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姫路市夢前町・産業廃棄物最終処分場建設計画アンケート調査報告(中間)

2014.02.08

姫路市夢前町で室蘭工業大学の丸山博教授が実施した住民アンケート結果の詳細を掲載する。 

姫路市夢前町・産業廃棄物最終処分場建設計画アンケート調査報告(中間)

国立大学法人・室蘭工業大学大学院ひと文化系領域 教授 
ウプサラ大学ヒューゴ・バレンティンセンター 客員教授
丸山 博


1.  はじめに


 清流夢前川の上流に日本最大級の産業廃棄物最終処分場建設計画(以下、産廃処分場計画と省略)があることを知ったのは、私がかかわっている小豆島の内海ダム再開発問題に関心を寄せる神戸の内科医の先生を通してであった。早速、その問題の解決に取り組んでいる「夢前町の自然を愛する会」の皆様から問題の所在についてお話を伺い、現地を案内していただいた。2012年11月のことであった。今までの経緯を簡単にまとめるとおよそ以下の通りである。
 産廃処分場計画は、夢前町58自治会のうち3つの自治会が業者と協定書を取り交わし、大多数の住民が気づいたときには許可申請の一歩手前まで行っていた。その後、自治会を横断する組織として「夢前町の自然を愛する会」がつくられ、署名活動の結果集まった10万筆の署名簿をもって市長を尋ねても、なしのつぶてである。子どもをもつ若い親らも、「子どもの未来を守る会」をつくり、奈良県や三重県の既設の産廃処分場を訪れ、採取した排水に生きた魚を放ち、その推移をビデオ撮影することによって産廃処分場の危険性を誰の目にも明らかにするなど、精力的に活動をはじめた。こうして問題が明らかになるにつれて、業者と同意書を交わした3つの自治会のうち2つがそれを取り消し、反対署名も2013年12月現在、13万筆を超えた。産廃処分場計画が持ち上がっている清流夢前川は天然記念物オオサンショウウオが多数生息し、農業用水のみならず、姫路市民3万世帯の水源でもある。それにもかかわらず、姫路市の行政どころか議会も一部の議員を除いて、この問題を放置している。
 一体、どうしてなのだろうか。産廃処分場を規定する廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下、廃掃法と省略)はこうした住民の声を無視できるものなのだろうか。そもそも自治会の同意書または反対表明は個人の意思を反映したものだったのだろうか。このようなことが明らかにされなければならない。それは地域環境研究に取り組んできた私の使命である。こうして私は姫路市夢前町で起こっている産廃処分場問題について調査研究をはじめることを決意した。
 日本の環境政策研究の先駆者である宮本憲一は1970年代の大阪空港公害裁判において以下の四つの内容からなる公共施設の公共性論を提出した(『日本社会の可能性』2000: 71-72)。①公共施設がその存立する社会の生産や生活の一般的条件を保障し、②すべての国民に平等に安易に利用されうること、③その建設・管理にあたって、周辺住民の基本的人権や自然環境・アメニティなどのコミュニティの一帯性を侵害せず、できるかぎりその福祉と環境を改善することを条件とし、④その設置・改良の可否については、住民の同意をうる民主主義的手続が保障されていること。
 宮本は、その後、環境破壊型の公共事業の転換を求め、上記の四つの内容を公共施設に限定せず、公共事業・サービスの公共性の原則とした。宮本はまた、「これまでの公害論はヒューマニズムにもとづいており、公共性の価値尺度は国民の基本的人権を中心に構成してきた。しかし、いまや地球規模の人権となり、その権利も現在の市民だけでなく、将来の世代にもおよぶ理論構成がもとめられる。さらにいえば、ヒューマニズムをこえて、生物多様性の保全になると、アマミノクロウサギ裁判のように生物の生存権も公共性の対象にいれざるをえない」(同上書 82-83)として、「今後の公共性は国民の基本的人権を軸にしながらも、維持可能な社会の保全が尺度となるであろう」(同上書 83)とのべている。産廃処分場の建設は公共事業ではないが、周辺住民の生活環境に深くかかわることから、公共事業と同じように公共性を有するものであり、したがって、その建設にあたっては周辺住民の基本的人権の保障に加えて持続可能な社会の追求が不可欠であるといえよう。
 このような文脈において、夢前町の産廃処分場計画について夢前町の全世帯を対象に2013年7月から8月にかけてアンケート調査を行った。詳細は後述するが、質問事項としては、「安定型」産廃処分場に関する問題点、予想される夢前川汚染の影響、計画予定地の地盤の不安定性、圧倒的多数の自治会の反対表明や市民の反対署名など、反対住民の主張がどれほどの住民に受け入れられているかがわかるよう設計した。その結果、夢前町の9割以上の住民が最終的に「姫路市は住民の健康と環境を最優先し、産廃最終処分場計画を許可すべきではない」との反対住民の意見を支持していることが明らかになった。

