兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2026年3月05日(2127号) ピックアップニュース

燭心

 ナマケモノは、1日にわずか8グラムほどの「葉っぱ」で生きられるという。人間なら3日と持たないだろうが、その暮らしぶりは、世界に広がる「餓死」と「肥満」という奇妙な同時進行を考えるうえで示唆的だ▼現在、世界の飢餓人口は約7億人。紛争や気候変動の影響で増加傾向にある。一方、肥満人口は10億人を超え、過体重を含めれば成人の4割以上とされる。食べられずに命を落とす人がいる一方で、食べすぎて健康を損なう人もいる。世界で廃棄される食品は年間13億トン。生産量の3分の1にあたるという。スーパーの棚に並ぶ山のような商品や、コンビニの廃棄弁当を思い浮かべれば、この数字も現実味を帯びてくる▼私たちは速さと効率を追い求め、移動も生産も廃棄も、とにかく急ぐ。その結果、エネルギーと資源を大量に使いながら、余らせ、そして捨てる。ナマケモノは、必要なときに必要な分だけ動く。低栄養の葉っぱを発酵させ、ゆっくりと使い切る▼人間もまた、技術の力で「少ない資源で高い栄養」を実現しようとしている。植物肉や昆虫食、微細藻類は、その一例だ。葉っぱ一枚で生きることはできなくても、せめて無駄を減らすことはできるはず。飢餓と肥満が同時に進む時代に必要なのは、速さではなく、足るを知る感覚かもしれない▼もっとも、「働いて、働いて......」とハッパをかけられる日本社会で、ナマケモノのように木にぶら下がっている余裕があるかどうか。そこが、いちばんの難問である。(空)
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