兵庫県保険医協会

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専門部だより

女性医師・歯科医師の会

女医の会インタビュー こどもシェルター「こころんハウス」貧困・虐待から少女を守る

2018.09.25

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兵庫県立尼崎総合医療センター
毎原敏郎先生
【まいはら としろう】1986年京都大学医学部卒。京都大学医学部附属病院小児科、兵庫県立塚口病院小児科などを経て、2015年より兵庫県立尼崎総合医療センター小児科に勤務。日本小児科学会専門医、NPO法人つなご理事

 虐待や貧困等、さまざまな事情で行き場を失った10代後半の女性の避難場所となる、こどもシェルター「こころんハウス」が9月1日、昨年の開設から1周年を迎えた。運営に携わる県立尼崎総合医療センター小児科部長の毎原敏郎先生、弁護士の内海陽子先生・野田倫子先生に、現状などについて、多田梢副理事長が話を伺った。

10代後半の子どもの緊急避難先として
 多田 野田先生には、協会が開催する保険診療法制研究会にご参加いただき、ありがとうございます。今回、女の子のためのシェルターを運営されていると伺い、インタビューを企画しました。早速ですが、このシェルターはどういうものなのでしょうか。
 野田 「今晩安心して泊まれる場所がない」子どもたちが一時的に休める緊急場所として、おおむね15歳〜20歳までの女の子を対象にしているものです。阪神間にある民家で、スタッフが24時間態勢で常駐しています。
 内海 親と折り合いが悪く家出をした子や虐待にあっていた子に、まずは温かい布団で寝て、温かいご飯を食べて、ゆっくり心と体を休めてもらい、今後を考えてもらえるような場所として、昨年9月からスタートしました。
 多田 DVシェルターは知っていましたが、このようなシェルターについては初めて聞きました。
 内海 こどもシェルターは2004年、東京の「カリヨン子どもセンター」から始まり、現在、全国16〜17カ所に広がっています。兵庫県では、2014年頃から勉強会を始め、昨年ようやくスタートすることができました。この1年間で、県下全域から20名弱の子どもを受け入れています。
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神戸合同法律事務所
内海陽子弁護士
【うつみ ようこ】京都大学法学部卒・2000年弁護士登録・兵庫県弁護士会所属。兵庫県弁護士会子どもの権利委員会、兵庫県姫路子ども家庭センター児童虐待等対応専門アドバイザー、NPO法人つなご理事

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神戸花くま法律事務所
野田倫子弁護士
【のだ ともこ】関西大学法科大学院卒・2010年弁護士登録・兵庫県弁護士会所属。兵庫県弁護士会子どもの権利委員会、兵庫県中央こども家庭センター児童虐待等対応専門アドバイザー、NPO法人つなご運営委員

弁護士・医療者福祉関係者が連携
 多田 毎原先生は、理事として運営に関わっておられますね。
 毎原 尼崎では、2001年に6歳の子が児童相談所から家庭に一時帰宅した際に殺されたという事件があり、市が子どもの虐待の問題に非常に熱心で、病院や関係機関も協力しさまざまな取り組みを進めています。その一環で勉強会をするなか、私も参加することになりました。
 シェルターに来るような10代後半の子を小児科医の私が診ることはあまりありませんが、精神科や産婦人科など、医師・医療者につなぐ役割は果たせるかと思っています。シェルター近くの知り合いの開業医の先生にも声をかけ、入所者がかかりやすいよう、お願いもしています。
 多田 運営は先生方が役員をされる「NPO法人つなご」が行っているとのことですが、このNPO法人の役員には弁護士が多いですね。DVシェルターは、それほどでもなかったと思うのですが。
 内海 DVシェルターと違い、シェルターに来る子たちは未成年ですので、虐待するような親が、たとえば「子どもが誘拐された」「家出した」と親権を根拠に警察に通報するなど連れ戻そうとしたとき、私たち弁護士が法的根拠をもって親権に対峙し、子どもたちの盾になることが必要なのです。また、親御さんと子どもとの間に入って、調整する役割も担っています。
 他にも臨床心理士や大学教授、児童福祉分野で長い経験のある方など、さまざまな専門家に関わっていただき、きめこまやかに対応するようにしています。
 多田 子どもたちは、どうやってシェルターにたどりつくのですか。
 内海 児童相談所から紹介を受けることが多いですが、自分でSOSの電話をかけてくる子、インターネットで検索してくる子もいます。
 野田 10代後半の女の子が虐待を受けて家に帰れない場合、例えば、その日に寝る場所を確保するために、SNSなどを通じて男性とつながり、ホテルに行くということも起こってしまいます。それで警察に補導され保護されると少年事件として家庭裁判所に送られ、少年審判を経て次の帰住先を決めることになります。次の帰住先として、例えば自立援助ホームなどの施設に入所することもあります。ただ、それまで安心・安全な生活を送れていなかった子は、すぐには生活を立て直すことができず、また施設から逃げてしまうことも起きがちなのです。そのような場合でも、シェルターがあれば、どこにも居場所のない子に、まず、心身を休めてもらうことができます。
一人ひとりに寄りそい退所後もフォロー
 多田 子どもたちは、シェルターで、どういう生活を過ごすのですか。
 野田 常駐スタッフが一人おり、規則正しい生活を送るため、起きる時間と食事時間、消灯時間を決めているのと、安全確保のために携帯電話の使用を禁止していますが、何をしなければならないという決まりはありません。学生の子は勉強していたり、自立に向けてアルバイトしてお金を貯めているという子もいて、それぞれですね。
 多田 学校やアルバイトに通うんですか。
 野田 そうです。基本的には、行き帰りは弁護士や運営スタッフが付き添います。
 毎原 皆、自分の仕事を置いて、必ず誰かがサポートに行っていて、すごいですよ。
 多田 シェルターは一時的な避難場所ということですが、この後、子どもたちはどうなるのでしょうか。
 内海 もとの家に帰る子どもも多くいます。お互い冷静になって関係性を見直し、親子でやり直す契機としても、シェルターが役に立っていると思います。帰れない子は、どこで生活するか、それぞれの子の状況にあわせて、一緒に考えて、決めていきます。
 ただ、出て行ってからの生活も難しいのが現実です。ですから一人ひとりに担当弁護士が付き、退所後もフォローできる体制を作っています。
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聞き手 多田梢副理事長

