兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2025年12月15日(2121号) ピックアップニュース

主張 医療・介護への支出を増やすと経済も活性化できる

 高市政権は国家成長戦略として、AI・半導体、造船、量子、バイオ、航空・宇宙、デジタル・情報安全、コンテンツ、フードテック、資源エネルギーGX、防災・国土強靱化、創薬・先端医療、核融合、重要鉱物、港湾ロジスティクス、防衛、情報通信、海洋の17分野を取り上げた。
 確かにこれらは、現在の成長分野で、これからの短期の経済発展を見込めるかもしれない。しかしこの分野への投資では、日本の経済の長期停滞を回復させることは難しい。なぜなら、日本はすでにその潮流に乗り遅れているからである。
 そこで、これら17項目のその先に目を向ける必要がある。
 京都大学の諸富徹氏は、資本の無形化にともなって、ハードを製造し販売する形から、ソフトを作り販売する、あるいはその利用で収益を上げる時代となっている。そのためにソフトや新たなアイデアを想像することができる人材を育てるために教育や、職業訓練などで能力を開発し、伸ばすために資本投資する必要があると述べている。これを社会的投資、あるいは人的投資と言う。
 現在わが国の多くの企業は投資先を探し、あるいは配当を望む株主のために、630兆円という巨額な内部留保を貯めこんでいる。本来その資金は労働者の賃金に還元すべきものであるし、その還元の仕方を、人的投資として、拠出すべきである。それこそが将来を見据えた成長戦略ではないだろうか。
 さらに今、世界が注目しているのは、これから進んでいく高齢化社会をどうすればうまく乗り越えて行けるのかという課題である。
 WHOの推定では、高齢者介護を家族が担うことで、家族の雇用を奪い経済損失が起こる。一方で、介護を社会事業として行うことで、雇用を創出し、経済促進効果が出る。つまり介護は新たな産業であるという視点である。
 同様に医療もまた資金を投入することで、雇用を守り、経済を活性化する能力が高い。世界に先駆けて介護保険を導入したわが国の、その舵取りに世界は注目している。防衛国債で、アメリカの兵器を買うと、対米債務がかさむ。一方で医療・介護に支出することで、国内に資金が投入され、経済効果は大きくなる。さらに企業が十分に賃金を出せば、保険料収入も増える。政府はお金の使い方を十分に考える必要がある。
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