2026年1月05日(2122号) ピックアップニュース
新春インタビュー
子どもの発達障害 まずは知ることから
姫路市・はりまこどものこころ診療所 三木 崇弘先生
【みき たかひろ】1981年、姫路市生まれ。2008年愛媛大学医学部卒業。国立成育医療研究センターこころの診療部でフェロー・医員として6年間勤務後、フリーランスの児童精神科医となり公立小中学校、児童相談所、児童養護施設、保健所などで臨床経験を積む。2019年東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科博士課程修了。2022年早稲田大学大学院経営管理研究科修士課程修了。2025年姫路市に「はりまこどものこころ診療所」を開設
地方で叶える夢と使命
高森 先生が児童精神科を開業するまでの経緯をお聞かせください。三木 姫路市内の高校を卒業し愛媛大学に進学しました。愛媛県内の病院や国立成育医療研究センターでの勤務ののち3年ほど学校医や児童相談所での勤務、そして「学校現場も見なければ子どもの様子はわからない」と思い、東京都教委の採用試験を受けてスクールカウンセラーも経験しました。非常勤をかけ持つフリーランスでしたが、これらの経験が児童精神科医としての土台となりました。
高森 その後、姫路に戻って開業されたのですね。
三木 もともと都市部で学んで地方に還元したいという考えがあったので、いつかは戻ってくるつもりでした。開業前には高岡病院(姫路市)で2~3年働かせてもらい、精神科病棟での経験や、自身とは違ったアプローチについて学ばせていただきました。
周りの人に「開業する」と話すと、先輩方からは「経営が大変だよ」と強く止められましたね(笑)。しかし児童精神科が必要とされていることがわかっていたので思い切って開業しました。
先輩に言われていたように精神科の点数の単価は低いです。大きな利益は出なくてもいいと思いますが、人件費などは確保しなければなりません。患者さんは一日平均30人くらいで、じっくり話したいけれど時間を確保するのが大変なのが現状です。
高森 協会には開業後すぐ入会いただいたんですよね。ありがとうございます。
三木 診療報酬などよく分からず開業したので、とても助かります。もうすぐ新規指導があるので、アドバイスをいただきながら備えたいと思います。
暮らしや環境をテーマに子どもに向き合う
聞き手 高森 信岳 理事
三木 小さいころお腹が痛くなりやすかったことから心身相関に興味を持ち、精神科を目指した時もありました。子どもが好きだったので結局は小児科医になったのですが、「身体」に注目するというよりも「暮らし」「環境」をテーマとしたいと思うようになり、児童精神科医に落ち着いた感じです。
高森 最近は、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)が耳慣れたワードになり親御さんの関心も高まっていますね。
三木 そうですね。発達障害によって現れる特性である、得意と不得意の差が大きい、いわゆる「凸凹(でこぼこ)」に気が付くきっかけはさまざまですが、大きな音が苦手、文字を認識するのが苦手などの「困りごと」は早めに解決することが重要です。イヤーマフやタブレット端末を使うことは、視力が悪い人が眼鏡を使うようなものですから積極的に勧めます。他にも、療育施設に繋がることで、その子に合わせた支援が受けられますし、周りの大人が無理をしすぎることも防げると思います。
ただ、患者さんの中には虐待やネグレクトが原因で発達障害と似た症状が出ているケースもあります。その場合、成育歴が分からないことも多く対応が悩ましいです。その他、ゲーム依存症などを抱えたり、リストカットを繰り返す子や、保護者とのコミュニケーションの困難さから学校の先生と一緒に来ることもあります。
私は診察室でしか会えませんが、学校や家庭などどういった環境にいるのか、どうしたらいい環境で過ごせるのか、社会全体で考えないといけないと思います。
高森 児童精神科医だけでなく、さまざまな角度からのサポートが求められていますね。
三木 そうなんです。ただ、姫路市内にも小児科の医療機関は多くありますが、発達を診る先生は多くありません。また、中学生くらいだと小児科ではなく内科にかかることも多いですよね。先生方には、発達障害は特別なものと思わず、「変わった子」の人生相談に乗るくらいの気持ちで、ためらわず向き合ってほしいです。私たち市内の児童精神科医の中でも、「こういった子どもならこの先生に」という病院・診療所のネットワークを作る動きがあります。こういったものも活用いただけばと思います。
高森 それは重要な取り組みですね。
地域医療を守るのは行政の役割
クリニックで笑顔を見せる三木先生(右)と高森先生
高森 姫路から医学部に進学した人が100人とすると5人しか戻ってこないと言われていますね。
三木 それで果たしてこの地域の医療を守れるのでしょうか? 今後の姫路や西播地域の医療が心配です。再来年度から兵庫教育大学の心理士をめざす学生の実習を受け入れたり、大学病院とも連携を模索したりと人材を確保できるよう働きかけていますが...。
今、医療機関の赤字経営が大きな問題になっていますね。医療など必要なものは行政が担保しないと、経済合理性を求めた瞬間に困ってる人のところに医療が届かなくなるじゃないですか。私たちも富裕層向けの医療をやろうと思えばやれますが、それをやりたくて医者をやっているわけではないんです。先ほども言いましたが、丁寧に診療するほどマイナス経営になるというのも大きな問題です。
高森 その通りですね。協会としても、診療報酬の大幅引き上げや患者負担軽減などを国に求めています。
三木 心強い取り組みです。
「リエゾン」が広げた発達障害の知識
高森 児童精神科をテーマとし、ドラマ化もされた漫画「リエゾン」の医療監修をされていますが、どういった経過だったのでしょう。三木 友人の漫画家のこしのりょうさんから、講談社が児童精神科医を監修者として探しているけどどう?と、当時フリーランスだったにもかかわらず声をかけていただいたんです。面白そうだったので即答で引き受けました。ただ、取材は徹底してほしいと伝え、いただいたシナリオ原稿を「自閉スペクトラム症の6歳の子はこんなこと言わない」などと真っ赤にして返していました(笑)。でも編集部が「エンタメでも嘘をつきたくない」という方針を徹底してくれたので、とてもリアルな作品になっていると思います。
高森 発達障害が社会的に注目されていますが、関心のなかった層にも届いたのではないでしょうか。
三木 そうですね。しかも男性向け雑誌「モーニング」ですし、5年にわたる連載が先日完結しましたがとても意義のある作品に関われました。さらにドラマ化もされ、親世代、祖父母世代の方にも届けられました。注目はされつつも誤解もある中、まずは知ってもらうことができたのかなと思います。
高森 子どもの「困りごと」を理解し、支えることの重要性がよく分かりました。今日はありがとうございました。
三木先生のご著書
『リエゾン-こどものこころ診療所凸凹のためのおとなのこころがまえ』
三木崇弘(著)、ヨンチャン(原作・漫画)、竹村優作(原作)
発行 講談社、2023年1月、1650円(税込)



