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主張 医師の「偏在」問題 絶対数不足から目をそらすな

2017.05.25

 医師の偏在問題が厚生労働省の審議会等で議論されている。確かに地理的偏在は存在するが、その前に医師の絶対数不足を無視すべきではない。
 現在日本の人口10万人当たりの医師数は約250人、OECD30カ国の平均は約300人で、日本は絶えず下位から4〜5番目である。
 社会問題化した「医療崩壊」に対応すべく政府は2008年から医学部入学定員数の増加政策を行ってきたが、先進各国も医師数を増やしており、現在でも日本の医師数はOECD平均に対し約6万人の不足である。このままではこれからも決して日本の医師数がOECD平均に追いつくことはないだろう。
 厚労省医師需給分科会の資料は、その推計の前提・仮定に異論は少なくないが、今の医学部定員数を維持した場合、2040年には医師数が33.3万人となり、需要の中位推計29.9万人に対し約11%の医師過剰としている。
 現在、一般病院100床当たりの医師数は平均約16人なので、300床の市民病院クラスであれば約5人の「過剰」、800床の総合病院では約14人の「過剰」である。分科会のいう「過剰」とは1診療科当たり1人にも満たないものであり、現場の病院長や勤務医は決して「過剰」とは言わないだろう。3時間待ちの3分間診療は緩和されたというものの、患者も医師過剰とは感じないだろう。古くより日本の医療は、医師をはじめとする人員不足による低い診療密度が在院日数を延長させている。そして、今でも医療過疎地では必要な時に、必要な医療を享受できていない。
 医師の過不足は誰にとって何が問題なのか。政府は医師数と医療費に正の相関があるとして、医療費抑制の立場から医師過剰を問題にしている。しかし、医師数と医療費に正の相関があるとしても、それは不足している供給が需要を満たしただけであり、患者にとれば受けられなかった医療が受けられるようになったということである。また、病院で働く医師の労働環境改善にも医師の増員は必須である。
 医師の増員を含む公的医療の充実は国家の責任であり、国民生活の向上には欠かせない。さらに、国の経済にとっても決してマイナスではないことも多くの研究が明らかにしている。
 国際的な水準まで医師数を増加させることは、決して夢物語でも理想論でもない。日本以外の先進国の現実である。
 これまで政府は「医療費亡国論」にとらわれ、過大な医療費推計を用いて医療費を抑制してきた。再び過小な医療需要推計に基づいて医療費抑制を金科玉条とすべきではない。利害関係者にそれぞれの思惑はあるが、重要なのは患者と現場で働く医師の視点である。