日常診療から虐待防止につなげる
 多田 私は芦屋で開業していますが、虐待が疑われるケースを見ることがあります。例えば、いつも母親の薬を平日の昼間の学校がある時間帯に取りに来る姉妹がいました。ひどく痩せ、ケガをしていても「転んだ」としか言いません。市の児童福祉課に連絡したら介入してくれました。
 毎原 先生が連絡してくださったのが、良かったと思います。そういう場合、親の恨みを買うことを恐れて連絡をためらってしまいがちです。
 多田 市に連絡したことを知って親が怒ってきましたが「子どもでなく、あなたが薬を取りにいらっしゃい」と返しました。結局、その方は行政から仕事を紹介され、一家で北海道へ行くことになったと、あいさつに来られました。
 毎原 医院に来られるのは、何らかの親のSOSのことが多いんです。普段からその人を診ている開業医の先生は、親側に立ってサポートすることができ、役割がすごく大きいと思います。
 多田 こどもシェルターに対しても、私たち開業医師・歯科医師にできることがあればお手伝いしたいですが、何ができるでしょうか。
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こどもシェルターを知ってもらうための「SOSカード」

 野田 支援が必要な子どもにこどもシェルターのことを知ってもらうための「SOSカード」(右)を、医院に置いていただけないでしょうか。そして運営法人の賛助会員になって、ご支援いただけたら大変ありがたいですね。
 毎原 カードは診療所のトイレに置いていただくと、持って帰りやすいと思います。
 多田 確かに受付だと人目がありますものね。早速帰って医院のトイレに置きます。
 毎原 また、虐待を疑うケースがあれば、私たちの病院につないでいただいて病院が組織的に対応し、家に戻った場合は開業医の先生に継続的に診てもらうなど、連携していきたいと思っています。虫歯がない子どもが増えている中、治療していない虫歯が5本以上あったら疑うなど、歯科の先生にもアンテナをはっていただけたらと思います。
 多田 虐待と貧困は深く関連していると思いますが、保険医協会では、県下の学校に調査を行い、歯科受診が必要な子の65%が未治療の状態で、口腔崩壊の子がいる学校は35.4%であることなどが分かり、書籍『口から見える貧困』を発行しています。
 毎原 すばらしいですね。ぜひ、保険医協会でも、シェルターの存在をアピールできる機会を増やしていただければと思います。
 内海 さらに、興味を持っていただけるなら、シェルターの運営に関わっていただけると助かります。子どもの受診が必要になったとき、気軽に相談できる医師・歯科医師の方がいらっしゃったら、心強いです。
 多田 協力して一人でも多くの子どもを貧困・虐待から救っていきたいですね。本日はありがとうございました。
 ※SOSカードの注文や賛助会員など、シェルターに関するお問い合わせは、電話06-6494−2950まで。
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