兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2024年3月05日(2063号) ピックアップニュース

2024年度 診療報酬改定答申 談話

2024年度診療報酬改定について、中央社会保険医療協議会(中医協)は2月14日、厚生労働大臣に答申を行った。改定率および改定内容に対する医科・歯科それぞれの談話を掲載する。

[医科] 地域医療を疲弊させるマイナス改定
研究部長  清水 映二
 6月から実施される今次診療報酬改定は、本体は+0.88%だが、全体では▲0.12%のマイナス改定となった。「生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化」で ▲0.25%を見込んでおり、多くの診療所にとって本体プラスとは程遠い内容となっている。
 医療従事者の賃上げや新型コロナ等への感染対策のため、初再診料や入院料などが引き上げられた。初診料は3点、再診料は2点のアップとなったが、現在の賃金水準や感染対策のコストを考えると引き上げ幅は全く不十分である。後で見るように他の汎用点数の再編や引き下げ等が盛りこまれ、基本診療料のわずかな引き上げは目くらましに過ぎない。
診療報酬になじまない「ベースアップ限定」
 賃上げ目的では「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)」(初診時6点、再診時2点。要届出)と、(Ⅰ)による算定見込みだけでは賃金増率が1.2%に満たない診療所が上乗せする「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)」(初診時8~64点、再診時1~8点の8段階。要届出)が新設された。算定分をすべて医師・事務職員を除く医療従事者の賃上げに充てる必要があり、事後報告が求められる。
 医療内容を評価した点数ではなく、報酬を賃金以外に充当できないことや事務職が対象外であることなど、違和感がある。また、「ベースアップ評価料」という名称が患者に渡す明細書に記載されるため、窓口で患者から説明を迫られることも考えられる。医療機関にとっては届出・算定しづらいのではないか。
感染対策の点数引き下げ
 新型コロナウイルス感染症患者(疑い含む)を診察した場合の現在の特例点数(外来対応医療機関147点、その他50点)が廃止されることを受け、発熱患者を診察した際の点数として、初再診料の外来感染対策向上加算に「発熱患者等対応加算」(20点・要届出)が新設された。
 特例点数に比べ低い設定であり、外来感染対策向上加算を届出していない診療所は算定できない。
診療所への影響甚大なマル特からの3疾患外し
 特定疾患療養管理料(225点、月2回)の対象疾患から、高血圧、脂質異常症、糖尿病の3疾患が除外された。
 従来の生活習慣病管理料に検査等が包括されない、生活習慣病管理料(Ⅱ)が新設された。患者ごとに療養計画の策定が必要で、点数は333点だが算定は月1回のみ。外来管理加算(52点)が併算定できない。
 処方箋料は68点から60点に8点引き下げられた。特定疾患処方管理加算1(18点、月2回)は廃止され、28日以上処方した場合の同加算2(56点)は10点引き下げられた上、上述の3疾患の患者に対しては算定できなくなった。
 これらの再編・引き下げにより、3疾患の患者を診察した場合、再診料の引き上げを含めても改定前より点数はマイナスとなる(下表)。
リフィル処方の拡大狙う
 リフィル処方については、新たに特定疾患処方管理加算が算定できるほか、地域包括診療料や生活習慣病管理料の施設基準において28日以上の長期処方またはリフィル処方が可能であることを患者に周知することが要件化される。
 2022年度改定で導入されたリフィル処方を促進する目的は、一定期間内に処方箋を反復利用し医師の診察回数を減らすことによる医療費抑制といえる。
在宅医療の不合理な点数設定
 普段から訪問診療や外来診療をしていない患者に対する往診の夜間・休日往診加算と深夜往診加算が大幅に引き下げられた。初診往診を多く行う一部の医療機関を念頭に置いたものと思われるが、合理的根拠が低いと言わざるを得ない。
