2025年4月15日(2099号) ピックアップニュース
税経部より
令和6(2024)年分確定申告の特徴 ポストコロナの影響が顕著
協会税務講師団 浦上 立志 税理士
①典型的ブルシットジョブ
-定額給付金の源泉徴収と確定申告
マイナ保険証や各種申請・手続きの電子化に追われ日々を過ごすが、それ自体は何も利は生まない。本業は細ったままだというのが大方の実情ではなかろうか。
一年限りの定額減税もそれだ。6月から小分けして源泉税天引き、年末調整、そして自身は確定申告で所得を確定させ対象となるかの判断が必要だった。
②ワクチン接種1000万円超えでまさかの消費税課税
令和5~6年の基準期間である令和3~4年にコロナワクチン接種で課税収入1000万円を超えたというケースは消費税の申告が必要となる。もしも無申告だった場合、修正申告した方が加算税の加重制裁を受けずに済む。また、令和2年からのコロナや物価高騰各種補助金の計上漏れもしばらくありうる。
③改定による収入減
定期受診の患者が少ない医療機関では顕著に収入減となっている。ほかにもコロナ補助金や診療報酬のコロナ特例終了の影響が大きい。診療報酬改定、特に特定疾患療養管理料の劇的減収からは、過重勤務の病院勤務医から開業医に転じようにも、残るも地獄、去るも地獄の「持続可能な医療体制確保」を、厚労省・財政審は目指しているとも思える。他業種においても飲食業の休業補助金が終わり、ゼロゼロ融資というしばらくの延命のツケが来ている。「減収は自己責任」とさらに事業淘汰に拍車をかけたのが、手間だけかかって利益は削られるインボイス制度導入だ。
④役所本位のDX化の影響
税務署は、納付書は原則送らず、用紙配布コーナーは廃止した。ある市役所では夜間書類受付箱を撤去し、直接持参か郵送のみに。各部署に手紙を配分する仕事を省く合理化なのだろう。この勢いなら、今年から紙での申告に収受日付印をやめた税務署も早晩同じようにするかもしれない。
マイナ保険証導入や振込通知書ダウンロードは3カ月限りなど、役所の効率化優先が露骨となっている。
まだまだ診療余力のある開業医の廃業もあった。収入の低下もあるが、オンライン請求、振込通知書のダウンロードによる保管、マイナ保険証トラブルへの対応と業者の不親切などが背景にあるようだ。不毛の複雑化で同業税理士の廃業、補助金などのコンサルタントの廃業も見聞した。
税務署や自治体の納税者情報の管理・集積は、金融機関の預貯金情報などを統合した「ピピットリンク」「ダイス」などの民間企業に委託され始めている。資産・負債といった金融機関が持つ情報を、税務官庁が収集・集積することを無制限に認めてよいか問われる。人材派遣業への委託にとどまらない公的行政の民営化がすすむ。すでに一部自治体ではショートメッセージサービスでの納税催告が採用されている。
⑤手書き申告書は至難の技
-税務署業務の電子化・分業化
複雑な扶養控除等申告書や、各控除などの意味を理解して手書きで確定申告書を作成するのは執念がないとできない。だからマイナポータルからデータの読み込みが便利だ、というが、いちいちの取り込みは簡単ではない。
確定申告の複雑化により、今や国税庁の確定申告書作成コーナーに依存せざるを得ないようになってきた。落とし穴は、入力間違いとチェックリストの誤読。これを防ぐには前年との対比やなぜそうなったかを考える必要がある。
税務行政は時系列、業種、全国統計のデータから、税務調査に向けたチェック体制を構築していると推測できる。
⑥税務調査
-簡易な接触方式と強権調査の併用
コロナ期に対面調査は大幅に減った。蓄積データと解析により調査先を選定し、「お尋ね文書」など簡易的な方法による接触を推進。コロナで現場調査の体験のない若い署員達が増えたので、その研修を兼ねてだろう。
いざ調査に来ると机上の論の非情さとピントはずれの両面があると同業者も言う。かくして「楽しい日本」は遠のくばかりとなってきている。