2025年12月05日(2120号) ピックアップニュース
[政策解説] 財務省
「診療所の診療報酬引き下げ、公的医療保険の範囲縮小」を提案
財務省が財政制度等審議会で示した資料は、医療費抑制を前提に診療所や患者へ追加負担を求める内容が中心で、大きな問題をはらんでいる。主な論点を指摘する。
日医総研調査では、診療所医療法人の経常利益率の中央値は2~3%台、個人診療所でも4%未満で、歯科では赤字や収支均衡例も多い。平均値だけで議論すれば一部の高収益診療所が実態を歪め、多くの診療所が余裕ある経営をしているかのようにミスリードすることとなる。
財務省はこれを〝自由に使える資金〟のように扱っているが、実際には医療機器更新、建物修繕や建て替え、退職金原資など将来に備えた費用が含まれており、可処分所得とは言えない。こうした性質を説明せず診療報酬引き下げの根拠に利用する姿勢は不適切である。
財務省は「開業医年収は全産業平均の4.5倍で国際的に高い」と指摘するが、日本の診療所医師は外来医療の多くを担い、年間患者数・外来件数はOECD諸国でも突出している。
厚労省調査でも診療所医師の業務過重は明らかで、OECDも「医師数が少ない国ほど1人あたり業務負担が重い」と指摘している。
こうした構造を無視し、分業が進む欧米と単純比較して「日本の医師は高収入」と結論づけるのは、比較方法として成立しない。
医療安全を優先する慎重姿勢を「普及しない理由」と誤解し、制度普及を安全性より優先させる議論は患者の不利益につながりかねない。
「保険外併用療養費制度の拡大」や「民間保険の活用」を求める点も、同じ方向性にある。公的医療の保障範囲が狭まれば、所得によって受けられる医療が分かれ、国民皆保険の理念は大きく損なわれる。民間保険頼みの医療は、健康格差の拡大を加速させる。
無床診療所の利益剰余金1.3億円超?
まず、無床診療所の利益率が高く、利益剰余金が1施設あたり1.3億円超で「経営余力が大きい」とする財務省の説明はミスリードである。示されているのは平均値に過ぎず、実態を示す中央値は著しく低い。日医総研調査では、診療所医療法人の経常利益率の中央値は2~3%台、個人診療所でも4%未満で、歯科では赤字や収支均衡例も多い。平均値だけで議論すれば一部の高収益診療所が実態を歪め、多くの診療所が余裕ある経営をしているかのようにミスリードすることとなる。
診療所の院長収入3200万円?
診療所院長の「個人収入」が3200万円とされる点も同様である。財務省はこれを〝自由に使える資金〟のように扱っているが、実際には医療機器更新、建物修繕や建て替え、退職金原資など将来に備えた費用が含まれており、可処分所得とは言えない。こうした性質を説明せず診療報酬引き下げの根拠に利用する姿勢は不適切である。
日本の医師報酬は世界最高水準?
医師報酬の国際比較にも問題がある。財務省は「開業医年収は全産業平均の4.5倍で国際的に高い」と指摘するが、日本の診療所医師は外来医療の多くを担い、年間患者数・外来件数はOECD諸国でも突出している。
厚労省調査でも診療所医師の業務過重は明らかで、OECDも「医師数が少ない国ほど1人あたり業務負担が重い」と指摘している。
こうした構造を無視し、分業が進む欧米と単純比較して「日本の医師は高収入」と結論づけるのは、比較方法として成立しない。
「リフィル処方」は三方良し?
リフィル処方についても、財務省は「三方良し」として普及率の低さを問題視する。しかし、高齢者の多剤併用や慢性疾患の病状変動、副作用チェックの重要性を踏まえると、定期的な診察は不可欠である。医療安全を優先する慎重姿勢を「普及しない理由」と誤解し、制度普及を安全性より優先させる議論は患者の不利益につながりかねない。
診療報酬が低いなら商売でもしろ?
さらに、資料では「本来業務に支障のない範囲で提供できるサービスや徴収可能な費用を明確化・拡充すべき」とされる。これは実質的に、診療報酬で賄えない部分を自費サービスで補うことを医療機関に求めるものだ。診療報酬の改善を先送りし、医療機関の経営や国民の健康を守る国の責任を後退させる危険がある。「保険外併用療養費制度の拡大」や「民間保険の活用」を求める点も、同じ方向性にある。公的医療の保障範囲が狭まれば、所得によって受けられる医療が分かれ、国民皆保険の理念は大きく損なわれる。民間保険頼みの医療は、健康格差の拡大を加速させる。



