2025年8月05日(2109号) ピックアップニュース
燭心
ひところ迷惑系ユーチューバーが話題になった。再生数を稼ぎたい迷惑系ユーチューバーは、コンビニで騒ぎ、駅で撮影を繰り返し、常識を嘲笑する。そして、炎上すればするほど勝利、目立てば勝ち。そんな風潮が政治の一部を同じ土俵に引きずり込んでいる▼その手の候補者は過激な発言、陰謀論、挑発的なパフォーマンスで視聴者ならぬ有権者を煽り、注目と支持を得ている。こうした手法が政治の世界に浸透しつつあるのは恐ろしい。例えばある政党の代表が発する情報は、確かに既存メディアが触れない領域に踏み込んでいる。しかし、その言葉に裏付けがなければ、政治は知性ではなく煽動に支配される。数々の失言も計算されたうえでの発信なのだろう。マスコミに取り上げられ、叩かれれば叩かれるほど再生回数が伸びる動画のように、認知度が高まるのだから▼彼らの言葉や論理に危機感を持った真面目なメディアが番組で警告することそのものが、すでに術中にはまっているのだ。有権者にその政党を強く印象付けることに一役買ってしまっている。目立つ者こそ正義などという空疎な価値観が社会全体に蔓延し、冷静な議論や理性的な選択は駆逐される。このままでは、公共の言論空間は迷惑系の論理に飲み込まれ、扇動と騒動だけが力を持つ世界になる▼「声が大きい者」に惑わされてはならない。今求められているのは、信頼に足る言葉と責任ある沈黙の価値だ。さもなくば、社会はよりいっそうの分断と混乱へと向かう道をたどることになる。(九)