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政策解説 新高齢者医療制度 仕組み変わらず負担増

2011.02.05

 政府の高齢者医療制度改革会議は昨年12月20日、75歳以上の高齢者を差別して別勘定で運営するという、現行制度の仕組みを残した「新制度」の「最終とりまとめ」を発表した。「新制度」の概要と問題点を解説する。

現行制度の仕組み温存


 民主党は09年の衆議院選挙で「後期高齢者医療制度は廃止」を公約していた。マニフェストの医療政策(詳細版)では後期高齢者医療制度について「国民を年齢で差別し、高齢者率が上昇するほど75歳以上の保険料負担が増える仕組み」と批判し「制度を廃止」すると明確に述べていた。
 しかし、「最終とりまとめ」では、「新制度」は75歳以上の高齢者を差別し別勘定にするもので、後期高齢者医療制度の仕組みを温存するものとなっている。
 2013年度創設をめざす「新制度」の第1段階では、75歳以上の高齢者のうち、サラリーマンや扶養家族は健保組合や協会けんぽなどの被用者保険に、残りの大多数(86%)は国民健康保険(国保)に入れるとしている。
 しかし、75歳以上が加入する国保は都道府県が財政運営するもので、現役世代と別勘定にし、75歳以上の医療給付費(窓口負担額を除いた医療費)の「1割相当」を加入者の保険料で賄うとしている。そのため、高齢者の割合が増え、医療費が増えるにつれて保険料が値上がりする。
 つまり、「新制度」の基本的な枠組みは、現行の後期高齢者医療制度とまったく変わらない。装いは変わっても、中身は現行制度の根幹を温存しており、高齢者医療制度改革会議でも「単なる看板の掛け替えにすぎない」と批判が出ている。全国老人クラブ連合会の見坊和雄相談役も、「高齢者を別勘定にすることに反対」と発言している。

国庫負担は削減

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 一方で、国の負担は、現行制度を続けるよりも軽くなる。国の負担減は被用者保険の負担増で賄われるため、現役世代の保険料も1・4倍~1・5倍に増える(図1)。
 こうした「新制度」に対し、国保の財政運営を担うとされる都道府県からも反対の声が上がっている。
 全国知事会は「拙速に新制度に移行する必要性はない」との声明を発表している。また、神田真秋・愛知県知事も「新制度」への反対を表明し、安定した保険財政のためには「国費の拡充が不可欠」だが、「国は現在と同程度の財政責任から一歩も踏み出していない」と批判している。

負担軽減措置廃止・縮小


 「新制度」では新たな負担増も盛り込まれている。
 現行制度では70歳から74歳の窓口負担は原則1割となっている。しかし、新制度では、2013年3月に70歳になる人から2割に倍増させようとしており、これによる国庫負担削減額は、2900億円(2020年度)に及ぶ。これは、国民の強い批判を受け自公政権時でもできなかったことを実施するものだ。
 現行制度では、75歳以上の保険料は、全員共通の「均等割」と、所得に応じた「所得割」の合計である。このうち、「均等割」は世帯の所得に応じ、7割・5割・2割が軽減される仕組みだが、国民の批判を受け、自公政権は暫定的に、9割と8・5割軽減を追加した。また、「所得割」についても、年金収入153万円から211万円の層に対して5割を軽減している。
 「新制度」では、この追加的軽減措置を段階的に縮小するとしている(図2)。縮小が行われれば、たとえば年金収入80万円以下の人は均等割の9割軽減措置がなくなって、7割軽減となり、負担額は3倍になる(図3)。

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広域化では財政改善しない


 「最終とりまとめ」では「第2段階」として、75歳未満の市町村国保の財政運営も都道府県単位化(広域化)するとしている。時期は2018年度と法案に目標を明記し、全国一律に移行する方針を掲げている。
 厚生労働省はその理由として「小規模な市町村の国保は、保険財政が不安定になりやすく、運営の広域化を図ることが長年の課題」と指摘している。
 しかし、国保財政の実態は、広域化すれば解決するなどというものではない。
 国保財政が困難な理由は、第1に国庫負担が大幅に削減されているからだ。
 国庫負担は1980年には収入の5割以上を占めていたが、2008年では25%まで削減されている。これが国保財政を苦しめている最大の元凶である(図4)。