2. アンケート調査の手順と結果

2-1.手順
 2013年7月5日夢前町連合自治会長が地区連合自治会長(7地区)にアンケートの主旨説明及びアンケート用紙の各戸への配布・回収について協力をお願いした。その後各地区において地区自治会長が各自治会長に同様の依頼を行った。前之庄連合自治会の「岡自治会」と「中島自治会」の2自治会については、自治会としての配布・回収は行わないとの申し出があったため、7月末と8月初旬に返信用封筒を同封したものを各戸に配布した。回収は8月中旬から下旬にかけて行われ、入力は9月3日に完了した。全配布数5,942通、全回収数4,529通、回収率76.2%、回収したアンケートのうち、「全問空白回答」及び「多くの設問に空白回答があるもの」が219通あり、集計はこれを加えていない。集計されたアンケートは、4,529-219=4,310通を対象にしている。なお、自由意見は記入されているもの全てを入力した。

2-2.結果
 設問1は夢前町の産業廃棄物最終処分場計画についての認識を問うものである。「知っている」が94.1%に達するが、時期としては2年前以降が7割以上を占めている。その計画について「詳しい説明を受けた」はわずかに3割程度に過ぎず、7割近くが受けていない。しかも、その説明は9割近くが自治会あるいは反対の団体からだというのである。上記のことから夢前町の産業廃棄物最終処分場計画について産廃業者はもとより、行政も住民に対してほとんど情報提供すらしていないことは明らかである。
 設問2は産業廃棄物に関する一般的な知識である。産業廃棄物処理場の建設・運営の許認可権が行政にあることに対し、「知っている」「知らなかった」が拮抗している。設問3,4、5は安定型処分場に関する一般的知識を問うものであるが、いずれも「知らなかった」が6割から7割以上となっている。設問6では、安定型処分場で深刻な汚染が全国各地で起こっていることに対し「不安に思う」が98%以上に達し、設問7では、2007年日本弁護士連合会が安定型処分場の新規建設を許可しないことを求める意見書を国に提出していることについて「尊重すべき」が93%を超えており、問題関心の高さが伺われる。
 設問8、9は産業廃棄物処分場を夢前川流域の問題として問うものである。夢前川流域に4つの浄水場があり、姫路市民3万世帯の水道水源になっていることについては「知っている」が「知らなかった」をわずかに上回っているものの、知らない人が多いという印象を受ける。産廃による水汚染を懸念する医師・歯科医師らによる姫路市長や兵庫県知事への意見書を「尊重すべきだ」は97%にも達し、問題が深刻に受け止められている。
 設問10,11は夢前町に計画されている産業廃棄物処分場が水の汚染のみならず、立地の安全性あるいは特別天然記念物にも関係することを問うものである。設問10では、国土問題研究会が断層の存在から計画地が産業廃棄物処分場としては不適切な場所であると断言したことに対し、「尊重すべきだ」が94%を超えており、特別天然記念物オオサンショウウオの存在に対しても「配慮すべきだ」が94%を超え、圧倒的多数が反対派住民の意見に賛同している。
 設問12は産廃処分場計画への住民や市民の反対表明を「尊重すべきだ」が97%にも上り、したがって、設問13の県と市の対応については9割を超える人々が「住民の健康と環境を最優先し、受け取るべきではない」と訴えるのである。
 主な自由意見
1) 私たちが選んだ政治家が私たちの知らないところで話が進んでいることに憤りを感じます。建築業を営んでいますが、一部の業者、市町村の役人がやっていることと言っていることが違うのもこの仕事をしているとよく見えます。とても歯がゆいです。頑張ってください。
2) 私は80歳を過ぎていますが、美しい自然は壊され、水も空気も汚染した中で子どもたちが過ごすのは体も心も痛めてしまいます。私は死んでも死に切れません。
3) 冬は寒いところですが、春にはウグイス、キジ、フクロウ、カジカと野鳥がいっぱいです。「夢前川とホタルを守ろう」をスローガンに汚水処理場をつくり、多額の工事負担を各町民がしました。そこに処分場ができれば自然が台無しです。絶対に要りません。
4) 最近に人から聞いた話では法律上では姫路市と兵庫県は住民の賛成は必要ないとの原則に従い、法律に沿って認めていく方向で、その立場を鮮明にされております。ところが住民には県・市サイドからの事業説明は一切ありません。しかしすでに中国道の夢前インターからの南へ出ていく道も工事が進んでおり、大変おかしいこととなっております。何かずれていると思います。
5) もし処分場の設置が決まったら、この地を去ることを考えている。こんなアンケートを早く実施してほしかった。
6) 反対の幟があがりエー!そんなん、どこなの?といった感じでした。何年も前から個人的(土地所有者)に話があったことを後から聞きました。大規模なことを個人との交渉から始めるのは絶対におかしいと思う。個人はとても弱いものですから。
7) 住民側が産廃の規模、内容をまったく知らされないまま、市や自治体(会?)の上役の判断により計画が進められたことが腹立たしくてなりません。観光旅館や小学校、高校の目の前に最大級のごみ山ができてしまいます。何とか、中止となるよう、お願いいたします。
8) 大変なことになっています。私は「みどり丘」に住んでいますが、自治会長は住民に一言の説明もなく、印を押していたことを昨年知りました。あわてて反対署名を回覧しました。処理場は姫路市と合併する前は夢前町の中心地にあり、どうしてこのようなことになったのか理解できません。先日サンショウウオが見つかり、改めて壊してはいけない自然いっぱいの場所を守りたい気持ちでいっぱいです。この度はこのようなアンケートをしていただき、本当にありがとうございました。多くの住民は声をあげる場所が少ないまま、早く何とか中止してほしい、できることならマスコミにも取り上げてほしいと願っています。

