兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

兵庫保険医新聞

2025年6月15日(2104号) ピックアップニュース

燭心

 協会の役員を引き受けてから40年、今期で退任することにした。昔読んだ石垣りんさんの、「定年」という詩を思い出した。最後の締めくくりに少しご紹介を▼ある日会社がいった。「あしたからこなくていいよ」/人間は黙っていた。人間には人間のことばしかなかったから/会社の耳には会社のことばしか通じなかったから/人間はつぶやいた。「そんなことって!もう40年も働いてきたんですよ」...たしかに入った時から相手は、会社だった/人間なんていやしなかった▼石垣さんは14歳から定年まで銀行の事務員として働き、職場の労働組合運動にも参加しながら詩作を続けた。男女の賃金や定年の差別、パワハラ・セクハラなど当たり前の時代に、つらいことも多かったろう。声をあげれば、若いうちは「若造が」と侮蔑され、キャリアを積めば積んだで「重責にあるものが...」と責められる。それでも、声を上げる人たちがいたからこそ、少しずつ世の中が変わってきた。私たちが今当たり前のように享受している自由も平等も▼「定年」は、「会社のことば」から解放され「人間のことば」を取り戻す機会でもある。今なお、私たちの身の回りには、たくさんの理不尽があって、私たちを苦しめている。「定年」後も、おかしいことはおかしいと声を上げ続けていきたい。あとに続く人たちのために、「会社」でなく社会のために▼さて、〝燭心〟の執筆も今号が最後、長年お付き合いいただいた皆様方に感謝したい。ありがとう。(星)
バックナンバー 兵庫保険医新聞PDF 購読ご希望の方