兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2025年11月15日(2118号) ピックアップニュース

燭心

 空木うつぎ岳(2864m)は木曽山脈の主峰の一座であり、凛とした稜線の静謐さに心が整う。山の名の由来は樹木の空洞「ウツギ」であるという。山頂付近の空木平には高山植物が咲き誇り、かつては雷鳥の姿も多く見られた。高低差2000mに及ぶ登山道は変化に富み、その終劇を飾る空木平の光景は、登山者に深甚な感動を与えてきた▼ところで木曽山系において、雷鳥は長い間「絶滅した」と考えられていた。しかし、2018年に1羽の雌個体が登山者により目撃されたことを契機に、実態調査や積極的な保護活動が進み、放鳥活動などの成果もあり、2025年6月の時点では、約190羽の生存が確認されている。その活動の弛まぬ努力に敬意を払いたい▼空木平避難小屋の長い夜、凍てつく寒さに命の危険を感じながら、遠くに聞こえる雷鳥の声に励まされた。山道を下りながら、今なお猛威を振るう新興感染症、そして災害などにおける地域医療体制の脆弱さについて、思いをはせる。今、積極的な財政投入を行わなければ、地域医療の存続が困難な地域が多くあることを忘れてはならない▼医療に携わるものにとって、命を守るのみならず、命を宿す人へ敬意を払い、その人の尊厳を守り抜くことも大切な任務である。持続可能な医療政策の推進にあたり、環境保全への取り組みから学ぶことも多い。豊潤な生命を宿す「ウツギ」のような地域社会、その灯が次世代にも引き継がれるよう、決意を新たに今日も診療に向かう。(眞)
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