3.考察


① 本質論
 先述のように、産廃処分場が公共性を有する以上、その建設にあたっては事業者および許認可権に係る行政には基本的人権の保障と持続可能な社会の追求が求められる。アンケート調査によって、周辺住民が自らの生活環境に直接影響を及ぼすと考えられる産廃処分場計画そのものを業者はもとより姫路市からも知らされず、その後、それに気づいた夢前町のほとんどすべての自治会の反対表明が個人の意思を反映したものであるということが明らかになった。したがって、姫路市の行政のみならず市議会が産廃処分場周辺の自治会の決定によって示された圧倒的多くの最終処分場建設計画反対表明に対応する何らかの措置、たとえば、水源地保護条例を制定することによって産廃処分場建設地を限定することをしないかぎり、行政も議会も夢前町の住民の基本的人権を保障するという、重大な使命を放棄しているといえる。日本国憲法は、すべての国民に個人の生命、自由及び幸福を追求する権利(第13条)や健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(第25条)を与えており、それは同時に国のみならず、あらゆる行政や議会などが国民の基本的人権を保障する義務を負っていることを意味するからである。
 なお、国際社会は、たとえば、いわゆるAarhus Convention (Convention on Access to Information, Public Participation in Decision-making and Access to Justice in Environmental Matters)に見られるように、市民の環境情報へのアクセスの権利、生活環境に影響を与える可能性のある開発の準備段階に市民が参加する権利などを保障するとともに、国、県、市町村のすべての行政に対してはそうした市民の要望を最大限尊重する措置をとるよう求めるまでに至っている。日本は残念ながら上記の国際環境条約を締結していないため、それによる法的拘束力を受けないとはいえ、国際社会は自由権、社会権に次ぐ第3の人権といわれる環境や開発への権利の保障を追求しているのである。日本が国際社会の一員であり、日本国憲法の前文に謳ったように「国際社会において名誉ある地位を占めたい」とするならば、国際環境法や国際人権法を積極的に批准・締結し、それらを踏まえて国内法の整備に努めなければならないといえよう。また、県や市町村についても、こうした国際社会の動向を踏まえて、産廃処分場計画の許可については、生活環境の保全に関する周辺住民の意見を最大限尊重するために、現行の廃掃法を超えた措置をとることが求められる。それは具体的には環境政策の基本原理である予防原則に基づく「姫路市生活環境保全条例」を制定することなどが考えられる。
 また、持続可能な社会の追求とは核エネルギーや化石燃料から再生可能なエネルギーへの転換やゼロエミッション社会の追求を意味する。産廃に即していえば、産廃が出ることを前提として最終処分場を次々と建設するのではなく、最終処分場が限られていること自体を前提にして企業に産廃の大幅な削減を迫っていくことが必要になるだろう。すなわち、持続可能な社会の追求には、行政が産廃処分場建設計画の許可を厳しくし、将来世代のために主導的役割を果たすことが期待されるのである。

