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兵庫保険医新聞

2024年4月25日(2068号) ピックアップニュース

特別インタビュー  「断らない救急」支える
神戸市立医療センター中央市民病院 放射線診断科参事 石藏 礼一先生

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【いしくら れいいち】1975年兵庫医科大学入学、82年同大学放射線科研修医、84年同医員、86年同助手、大阪大学医学部放射線科国内留学、その後、宝塚市立病院放射線科主任医長や海外留学(Mt. Sinai Medical Center(N.Y)Dept. of Radiology(8カ月)、兵庫医科大学放射線医学講座講師を経て、08年同准教授、12年同大学放射線医療センター画像診断部部長、19年同大学放射線科臨床教授、同年神戸市立医療センター中央市民病院放射線診断科部長、22年同参事

 神戸市の「救急の砦」神戸市立医療センター中央市民病院の放射線診断科の特徴と、AIが発達するなかでの未来とは--。神戸市立医療センター中央市民病院放射線診断科参事の石藏礼一先生に、鈴田明彦理事が聞いた。

いつでも対応できる体制を整備
 鈴田 先生とは50年近くのおつきあいとなり、お会いできてうれしく思います。
 中央市民病院の放射線診断科に異動になられたことで一度お話しを伺いたいと思いながら、遅くなってしまいました。
 まずは、センターの放射線診断科の特徴について教えてください。
 石藏 当センターはご存知のように「断らない救急」を掲げているのが大きな特徴です。救急患者の受け入れ率は97%で、神戸市の救急の最後の砦と自負しています。
 放射線診断科は救急をはじめとする急性期疾患から悪性腫瘍の患者さんと、幅広い画像診断・IVR(Interventional Radiology)を担っています。CT装置が7台(うち1台は手術室)、MRIが5台、アンギオ(血管造影)室は7台(うち2台は手術室)あり、急性期の患者さんがいつ来られても対応できるような体制を整備しています。
 14人のスタッフで業務を行っています。災害時や感染対策などに備えて放射線診断科医師1名の自宅には専用の装置が置かれており、遠隔読影を行っています。
 鈴田 神戸市の救急医療の砦を支えて、日々奮闘なさっていることがよく分かります。歯科も含めた開業医としては、やはり困ったら中央市民病院が受けてくれるというのは非常に頼りになります。
 石藏 画像診断は院内だけでなく院外の開業医の先生方から依頼も受けて、頭部から骨盤まで、小児も含めて幅広く行っており、病診連携に努めています。検査が必要と感じられたらご依頼いただきたいと思います。
 他にPET-CTは本館と南館に一つずつ、術前術後ステージングに加え、最近では認知症のアミロイドPET検査が保険適用になったので、その検査も増えてきています。
 また、腹部を中心にIVRを行っており、産科出血や外傷出血、大腸憩室炎による出血、膿瘍ドレナージなどの救急症例が多く見られます。最近、上腸間膜動脈血栓症の血栓回収のIVRも行うなど、積極的に取り組んでいます。 2068_05.jpg

聞き手 鈴田 明彦理事


 鈴田 これだけの規模で診断・IVRをされていたらご苦労も多いでしょうね。
 石藏 この間、医療技術は劇的に発展しています。私たちの学生時代は頭部CT2枚の画像を出すのに2分弱かかっていましたが、いまは胸部から骨盤までが5秒で撮影されます。放射線科医が診断しなければならない画像のデータ量が膨大になっています。
 最近、医療過誤などでよく問題になっているのが、目的の部位と違う箇所で異常が見つかった場合の対応です。例えば、肺がん疑いの患者さんでも、CT画像には肺以外に肝臓や膵臓の画像が含まれます。私たちはその画像全体を診て「膵臓に異常がある」などと記載しますが、CTを依頼した主治医は肺の画像のみを見て、読影所見全体を読まないことでせっかく画像診断医が指摘していたのに対応が遅れて問題になることもあります。これを防ぐため、当院では医療安全管理室と連携し、われわれが、たまたま見つかった重要所見のあった検査をマークすると、それに対して主治医が対応したかを、医療安全管理室が確認して、依頼科に対応してくれるというシステムを構築しています。
 本紙読者の開業されている先生方も、依頼していた部位以外にも所見が書かれていたら、専門医へ紹介するなど、対応をお願いしたいです。
 鈴田 気をつけるようにしたいと思います。
 石藏 もう一つ気になっているのは、CT被曝問題です。肺と腹部など読影部位によって必要なX線の量を調整するなど、各メーカーができるだけ被曝量を少なくするシステムを開発していますが、日本ではCT検査の件数が欧米に比べても非常に多く、どうしても被曝量が多くなりがちです。
 鈴田 私はラグビーをしますが、頭部外傷は必ずCTを撮るようにと言われますね。
 石藏 そうですね。必要な場合は多いですが、特に小児の被曝には注意しなければならないと感じています。小児頭部外傷では頭部CT適応基準がイギリス・アメリカ・カナダなどではあります。
AIの発展と放射線科の今後
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インタビュー終了後2人で記念撮影

 鈴田 先ほど技術が劇的に発展しているとの話がありましたが、近年AI(人工知能)の登場が騒がれるようになり、特に画像診断の分野ではAIの診断能力が人間を上回ってくるのではないかというような論も耳にします。
 先生はこの点についてどう考えられていますか。
 石藏 画像診断の上で、AIは欠かせないものとなりつつあります。胸部単純撮影で特に普及しており、例えば、前回の画像と今回の画像を比較して違いを示してくれたり、胸部画像から肋骨を取り除いて、病変を分かりやすくしてくれます。また、胸部CTで小さい肺転移、結節をみる時に、当センターでは基本2・5㎜スライスでみており、画像の数が膨大となります。これを人間が見るのは大変ですが、AIを使うとあっという間に前回との比較をしてくれて、結節の出現や増大や縮小などを数値で示してくれます。
 一方で、現地点ではAIはあくまで読影の手助けです。たとえば当院採用の胸部CTのAIが拾い上げてくる結節疑い病変のほとんどは腫瘍以外の炎症性変化で、それを一つひとつ画像診断医が判定して主治医に所見としてお渡ししています。現在のところ人間に代わって診断を行うことは難しいと考えています。
 また現在のAIは過去のデータを使って学習(ディープ・ラーニング)し、一つの所見についてのみ診断をします。例えば肺結節は判定しても肺炎は同じソフトで判定できません。また、新たな疾患には対応できません。
 しかし、AIの発展は、画像診断医のタスクシフトにもつながります。企業だけでなく放射線診断医が中心となってAIの開発を行っています。
 鈴田 患者の健康のために役立つよう、専門医が主導でAIなどの技術を開発していくということは非常に重要だと感じました。
 少し話が変わりますが、先生は兵庫医科大学の同窓会長も務められ、ご活躍されていますね。会員には兵庫医大卒業生が多数いますし、兵庫医科大学病院には会員として保険請求のお問い合わせいただくなど、いつも協会をご利用いただいています。
 石藏 ありがとうございます。実は妻が保険医協会の共済制度をずっと利用しており、いま年金を受給していて、大変助かっています。
 同窓会は母校と卒業生とをつなぐ存在と考えています。母校の発展に寄与し、卒業生には、母校への帰属意識を持っていただきたいと思います。
 現在、同窓会は学術や支部会支援、学生への支援活動など幅広く活動を行っています。同窓生間の親睦だけでなく、学生と卒業生がさらに 親睦を深めていけるように考えています。そして卒業生には医療で社会貢献をしていただきたいです。
 鈴田 ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
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