2025年8月
【水曜】百日咳
近頃、「百日咳(ひゃくにちぜき)」という言葉を報道などで耳にする機会が増えているのではないでしょうか。百日咳とは、その名の通り、長く続く咳を引き起こす感染症です。実際、2025年4月の全国の届け出数は2018年以降で最多となっており、流行が広がっています。
一般的ないわゆる風邪はウイルスが原因であるのに対し、百日咳は「百日咳菌」という細菌によって引き起こされます。感染者の咳やくしゃみの飛沫を通じて感染が広がり、家庭や学校、職場などで拡大します。感染後7〜10日ほどで、風邪のような軽い咳や微熱が現れますが、この時期は症状が軽いため、気付かないうちに感染が広がることがあります。
その後、けいれん性の激しい咳が生じる時期に入ります。連続して強く咳き込み、最後に「ヒューッ」という音を伴うのが特徴です。これは気道に感染した細菌が毒素を出し、気道の神経に作用するためと考えられています。夜間に咳が悪化し、睡眠を妨げたり、激しい咳で嘔吐したりすることもあります。この激しい咳は3週間以上続き、場合によっては2~3か月続くこともあります。
思春期以降の成人では症状が風邪に似ているため見過ごされがちですが、特に乳幼児では注意が必要です。免疫が十分に発達していない乳幼児は呼吸器症状が重篤化しやすく、生後数か月の乳児では咳が出ずに「息苦しそうな状態」や「無呼吸」の症状が現れることがあります。診断が遅れると、命に関わることもあります。
診断には血液検査やレントゲン検査だけで即座に判断することは困難です。咽頭ぬぐい液を用いたPCR検査が診断に有効ですが、実施できる医療機関は限られており、検査を希望する場合は事前に医療機関へ確認しましょう。
百日咳は、抗生物質による治療が可能です。早期に適切な治療を始めることで、症状の悪化や周囲への感染拡大を防げます。ただし、治療後も咳が長引くことがあり、その場合は専門的治療が必要になることがあります。
予防の基本はワクチン接種です。日本では生後3か月から四種混合ワクチンまたは五種混合ワクチンが定期接種として推奨されています。しかし、ワクチンの効果は数年で弱まるため、就学前などに追加接種を推奨する地域もあります。
長引く咳の原因となる百日咳ですが、ワクチン接種での予防や早めの診断による適切な治療で悪化が防げる病気です。咳が長引く場合は、早めに医療機関に相談しましょう。