2025年9月25日(2113号) ピックアップニュース
燭心
「核兵器の保有は意外に安価ではないか」--こうした言説が一部で語られている。医療に携わる者として、この考え方を看過することはできない▼仮に日本が核武装を進めた場合、初期費用だけでも30兆円規模と試算されている。さらに輸送手段としてのICBM(大陸間弾道ミサイル)や原子力潜水艦、爆撃機の整備・維持に、年間数兆円単位の経費が必要となる。結果として社会保障は圧迫され「国民の貯金が弾丸に変わる」「戦争に備えて耐えよ」という時代錯誤の精神が再び持ち出されかねない▼さらに国際法との整合性、周辺諸国との緊張、物資供給網への影響など、核保有による国際的孤立や経済制裁による打撃は計り知れない。米国が日本の「真の独立」を容認する可能性も極めて低い▼そもそも、医療倫理はいかなる状況においても人命を最優先に考えることを求めており、核兵器を「財政的に安価か否か」で語ること自体が、その理念を損なう行為である。核兵器は決して単なる軍事的選択肢の一つではない。それは人命と健康、そして社会そのものを瞬時に、しかも永続的に破壊するものだ。予防も治療も不可能な壊滅的破壊をもたらす核兵器という存在は、命を守る医療者の使命と根本的に矛盾する。広島・長崎の被爆者が今なお抱える健康被害や放射線による遺伝的影響は、単なる数字では到底表しきれない現実である▼命を守る責務を担う者として、私たちは常に「人の命」という原点に立ち返らなければならない。(空)



