兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

兵庫保険医新聞

2024年3月25日(2065号) ピックアップニュース

西宮・芦屋支部/環境・公害対策部が市民学習会
許しがたい原発推進政策
小出裕章元京都大学原子炉実験所助教が講演

2065_06.jpg

政府の「処理水」海洋放出強行の理由には日本の核政策があると解説する小出氏

 東日本大震災・福島第一原発事故から13年となるのにあわせ、日本の原子力政策について改めて考えようと、協会西宮・芦屋支部と環境・公害対策部は共催で、市民学習会「汚染水海洋投棄-下北半島六ヶ所村再処理工場-日本の核政策」を協会会議室とオンラインで開催。元京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏が講演し、会員・市民ら127人(来場92人、オンライン35人)が参加した。

 小出氏は、原発事故は現在に至るまで、立ち入り禁止区域で救助されなかった人、強制避難させられた人、被曝しながら生活する人、避難を続けている人等々、悲惨で多様な被害を生んでいると振り返った。
 しかし、原発を推進してきた国・電力会社らは、原発の危険性を隠し、事故後も「想定外」と責任を逃れ、「安全基準」は「規制基準」にすり替えて原発を推進していると批判。
 予想されていなかった複数の断層連動により能登半島地震が志賀原発と柏崎刈羽原発を襲ったが、両原発は福島の事故を受け10年以上稼働停止中で、核燃料の発熱が千分の1に減り、さほどの冷却を必要としなかったために難を逃れたと紹介。世界最大の地震大国であることひとつとっても、日本で原発はありえないことが改めて明らかになったと指摘した。
 漁業者との約束を破り、政府・東京電力が強行する「ALPS処理水」海洋投棄について、小出氏は環境に漏らしてよい放射能などなく、「ALPS処理水」はトリチウムが排出基準濃度の10倍、セシウム、ストロンチウムをはじめとする他の放射能汚染物質も完全に取り除かれることなく含まれた「放射能汚染水」であり、海洋投棄以外にタンクの増設等、現実的で容易に実行できる方策は多数あると紹介。
 それでも政府が海洋投棄を強行する背景には、核兵器は持たないが製造技術は保有したいという基本政策があると指摘。政府は「もんじゅ」の廃炉で核燃料サイクルの破綻が決定的となってもなお、青森県六ヶ所村で再処理工場を稼働させ、原爆の材料となるプルトニウムを抽出できる技術を保有しようとしているが、福島のトリチウムを海洋投棄できなければ、同様に膨大なトリチウム等の放射性物質を発生させる再処理工場も運転できなくなり、日本の原子力政策という名の「核政策」が破綻に追い込まれると解説した。
談話
福島第一原発事故13年
改めて事故の危険性振り返り原発ゼロ実現へ行動を
環境・公害対策部長  森岡 芳雄
 2011年3月11日の東日本大震災・東京電力福島第一原発事故から13年を迎えた。デブリ除去の見通しは全く立っておらず、廃炉作業での事故も相次いでおり、自主避難者を除いても2万人以上の方々がいまなお避難生活を強いられ続けている。帰還者についても一般の20倍の年間20mSvの被曝が前提となっており、事故原因も未だ解明されることなく、日々膨大な汚染水と汚染廃棄物が発生し続けている。
 しかし、政府は事故が終わったかのように、原発の再稼働を進め、昨年にはGX(グリーントランスフォーメーション)として、温暖化対策に原発が有効であるかのように喧伝し、原発の新増設、60年超の老朽原発の稼働を認めるなど、事故の反省から定めた原発政策を次々と転換してきている。そして多くの国民・漁業者の反対を無視して「ALPS処理汚染水」の海洋投棄も強行した。
 今年1月1日に起こった能登半島地震は、地震大国・日本で原発を稼働させる危険性を改めて示した。事故時の避難計画のずさんさ、避難計画が原発稼働の規制委員会の審査対象項目から外されていることに改めて憤りを感じる。
 私たちはこれまで、いのち・健康をまもる医師・歯科医師として、事故による甚大な被害を引き起こす可能性を内包し、処分方法が未確立な放射性廃棄物を排出し続ける原発の全廃と新増設の禁止、そして再生可能エネルギー中心のエネルギー政策に転換することを繰り返し求めてきた。
 電力逼迫や温暖化対策、電気料金引き上げなど、政府・電力各社は原発が必要であるとする理由を繰り返し宣伝しているが、再生可能エネルギー中心に転換し、省エネ等を推進することでこれらが達成できることは明らかになっている。
 いま、改めて福島第一原発事故が何をもたらしたのかを振り返り、原発の危険性とその背景にある核開発疑惑について考え、行動すべきときと考える。
バックナンバー 兵庫保険医新聞PDF 購読ご希望の方