② 現実論
 廃棄物行政は主として廃掃法に基づいて行われている。しかし、廃掃法は「廃棄物の適正な分別、保管、収集、運搬、再生、処分等の処理をし、並びに生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を目的とする」(第一条)とあるように、廃棄物の処理と清掃を目的とするものであるから、廃棄物処理施設そのものが環境汚染を引き起こすことを想定してはいない。その結果、全国各地の産業廃棄物処理施設周辺において環境汚染が頻発しているともいえる。また、廃掃法は、産廃業者から産廃処分場建設の申請があってはじめて行政側がそれに対応する仕組みになっており、事前に住民に情報を提供したり、住民の反対があったからといって許可申請そのものを止めたりするようにはなっていない。では、こうした欠陥が廃掃法にある限り、行政は産廃処分場建設計画に手をこまねいているだけなのだろうか。
 廃掃法第15条第5項によれば、「都道府県の知事は、前項の規定による告示をしたときは、遅滞なく、その旨を当該産業廃棄物処理施設の設置に関し生活環境の保全上関係がある市町村の長に通知し、期間を指定して当該市町村長の生活環境の保全上の見地からの意見を聴かなければならない」とある。このことは市町村が住民の生活環境を保全する義務を負っていることを意味しており、市町村長は個人としての意見ではなく、産業廃棄物処理施設による生活環境への影響を受ける計画予定地の周辺住民の意見を代表するものとなる。なお、生活環境は単なる自然環境ではなく、周辺住民の生活にかかわる環境であるから、生活の主体である周辺住民の意見が尊重されるものでなければならないのである。また、第6項では、「第四項の規定による告示があったときは、当該産業廃棄物処理施設の設置に関し利害関係を有する者は、同項の縦覧期間満了の日の翌日から起算して二週間を経過する日までに、当該都道府県知事に生活環境の保全上の見地からの意見書を提出することができる」と記されていることから、生活環境の保全に関しては周辺住民の意見が尊重されるとみるのが妥当と思われる。したがって、姫路市の行政および議会は、産廃処分場建設の計画が明らかになり、それに対する周辺住民の圧倒的多数が反対を表明し、それがアンケート調査によって証明された以上、少なくとも周辺住民の反対意見を真摯に受け止める意思を表明する必要があるといえよう。
 同法第15条の二は「都道府県知事は、前条第一項の許可の申請が次号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない」としており、二号では「その産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画が当該産業廃棄物処理施設に係る周辺地域の生活環境の保全及び環境省令で定める周辺の施設について適正な配慮がなされたものであること」とある。これによって、産業廃棄物処理施設の許認可権を有する都道府県知事においても周辺地域の「生活環境の保全」の保障が義務付けられると考えられる。また、第15条の二 3が「都道府県知事は、前条第一項の許可をする場合においては、あらかじめ、第一項第二号に掲げる事項について、生活環境の保全に関し環境省令で定める事項について専門的知識を有する者の意見を聴かなければならない」としていることは、生活環境に関する専門家の意見が尊重される根拠となりうる。夢前町の産廃処分場計画についてはすでに弁護士、国土問題研究会の研究者、医師・歯科医師らから「進めるべきではない」との意見が出されており、それらは尊重されなければならないということになろう。さらに、4では「前条第一項の許可には生活環境の保全上必要な条件を付することができる」とまで規定されており、許認可権を有する都道府県知事に対しては生活環境への慎重な配慮が求められているといってよい。一例として、生活環境の保全上必要な条件に「周辺住民の同意」を付記することを都道府県議会で決議し、知事の許認可権を民主的に規制することが考えられる。なお、姫路市のような中核都市では姫路市自体が産廃処分場の許認可権を有するとともに、他の市町村のように住民の生活環境を保全する義務も負うのであるから、産廃処分場の許可についてはとりわけ慎重に周辺住民の意見をくみ取ることが求められよう。それはとりもなおさず、姫路市が産廃処分場の許可に際し、上記の生活環境保全上必要な条件として「周辺住民の同意」を付する必要があるといえる。


2013年12月22日

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