連携・推進
⇒急性期や回復期医療における病院歯科の評価を見直すとしているが、病院歯科が不採算とならないよう評価を見直し、大幅に引き上げること。入院患者に実施している肺炎予防のための口腔衛生処置、口腔機能管理の点数を新設すべき。義歯製作途中など歯科診療所からの必要な病院への訪問診療は周術期でなくても認めること。
〇新興感染症等に対応できる地域における医療提供体制の構築に向けた取組
⇒歯科外来診療環境体制加算(外来環)や歯科治療時医療管理料(医管)等を見直すとしているが、院内感染対策や医療安全管理、新興感染症対策はどの歯科医療機関でも行っている。外来環は、施設基準の廃止または人員基準の見直しと大幅引き上げを求める。医管は、施設基準を廃止し、必要な患者のモニタリングを経時的に行いながら安心安全の歯科医療を行うことに対してどの医療機関でも算定できるよう改善を求める。
〇質の高い在宅医療の確保
⇒歯科訪問診療1の20分未満の場合等の評価を見直すとしているが、歯科訪問診療を行う患者には全身状態の良くない患者や障碍児(者)も多く、そもそも20分間の診療が困難な場合も多い。時間要件は撤廃して、全て20分間以上と同じ点数で対応すべき。
⇒終末期の悪性腫瘍の患者等に対し訪問歯科衛生指導料の要件を見直すとしているが、他にも患者の状態に応じて頻回に必要なケースは月4回に限らず算定可能にすべき。「単一建物」の考え方を見直し、全ての患者で同一の評価を行うべき。訪衛指そのものの大幅引き上げを求める。
⇒歯科がない病院の入院患者や介護施設の入所者、在宅患者に対する者に対する栄養サポートチーム等連携加算(NST)の評価を見直すとしているが、NSTは歯在管への加算が月1回のみで80点に過ぎず、相応の時間と専門的知識を駆使しての観察・助言に対する評価として点数を引き上げるべき。
〇認知症の者に対する適切な医療の評価
⇒認知症患者について歯科疾患管理料・総合医療管理加算(総医)の対象患者を見直すとしているが、総医は歯管の加算点数でなく、独立点数として評価すべき。
〇口腔疾患の重症化予防、口腔機能低下への対応の充実、生活の質に配慮した歯科医療の推進
⇒クラウン・ブリッジ維持管理料(補管)の対象となる歯冠修復物を見直すとしているが、補管は廃止すべき。2年間の成功報酬という考え方自体、不合理。口腔内の状況は様々な要因で変化し、歯内療法や抜歯の必要を予見することはできない。廃止して他の技術料の引き上げに財源を回すことを求める。
⇒かかりつけ歯科医強化型歯科診療所(か強診)届出医療機関については、エナメル質初期う蝕管理加算とフッ化物歯面塗布処置の評価を見直すとしているが、エナメル質初期う蝕管理や歯周病安定期治療は、どこの歯科医療機関でも重症化予防で行っている処置であるにもかかわらず、か強診届出医療機関だけが高い点数や評価になっていることは不合理である。か強診は多職種連携などに対する評価に変えるなど、抜本的な評価体系の見直しを求める。
⇒歯科衛生士が口腔機能の指導をした場合に新たな評価を行うとしているが、歯科衛生実地指導料1は15分以上の実地指導に対し、月1回80点の低すぎる評価しかない。国家資格である歯科衛生士の賃金待遇を引き上げるためにも、点数の大幅引き上げや、必要な回数の算定が可能になるよう改善を求める。
⇒学校歯科健診で不正咬合の疑いがあると判断され受診した場合、歯科矯正治療の保険適用の可否を判断するために検査・診断等を行う場合に新たな評価を行うとしているが、学校歯科健診で不正咬合など矯正治療が必要と診断された際の治療は保険適用すべき。
⇒歯科麻酔の技術料および薬剤料が包括されている技術における歯科用麻酔薬の薬剤料について評価を見直すとしているが、使用した歯科麻酔薬剤料が別途算定できないのは不合理であり、薬剤料や手技料を算定できるようにすべき。
⇒歯科医療の推進に資する技術について適切な評価を行うとしているが、Ni-Tiロータリーファイルを用いた根管形成・拡大を正しく評価し、CT等がない場合に使用した場合でも認めるべき。
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