兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2025年10月25日(2116号) ピックアップニュース

特集 神戸市長選挙 政策解説㊦
こども医療費無料化未実施は神戸市だけ
中3まで40市町 高3まで30市町無料

 10月26日投開票で行われる神戸市長選挙にあたり、神戸市政を解説する第2回は「こども医療費助成」を取り上げる。

 政府の社会保障費抑制政策が続き、窓口負担引き上げが進められているが、負担軽減をはかるため自治体がそれぞれの努力で行っているのが、福祉医療制度である。
 この制度は「安心して医療を受けたい」という当事者の切実な願いによって前進してきており、特にこの20年ほどで、高校生までの子どもを対象とする、こども医療費助成制度は大きく拡充され、県内ではほとんどの自治体で中学3年生までの無料化が実現し、さらに高校生世代までの無料化が進んでいる。
 20年前、こども医療費無料制度は多くの自治体で入院のみが対象だったが、2013年度には県内の約半数の20市町が中学3年生までのこども医療費を通院・入院とも無料にし、24年度では、40市町(うち32市町が所得制限なし、尼崎市・豊岡市は住民税非課税世帯限定)まで広がり、神戸市以外の県内すべての自治体で、中3まで無料にする制度ができている(上図)。
 さらに高校生世代までの無料化も大きく広がっており、24年度には30市町(うち26市町が所得制限なし)と県内の約7割の自治体を占めている。来年1月から西宮市も無料化とすることを決定した。
 神戸市はどうか。神戸市でも、「神戸・市民要求を実現する会」などの団体が中心となって署名に取り組むなど、「こども医療費無料化を」との運動が広がり、徐々に所得制限の撤廃や対象拡大など、制度の拡充を進めてきた。
 しかし、神戸市では通院が無料となるのは2歳児までで、3歳~高校3年生までは1日400円(2割負担)、月2回までの負担がかかる(表)。あくまで「無料化」はしないとの立場である。
公約を反故にし「無料化」を頑なに拒む久元市長
 なぜここまで無料に背を向けるのか。もともと久元現市長は、初当選時(2013年)の市長選挙では、「中学卒業まで医療費をゼロにします(選挙公報)」を公約に掲げていた。選挙にあたっての協会神戸支部のアンケートに対しても「中学3年生までの入院・通院の無料化には賛成です」と回答、当選後にも「中学3年生までの医療費無料化について、段階的かつ速やかに実施することにしております」とコメントしていた。
 しかし、2017年にこれまでの意見を翻し「将来の財政負担を考えると一部負担が必要」と無料化は行わない考えを示した。
 昨年には市のウェブサイト内に「神戸市がこども医療費を無償化しない理由」というページを作成し、「(神戸市は)先端医療や高度な専門医療病院が集積していますが、窓口負担を完全に無料化することで過剰受診による医療費の増大を招く恐れ」「窓口負担が僅少であるこども医療費が増加し、国等からの公費が一定である場合には、保険料負担が必然的に増加」するとしている。
 また、「人口が100万人以上の自治体で高校生までの医療費を無料にしている例はほとんどない。というのは、大都市には規模が大きく高度な医療ができる病院が集まっている。無料にすると、子どもがそういった病院に殺到して、パンクする恐れがある」(神戸市公式note、2022年12月22日)とコメントしている。
 確かに中央区には、県立こども病院や神戸市立医療センター中央市民病院、神戸大学病院などの大病院が集まっている。しかし、これらの病院は救急を除き、かかりつけ医からの紹介がないと受診できず「子どもが殺到」という状況は考え難い。また、中央区以外の地域では、小児救急・入院を受けられる医療機関が少ない。市民の要望を受け、北区の済生会兵庫県病院が一次救急の受け入れを一部昨年から再開したものの、夜間の対応は困難な状況だ。小児が入院できる病院は灘区・兵庫区・垂水区にはない。このような状況下で、心配すべきは「過剰受診」ではなく、必要な受診・治療が受けられないことではないだろうか。
 医療体制の充実とあわせて、経済的理由で受診をためらうことがないようにすべきである。
 協会が県内でこども医療費無料化が広がった2012年度から17年度にかけて県内の休日・夜間応急診療所の受診者数を調査したところ、受診者数は約4%減少していた。
 全国的にも、医療費無料化が広がっても、医療費も無駄な受診も増えていない。2002年から17年までの15年間に医療費全体が12兆円増加した中、0~19歳の医療費の増加は0.5兆円にとどまり、レセプト件数は横ばい、時間外受診件数はむしろ減少傾向にある(本田孝也先生〈長崎県保険医協会会長〉調査)。
 そもそも、子どもは病院や医療機関受診を嫌がることが多く、「無料になれば殺到する」という想定は実態にそぐわない。
名古屋市・さいたま市も18歳まで無料実施
 すでに「人口が100万人以上の自治体」では、名古屋市とさいたま市が所得制限なしに18歳までの通院・入院とも医療費を無料にし、仙台市も2026年度からの実施が予定されている。
 神戸市でも、子どもの健康に不安があるときに、経済的負担を気にせずに、どの子どもも安心して受診できる環境を作ることが求められている。高3まで無料の実施に必要な金額は22億円で、市の予算のたった2%である。
 今回の選挙の立候補者では、久元氏は協会のアンケートに対し「制度持続のために一定の負担をいただく必要がある」と回答。
 協会・神戸支部が推薦する岡崎史典氏は「高校3年生世代まで医療費を完全無料にする」と協会のアンケートに回答している。
 五島だいすけ氏は公約で「こども医療費18歳まで完全無料」をうたっているが、氏は自民党市議であった時、市議会でこども医療費無料を求める請願や陳情に反対してきた。木島ひろつぐ氏はこども医療費に関する公約が見つからなかった。
 神戸市の子どもたちの健康を守るためには、入院だけでなく、外来も含めて、高校生3年生世代まで、所得制限のない完全無料化を実現する市政が求められる。

▶中3まで無料化の実施状況。神戸市のみ無料制度がない。32市町は所得制限も撤廃されている
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表 神戸市のこども医療費負担の推移
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