兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2026年2月25日(2126号) ピックアップニュース

主張 衆議院議員選挙 重要課題 争点にならず
社会保障充実や民主主義の価値 どう届けるか

 今回の選挙は、定数の3分の2超の議席を得た自民党の圧勝となった。
 現政権への支持が示された形だが、その背景を冷静に見ておくことが重要である。消費税、社会保障、防衛・外交、憲法、政治とカネなど、国の将来に関わる多くの課題が存在していたにもかかわらず、それらが明確な争点として十分に整理され、比較されたとは言い難い。
 選挙結果を左右した要因の一つが、得票の形成過程の変化、とりわけSNSの影響力の拡大だろう。SNSでは、長い政策説明よりも、切り取られた発言や強い言葉、分かりやすい対立構図が短期間で強烈に増殖されやすい。SNS上で経済的利益を目的に視聴回数を競う中で、話題性だけが可視化され、それが支持と混同されやすくなっている。
 こうした現象は、いわゆる「票獲得における9・6・3の原則」、つまり固定層9割を固めるだけではなく、流動的な中間層の6割や無関心層の3割から、短期間で支持を得る手法が有効に働いた結果と言える。一方で、東京都知事選や兵庫県知事選候補のその後に象徴されるように、その支持は同じ速度で関心が失われるという不安定さも内包している。
 このような環境では、丁寧な説明や地道な合意形成より、瞬間的な印象が投票行動に影響を与えやすい。
 自民党は小選挙区制度の得票率49%に対し、86%の議席を得た。小選挙区制度により、実際の民意より議席が大きく伸びていることも見ておくべきだろう。
 注意すべきは、このようにして形成された不安定な民意の上で、国の進路を左右する決定が進められていくことだ。とりわけ憲法、安全保障、社会保障制度などは、一度方向が決まると修正が難しい。防衛費拡大の陰で社会保障が圧迫されれば、医療や介護を含む生活基盤にも影を落とす。
 今回の選挙結果をもって、社会保障の充実、格差の是正、平和主義、民主主義の成熟などが否定された、時代に合わなくなったと結論づける必要はない。これら理念は、医療、福祉、教育、労働の現場で課題に向き合う担い手、とりわけ若い世代にとって、今なお切実な現実であり続けている。
 選挙により示されたのは、価値の否定ではなく、価値が社会に届く回路が変化しているという事実である。重要なのは、誰に、何を、どの手段で伝えるのかを戦略的に組み直すことである。
 伝え方を冷静に更新し、現場の声を社会に可視化していくことは、理念の後退ではなく、民主主義を持続させるための技術的課題である。民意が揺れ動く時代だからこそ、選挙結果の背景を冷静に分析し、次につなげていく姿勢が、今後の政治と社会に求められている。
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