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兵庫保険医新聞

2025年11月25日(2119号) ピックアップニュース

主張
「存立危機事態」発言が招く代償 ~一日も早い退陣を

 日中関係が危うい。高市早苗総理が国会で、台湾有事が日本の集団的自衛権の行使を可能とする「存立危機事態」に該当し得ると明言したことに端を発する。
 歴代政権が避けてきた禁断の領域へ踏み込んだ極めて挑発的なこの発言は、中国に強硬姿勢をとらせ、外交上の緊張レベルを一段と上昇させた。従来の「戦略的曖昧さ」を放棄し「武力行使の判断をする」という強いメッセージは、外交努力で危機を回避すべき局面において軍事的な備えを優先し、武力行使の可能性があることを公言したに等しい。
 日中関係の悪化だけでなく日本の国際的な信用を貶めた責任は重い。また、GDP比2%の防衛費増額目標、安全保障関連3文書の改定など安全保障を巡る政策の前倒しによる軍備・防衛体制の強化も性急である。
 先のトランプ米大統領の訪日では過度な親米態度が批判の的になったが、会談に経済・投資案件を持ち込み外交を商談化する大統領の思惑に合わせて対米投資を増やす約束をした。
 「同盟強化=早急な増費・装備増強」という構図を国民に浸透させ、核による抑止論をも固定化させる意図が見える。結果として日本の税金で米国内の軍事産業を太らせることになるのだが。
 米国製武器の大量購入とともに、殺傷能力のある日本製武器の輸出解禁に向けた動きも活発化させている。軍需による産業の活性化は公明党の連立離脱でさらに加速するだろう。
 防衛費を大きく上げる中で、当然のことながら社会保障・福祉・教育・子育て支援、少子化対策などへの手当ては相対的に軽視される。
 総理は従前より「社会保障=公的責任」の視点が弱く、「自己責任」「自助」を前面に出す傾向が懸念されてきた。このような国民の生命に関わる重大な判断について、国会での十分な議論や与野党の合意形成を経ずに先行して核心に踏み込む政権トップの姿勢は、戦前を彷彿させ極めて危険だ。
 「決断と前進」を掲げて発足して1カ月、早くも馬脚を現したこの内閣は「独断と暴走」を重ね、外交だけでなく平和国家としての日本の姿を変貌させる危うさを持つ。一日も早い退陣が望まれる。
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