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理事会特別討論 詳報「TPP問題」 国民生活の根幹を破壊 加藤 擁一 副理事長・政策部長

2011.04.25

協会が3月12日に開催した理事会特別討論「TPP参加が医療に与える問題」(報告は加藤擁一副理事長・政策部長)を詳報する。

例外なく関税を撤廃
 昨年10月1日の施政方針演説で菅首相は突然、「平成の開国」「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉等への参加を検討し、アジア太平洋自由貿易圏の構築を目指します」と述べた。多くの国民が寝耳に水であった。
 TPPとは、例外品目なく関税を撤廃する協定。当然、日本では第1次産業がターゲットになってくる。
 しかし、TPPの問題はそれだけでなく、サービスや人の移動に関する各国の規制(非関税障壁)についても自由化を行うという点である。医療に関する規制も非関税障壁とされ、規制緩和の対象となるだろう。
 TPPの歴史を振り返ってみる。もともとは2006年にシンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリで発足。それぞれ、経済規模の小さな国同士の協定だったが、10年にアメリカが参加を表明し、その後、オーストラリア、マレーシア、ベトナム、ペルーも参加を表明、現在9カ国で交渉が行われている。
 アメリカは参加表明をして以来、日本に執拗にTPP参加を促している。民主党政権は、政権発足当初はASEAN(東南アジア諸国連合)に日本、中国、韓国を加えたASEAN+3の枠組みを重視する姿勢を見せていたが、いつの間にかアメリカの要求に応じてTPP参加を検討し出した。

日本の市場開放狙うアメリカ
 現在交渉に参加している9カ国と日本が、実際にTPPに参加するとなれば、参加国のGDP総計に占める各国の割合はアメリカが67%、日本が24%。つまり、TPPは日本とアメリカの参加によって、事実上の日米間の自由貿易協定となってしまう。
 菅首相は「TPPに参加しなければアジアの繁栄から取り残される」と言うが、これは間違いだ。実際、日本はアメリカ以外の国とは、FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)を結んでいるか、結ぼうとしている。つまり、アメリカの狙いはTPPという枠組みを利用して、日本の市場開放に拍車をかけることなのである。
 アメリカは今年2月24日の大統領経済報告で「TPPを通じアジア諸国の貿易障壁削減と市場開放を目指す」と述べ、日本についても「規制など非関税障壁を含む制限の度合いが高い」としている。
 これまでも、アメリカは日本に対して年次改革要望書を突きつけ、規制緩和をさせてきたが、TPPで対日要求はさらに激しさを増すと考えられる。実際、米通商代表部の「2010年衛生・食物検疫措置に関する報告書」では、「大腸菌のある冷凍フライドポテトも輸入せよ」「食品添加物表示をなくせ」などと日本への要求を強めている。さらに、TPPに参加するには、アメリカ議会の承認が必要となるので、アメリカの要求は当然厳しいものになるだろう。

財界が旗振り役
 TPP参加を狙っているのはアメリカだけではない。日本での旗振り役は財界だ。大企業は、TPP参加によって輸入関税なしに原材料を安く調達し、安い労働力で加工を行い、関税を上乗せすることなく多くの製品を輸出・販売し、利益を最大化するのが狙いだ。
 しかし、産業界にも、TPP参加が本当に企業にとって利益になるのかという声もある。つまり、日本の産業の空洞化が進むことを危惧する声が上がっているのだ。
 また、各国の関税が撤廃されることで、輸出大企業は輸出増加による利益増を期待するが、すでに、アメリカの工業製品に対する関税は自動車で2.5%、カラーテレビ、集積回路、携帯電話などは0%と非常に低く、TPPの効果はそれほどないとの見方も強い。

農業は壊滅
 菅首相は「第3の開国が必要だ」などと言っているが、日本の関税率は3.3%。全品目でアメリカの3.9%、EUの4.4%、韓国の8.9%よりもすでに低い(図)。
  前原前外務大臣はTPP参加について「1.5%を守るために98.5%が犠牲になってもいいのか」と発言した。これは、GDPの1.5%でしかない第1次産業を守るために、その他の産業を犠牲にしてはいけないということだ。
 しかし、GDPに占める第1次産業の割合はアメリカで1.1%、イギリスで0.8%、ドイツも0.8%しかないが、それでも、農業生産高に占める政府の財政支援は、アメリカで65%、イギリス42%、ドイツ62%と、日本の27%に比べて手厚い保護を行っている。世界の先進工業国では、第1次産業のGDPに占める割合がたとえ低くても、きちんと保護している。
 加えて、農業を中心とする第1次産業には、GDPに占める割合では現れない優れた価値がある。日本学術会議や三菱総合研究所によれば、農業の治水効果は8兆円、林業をはじめとする森林保全による水資源貯留や二酸化炭素吸収効果は70兆円、漁業の生態系保全や海の富栄養化の防止、栄養の再資源化効果は11兆円と評価されており、間接的にはGDPの15%を占める価値がある。
 また、農林水産省の試算によれば、TPP参加で日本の自給率は現在の40%から13%に低下し、それぞれ農業は4兆1千億円、林業は5百億円、水産業は4千2百億円の生産額が減少すると言われている。
 こうした日本の食料自給率については、世論調査でも、(食料は)「外国産より高くてもできる限り国内でつくる」と答えた人が53.1%、「外国産より高くても、米などの基本食料は国内でつくる」と答えた人が37.2%で、「外国産の方が安い食料は輸入する方がよい」と答えた人はわずか5.4%しかなかった。国民も、日本の農業を保護し、食料自給率を高めるべきだと考えているのだ。