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 財政難の第2の原因は、加入者の低所得化が進んでいることである。
 07年度の国保加入者「所得階級別世帯数」によれば、「所得なし」が27%、「100万円未満」が23%で、半数が「100万円未満」となっている。
 財政難の度合は、小規模国保よりも、むしろ政令指定都市など大規模国保の方が大きく、国保財政全体を深刻にしているのが実態である。
 こうした国保の困難を少しでも軽減するために、各自治体は一般会計から法定外の繰り入れを行っている。しかし「最終取りまとめ」では、この繰り入れを「保険料引き上げ、収納率向上、医療費適正化など」で「段階的かつ計画的に解消していく」としている。
 自治体による一般会計からの国保への繰り入れがなくなれば、保険料高騰を招き、ただでさえ危機的な国保財政を破綻させることは明らかだ。

高すぎる国保料さらに引き上げ


 さらに、政府は国保の保険料の計算方式を全国的に一本化する方針だ。2013年度からの実施をめざしている。
 市町村ごとに運営される国保保険料の所得割額の計算には、主に「住民税方式」と「旧ただし書き方式」があるが、政府は扶養控除などの各種控除が適用されない「旧ただし書き方式」に統一することを打ち出した。そのため、控除を受けている低・中所得世帯や障害者、家族人数の多い世帯の負担が重くなる。住民税非課税であっても、所得割を課される世帯が出ることになる。
 さらに政府は、自治体が低所得者向けに独自の保険料軽減措置を実施する場合、その財源を国保財政で賄えるようにする方針も示している。
 現行の国保法施行令では、市町村が独自の保険料軽減措置を行う場合、一般会計から繰り入れる必要がある。しかし、政府の方針は、これを国保財政で賄うよう求めるもので、市町村が低所得者などの負担を軽減しようと思えば、その分を全体の国保料に上乗せするということになり、さらなる国保保険料の高騰を進めることになる。

後期高齢廃止し老健制度改善を


 協会・保団連は、後期高齢者医療制度を廃止して老人保健法に戻すことを求めている。しかし、単純に後期高齢制度前に戻すだけではなく、老人保健法の改善が必要である。

(1)65歳以上に対象拡大を

 第1の問題は、対象者の拡大だ。
 後期高齢制度は、75歳以上だけでなく、65歳以上を前期高齢者として財政調整する仕組みを設けている。
 老人保健法は75歳以上だけを対象にしており、65歳以上74歳以下は、対象になっていない。このまま老健法に戻せば、前期高齢者にかかる医療費負担が国民健康保険にすべて負わされることになる。
 もともと老健法は、70歳以上でスタートしたが、財界の要請で75歳以上に引き上げられた経緯がある。これを65歳以上に拡大し、老齢年金支給の対象時期と重ね一貫した社会保障制度とすることが合理的である。

(2)国庫負担改善で良い老健制度に

 第2は、財源問題である。後期高齢制度の2008年度医療費総額は11兆3800億円。うち国庫負担は、わずか3兆2500億円で、負担率は3割を切る低水準だ。国庫負担率をこのままに、どのような新制度に移行しても、単に見かけを変えるにすぎない。
 老健法に戻すとともに、国庫負担率の抜本的な改善を行わなければならない。そうすれば全国の自治体負担は大幅に軽減でき、また社会保険からの拠出金も一定程度に抑えることが可能になる。
 高齢者の保険料負担については、国保保険料が基本になるが、現行の保険料よりも低額にすべきだ。そのためには、後期高齢制度で勝ち取った減額措置を国の責任で拡充することが必要である。
 老人保健制度は、後期高齢制度と違い、基本的に加入者を年齢で差別する構造ではないため、改善すれば良い制度になりうる。
 われわれが求めているのは、国庫負担増を伴う新しい老人保健制度である。
 

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