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解説「2011年医療経済実態調査」医科診療所の損益差額▲28% 厳しい医療機関経営続く

2011.12.15

 厚労省は11月2日に「医療経済実態調査」を公表した。マスコミ各紙は「開業医収入が大幅増」と報道するが−−。協会政策部では、調査方法の問題点や結果から見える医療機関経営の実態について検証を行った。

定点調査加わるも依然少ない調査数
 これまで医療経済実態調査について、保団連・日医をはじめ多くの医療団体が、定点調査(=対象医療機関が同じ)ではないこと、単月調査(=6月分のみ)であること、対象数が少ないことなどから、診療報酬改定の基礎資料としての適切さを疑問視してきた。
 その結果、前回の第17回調査(2009年)から年間(決算)データが新たに加わった。また、今回の第18回調査では、病院、一般診療所の抽出率が引き上げられ、診療報酬改定の前後2事業年度分(09,10年度分)の決算データ調査が加わった。
 しかし、現時点で年間データは08年度から10年度までの3年分しかなく、さらに、定点で比較できるのは今回調査の09,10年度分だけであり、これまでの問題点は解決されていない。
 調査対象は、一般診療所では抽出数が1540件となっている。現在の一般診療所総数は9万9991施設で、この母数の場合の統計上一般的に信頼できるとされる抽出数は382・6件なので、全体としては信頼できる調査だと言うこともできる。
 しかし、医療機関の収支構造は診療科などにより大きく異なるので、本来であれば標榜科別に層化して抽出する必要がある。今回の調査では「地域別等に層化」のみで、不十分である。
 例えば、全国の小児科を標榜する診療所は2万2千503施設あるにもかかわらず、今回の調査では83施設、0・37%の回答しかない。これでは、小児科を標榜する診療所の収支動向を正確に把握することができない。
 今回の医療経済実態調査は、これまでに比べて調査方法に改善があったとは言え、病院の規模や診療科目に応じて収支などを集計した機能別集計などは、サンプル数の少なさからとても診療報酬改定の基礎資料とすることはできない。全体としても、損益差額の最頻値の非公開、サンプルの非定点性から、医療経営の実態が明らかになっているとは言いがたい。
 以上を踏まえた上で、全体の傾向を把握したい。

   医科診療所


  
コスト削減で収入減補う

 単月調査の推移を見ると、外来収入は05年調査から09年調査までは増加したものの今回調査では減少している。一方、費用は05年以来大幅に増加しており、減少する外来収入と増加する費用により損益差額は大幅に減少している(図1・2)。05年調査と09年調査の損益差額を比較すると、実に28.1%の減少だ。
 今回の年間データの定点調査によると、個人立医科一般診療所(入院収益なし)では、10年度の損益差額(税引き前)は2266万8千円と、09年度の2181万9千円に比べて84万9千円増えている。
 保険診療収益は7223万1千円だったものが7205万3千円となり、収入自体はマイナス0.2%の減少となっている。にもかかわらず損益差額が増加したのは、5768万6千円から5746万9千円に削減された医療・介護費用(コスト)によるところが大きい。

   歯科診療所
  


厳しい経営状況続く
 単月調査の01〜11年の推移を見ると、保険診療収益の伸びを費用の伸びが大きく超えていることが損益差額の大幅減少につながっており、厳しい現状に変わりはない(図3・4)
 今回の年間データの定点調査によると、個人立歯科一般診療所の10年度の損益差額(税引き前)は1113万1千円と、09年度の1099万3千円に比べて13万8千円増えている。
 これは、保険診療収益が3536万円から3559万9千円と0・68%増加したことに加え、医業・介護費用を2950万3千円から2958万5千円へと0・28%の増加に抑えて生み出されたものである。

   病   院
  


マイナス収支は変わらず
 病院について、年間データによる09年度と10年度の比較では、一般病院全体で損益差額はマイナス7686万1千円からマイナス354万1千円に改善しているが、マイナス状況自身は改善されていない。
 また、以前から行われていた一般病院の単月調査の01〜11年の推移を見ると、09年調査では軒並みマイナスとなっていた損益状況が今回調査では改善し、300〜499床規模の病院以外ではプラスとなった。また、国公立を除く一般病院の推移では、すべての規模の病院でプラスとなっている。
 入院診療収益を病床規模別に見てみると、05年度比では、20〜49床、500床以上の病院が20%以上の増加となっているが、10年度改定を踏まえ、09年度調査と11年度調査を比較すると、200床以上の病院で伸び率が大きく、診療所の外来収入の変化と合わせて考えれば、診療所から急性期医療を担う大規模病院に改定財源を配分した結果が現れていると言える。

「開業医月収が大幅増」本当か
 今回の医療経済実態調査結果を受けて、医療団体や保険者団体などから様々な見解が出されている。
 マスコミでも各紙がセンセーショナルな取り上げ方をしている。例えば朝日新聞は時事通信社の配信記事を掲載し、「今年6月時点の医師の平均月収は開業医(個人経営の診療所)が231万6千500円で、国立病院の勤務医102万9千500円に対し、約2・3倍の格差があった。2010年度の年収ベース(ボーナスを除く)でも、開業医の2753万7千300円に対し、国立病院勤務医は1206万5千900円にとどまり、大きな開きがあった」と報じた。
 日本経済新聞は、「...開業医の月収が大幅に増えている実態が明らかになった。病院の収支も大幅に改善した。調査によると、今年6月の月収は2年前と比べて開業医で9.9%、民間病院の勤務医で4.9%増えた。開業医の月収は231万円で勤務医の約1・7倍に上る。デフレで会社員や公務員の給与が下がり続けるなか、医師だけは例外の状況だ」と報じた。
 ここでマスコミが指摘する「開業医」とは、調査の中の「一般診療所・医療法人」の院長給与月額であり、2011年現在の診療所の法人化率は39.2%にすぎない。
 全国の診療所のうち、法人化した比較的規模の大きな診療所の「院長給与」を取り出して「開業医の月収」だとすれば、上層のデータに偏るのは当然である。
 しかも、医療法人の院長給与も、法人設立時の借入金は院長(=開設者)名義になっていることも多く、借入金の返済は院長給与から行っている。
 こうした点から、医療法人の院長給与と病院勤務医の給与を比較するのは無理があると言える。そもそも、医療法人の院長であっても実態は個人事業主であり、勤務医と比較することは不可能である。
 日経新聞はまた、「実態調査は報酬引き下げが妥当と読める結果」と報じているが、これまで見てきたように、個人立の医科診療所や歯科診療所の損益差額は5年来減少傾向であるし、病院収支も年間決算データでは未だにマイナスを脱していないことから、妥当性に欠ける報道である。

地域医療の改善には診療報酬アップ必要
 10年診療報酬改定は「10年ぶりのプラス改定」と公称された。しかし、医科診療所では、年間データによる定点調査でも6月単月調査でも保険診療収益が減少している。歯科診療所でも、両方の調査で保険診療収益は微増しているものの、単月調査では損益差額が大幅に減少している。
 10年診療報酬改定は、医科・歯科ともに、10年来のマイナス分を取り戻すどころか、とても「プラス改定」とは言えない実態が明らかになっている。
 来年の診療報酬改定で政府・民主党は、09年総選挙のマニフェスト通り、国民医療費を他の先進国並みに引き上げるため、診療報酬の大幅改善を行うべきである。

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