医療への影響
 医療分野に関してもTPPでさまざまな問題が危惧されている。
 日本医師会は「TPPへの参加によって、日本の医療に市場原理主義が持ち込まれ、最終的には国民皆保険の崩壊につながりかねない面もあると懸念される」との見解を発表している。では、TPP参加で日本の医療はどうなるのだろうか。
 TPPを推進する菅内閣は昨年11月に「包括的経済連携に関する基本方針」を閣議決定し、「抜本的な国内改革を先行的に推進する」「看護師・介護福祉士等の海外からの人の移動…検討する」「海外の優れた経営資源を取り込む」と述べている。
 実際、政府は24の作業部会を立ち上げるとともに、行政刷新会議の規制・制度改革に関する分科会などでも、TPP参加を見越して規制緩和を「先行的に」行おうとしている。

混合診療の解禁
 行政刷新会議の規制・制度改革に関する分科会の「中間とりまとめ案」では、「国民皆保険制度はこれを堅持しなければならないが、医療においては技術の進歩が国民医療費の増加要因になるとの特性を踏まえ、超高齢社会を迎えるにあたり、予防医療も含めて真に国民に必要な医療を整理し、公的保険の適用範囲を再定義することが必要」とされ、医療費抑制のために、公的保険を縮小するとの方針が示されている。また「保険外併用療養の一部を届出制にすべき」との議論がされている。
 これは新成長戦略で「必要な患者に対し世界標準の国内未承認又は適応外の医薬品・医療機器を保険外併用にて提供する」としたことの具体化で、混合診療を容認する方針である。
 国内外の医療保険会社にとって、混合診療が認められれば、私的医療市場の拡大にともないビジネスチャンスが広がる。これを狙っているのが、日米の民間保険会社だ。
 韓国では、TPPの2カ国版であるFTAを米国との間で締結したが、「Non-Violation Complaint」といわれる条項があり、米国企業が期待した利益を得られなかった場合、韓国がFTAに違反していなくても、米国政府が米国企業の代わりに、国際機関に対して韓国を提訴できるとされている。韓国の専門家の間からは、「例えば米の民間医療保険会社が『韓国の公共制度である国民医療保険のせいで営業がうまくいかない』として、米国政府に対し韓国を提訴するよう求める可能性がある」との懸念が示されている。
 日本でもTPPに参加することになれば、保険会社などの意向を受けたアメリカなどからの圧力はさらに強まり、医療費抑制を狙う政府もそれを利用して、混合診療解禁に踏み切ることは想像に難くない。

株式会社による医療機関運営
 混合診療が解禁された場合、自由診療市場は営利企業にとって非常に魅力的なものになる。TPPでは「投資」の自由化も求められるため、医療市場にも海外資本の参入が予想される。すでに、大阪市中心部に、シンガポールの大手医療機関チェーンが進出する計画を持っているという。
 1月の行政刷新会議の規制・制度改革に関する分科会では「医療法人の再生支援・合併における諸規制の見直し」として、「持分のある医療法人」について、条件付きで、営利法人の役職員が医療法人の役員として参画することや、譲受法人への剰余金配当等を認めることが確認された。
 いまだ営利法人による医療機関運営は認められていないが、条件付きでの配当や営利法人から医療法人への役員派遣などは、最終的に営利企業による医療機関運営に道を開くものだ。

医師や看護師の国際的移動
 TPPでは、「人の移動」も求められる。すでに日本とフィリピン、インドネシア間で締結したEPAでは、看護師、介護士の一部受け入れが進められているが、TPPでは医師も対象となってくる可能性がある。実際にEPAを締結したインドからは、日本政府へ「医師、歯科医師などの資格相互承認」が要望されている。
 もし、TPP参加諸国との間で医師免許のクロスライセンスが認められれば、日本の医師の海外流出が起こる可能性がある。
 イギリスでは、英連邦諸国やEU内でのクロスライセンスが認められているため、医療費抑制を図ったサッチャー政権以来2000年までの間、医師が労働環境の悪さからカナダやオーストラリアに流出したと言われている。
 日本でも、国際的に見て低い報酬や過労死水準を超えているといわれる劣悪な労働環境を考えれば、医師の海外流出が起こることは十分に考えられる。
 一方、日本より賃金水準の低いアジア各国からは医師が流入することになると思われる。しかし、各国の医学教育の内容には違いがあり、日本の医療水準が維持できるのかどうか不透明である。

内需拡大と社会保障充実を
 このようにTPPは、アメリカと日本の一部の大企業の利益と引き換えに、日本の農業や医療制度など国民生活の根幹にかかわる部分を破壊してしまう。
 今、必要なのは、国境を越えた営利追求ではなく、各国が内需を高めることで、国民のための市場をつくることであり、大企業の応分の負担を財源とした、公的医療保険制度をはじめとする社会保障の充実である。

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