 在宅時医学総合管理料(在医総管)・施設入居時等医学総合管理料(施医総管)は、単一建物診療患者数が従来の「1人」「2~9人」に加え、「10人~19人」「20人~49人」「50人以上」の区分が設けられた。在医総管・施医総管それぞれの点数は、医療機関の機能や患者の状態・人数、訪問診療回数等の組み合わせにより100種類にも及ぶことになった。
 在宅患者訪問診療料では、直近3カ月の訪問診療回数が120回を超える在宅療養支援診療所・病院で、直近3カ月の患者一人当たりの訪問診療の平均回数が12回を超える場合の減算規定が設けられた。
 以上のように、医療内容ではなく、患者数や診療回数によって点数が異なるという不合理さが一層拡大した。
医療DXへの強引な点数誘導
 現在の「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」(初診時のみ4点または2点)は、「医療情報取得加算」(初診時3点または1点、再診時は3月に1回2点または1点)に名称変更・再編される。オンライン資格確認システムは強引に義務化されたが、窓口ではトラブルが続出しマイナ保険証は極めて低い利用率である。マイナ保険証利用の点数誘導ではなく、現行の保険証廃止の撤回こそ必要である。
 また、オンライン資格確認により取得した診療・薬剤情報や電子処方箋及び電子カルテ情報共有サービスを活用できる体制への評価として、「医療DX推進体制整備加算」(初診時8点、月1回)や「在宅医療DX情報活用加算」(訪問診療時10点、月1回)が新設された。これらも、医療現場の必要からでなく、診療報酬によって「医療DX」を進めようとする露骨な誘導手法だ。
急性期病床さらに削減
 入院料では、引き続き急性期病床の削減を進めようとしている。
 7対1看護の急性期一般入院基本料1は、平均在院日数を現行の18日から16日に短縮し、重症度、医療・看護必要度の要件を厳格化する。
 10対1看護の「地域包括医療病棟入院料」が新設され、同じ10対1看護の急性期一般入院基本料2~6等からの移行を見込んでいる。
先発医薬品の選定療養化による保険外し
 後発医薬品の上市後5年以上経過、または後発医薬品の置換率が50%以上となった先発医薬品が選定療養の対象とされる(10月実施)。保険給付の範囲は先発医薬品と後発医薬品との差額の4分の3までとされ、残りの4分の1は保険外で患者負担となる。
 医薬品の選択は医師の医学的判断に基づく療養の給付そのものであり、いわゆる「差額ベッド」など患者の選択に委ねられる選定療養への導入は、必要な医療が患者の経済力によって制限されることにもなる。到底認められるものではなく、撤回すべきである。


特定疾患療養管理料の対象疾患から除外される高血圧、脂質異常症、糖尿病が主病の患者を月1回診察し、1カ月分処方した場合の試算。特定疾患療養管理料と異なり、生活習慣病管理料は月1回しか算定できないため、月2回の受診では影響はさらに大きくなる
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[歯科] 現場の実態とかけ離れた改定
歯科部会長  加藤 擁一
 歯科今次診療報酬改定率は賃上げ分を含めて+0.57%に過ぎず、歯科医療費上昇分は全体の0.04%分の引き上げにしかならない。医療経済実態調査結果でさえ、人件費や感染対策費の増加、物価高騰による大幅支出増で厳しい経営状況が明らかになっているにもかかわらず、この改定率は許しがたいものだ。
 今回の改定は、さらなる医療費抑制策を前提としてわずかな財源で行っているため、歯科医療機関の現場の実態とかけ離れている。歯科医療の質の担保も危ぶまれる改定であり、歯科医療費の総枠拡大が不可欠だ。
 今後の告示・通知により詳細な中身が明らかになるが、協会は改定内容の不合理是正と窓口負担軽減とをあわせて、「保険でより良い歯科医療」を求める運動に取り組んでいく。
基本診療料が複雑な体系に
 すべての医療機関の経営安定、職員の処遇改善を行うためには、基本診療料の大幅引き上げとともに、施設基準を設けて基本診療料に格差をつける仕組み自体を廃止すべきである。
 しかし今回の改定では、初診料+3点、再診料+2点と基本診療料の引き上げはわずかであり、オンライン資格確認の体制整備、電子カルテ情報共有や電子処方箋発行による加算点数を設けた。
 さらに「ベースアップ評価料」として賃金引き上げに対する点数を新設、複雑な体系にした。
 協会に寄せられた会員アンケートでも、あまりにも低い基本診療料と技術料の引き上げを求める声が繰り返し寄せられている。
 この要求に応えず、加算と称してマイナ保険証利用や電子処方箋導入を診療報酬によって誘導する手法、医療機関に近畿厚生局への賃上げ計画と結果報告を細かく義務付けるやり方は、医療機関のスタッフ間や患者、国民との対立を生じさせかねず、納得できるものではない。
施設基準が追加、改変
 施設基準が大幅に追加、改変された。歯科外来診療環境体制加算が、歯科外来診療医療安全対策加算と歯科外来診療感染対策加算の二つに分類された。
 かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所は名称が変更された。小児歯科医療に係る要件が加わって小児口腔機能管理料の注3の届出が新設され、「小児の心身の特性」研修が追加された。答申ではその目的として、「継続的・定期的な口腔管理による歯科疾患の重症化予防の推進」としているが、そもそもすべての歯科医療機関が医療安全対策や感染対策、歯科疾患の重症化予防に取り組み、地域でかかりつけ歯科医師の役割を担っており、施設基準で選別をすべきではない。
歯内療法の引き上げとNi-Tiロータリーファイル加算の要件緩和
 感染根管処置など歯内療法の点数がそれぞれ1~3点引き上げられた。また、3根管以上の加圧根充で手術用顕微鏡加算を算定する場合に限定されていたNi-Tiロータリーファイル加算が、施設基準と無関係に、顕微鏡がなくてもCT撮影をもとに実施した場合に算定できることとされた。
補綴物維持管理料の対象範囲の縮小
 補綴物維持管理料について、全部金属冠、3/4冠、4/5冠、レジン前装金属冠が対象外とされ、部分的な改定となった。
 協会は、成功報酬である補管廃止とともに、補綴を中心に歯科技術料の大幅引き上げを求めている。
 CAD/CAMインレーに対する光学印象が保険導入されたが、わずかな点数であり、歯科医療機関や国民の願いを逆手に取ったものと言わざるをえない。補綴治療に対する評価を改めて、不採算にならない十分な点数設定が求められる。
歯科訪問診療料の細分化
 歯科訪問診療料が3区分から5区分に拡大した。訪問診療1の1人のみの場合は時間要件が廃止されたが、20分間未満の減算は訪問診療2~5では残っている。また、同一建物で同日に4人以上の場合は改定前よりも点数が下げられた。一人ひとりの訪問診療に差をつけず、時間要件もすべて廃止すべきである。
歯科麻酔適用の拡大
 歯科麻酔が、生活歯髄切断と抜髄の際にも算定できるようになったが、すべての手技について算定できることを求める。
在宅療養支援歯科病院の新設
 病診連携のため、在宅療養支援歯科病院の新設などが行われたが、地域で役割を果たしている病院歯科の充実のためには、さらなる引き上げが必要である。
歯科矯正相談料の新設
 歯科矯正相談料が新設された。学校歯科健診で不正咬合など矯正治療が必要とされた際には保険適用すべきである。政府は医療費抑制のために長期収載医薬品の保険給付について選定療養の仕組みを導入したが、同様の手法を取らせないよう運動を強めていく。
歯科技工問題で一部改善
 協会と「保険でより良い歯科医療を」兵庫連絡会の運動の成果で、歯科技工所従事者等の賃上げのためとして、基本診療料、歯冠修復・欠損補綴の点数が引き上げられた。しかしわずかな引き上げにとどまっており、歯科医療機関の経営改善と歯科技工問題の抜本的解決には程遠い。歯科医療を支えている零細な歯科技工所の経営が成り立つ仕組みが求められている。
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