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[宮城協会と「医療特区と東北メディカル・メガバンク」懇談会] 報告 2 震災復興を口実とした規制緩和 ―神戸医療産業都市構想の危険性 兵庫県保険医協会 副理事長 武村 義人先生

2012.10.05

 神戸で進められている医療産業都市構想は、政府の「特区」制度などを利用し医療分野での規制緩和を進め、人工島・ポートアイランドに医療機関や研究機関、医療産業を集約する構想だ。もともと阪神・淡路大震災の復興事業として神戸市によって計画された。
 当時、神戸市震災復興本部総括局の三木孝氏は「阪神・淡路大震災で甚大な被害を受け、神戸市の経済活動はきわめて厳しい状況にあり...企業誘致などを通じた本格的経済復興が神戸の最重要課題となっています。...現在、医療保険制度の抜本的改正と規制緩和が検討されており...医療分野のビジネス化の進展が予想されています」と、医療の産業化で経済復興を行うと述べていた。
 しかし、この構想は神戸の経済復興に何の役にも立っていない。10年に神戸新聞が阪神・淡路大震災被災者に行ったアンケートでは、29%がいまだに被災地は「復興していない」と答え、理由に「商店街など街の活気」(45%)や「経済や雇用環境」(38%)を挙げている。
 市の調査によると、医療産業都市の市内への波及効果は1041億円。一方、市や国から1300億円あまりがすでに投入されており、税金投入額に対し波及効果が見合っていないと、市会議員から指摘がある。
 実際、建設費の3分の2を経産省からの補助金で賄った、医療産業都市の基幹施設の一つである国際医療開発センター(IMDA)は、開設後1年たたず破たんしている。

特区制度を利用して医療を儲けの対象に 


 さらに構想は、国民医療に悪影響を及ぼす可能性がある。
 医療を儲けの対象とすることが目的の構想において、神戸市が利用したのが、政府の「特区」制度だ。これは小泉構造改革で導入され、従来は法規制などで事業化できなかった事業をその地域に限って認めるもの。医療産業都市は02年4月、国の「先端医療産業特区」に認定された。
 市は、高度医療に係る臨床研究での特定療養費制度の導入や高度先進医療制度の弾力的運用、外国人研究者の受け入れ促進、外国人の入国、在留申請の優先処理、地方公共団体の助成などによる外国企業支店などの開設促進を認めるべきとした。
 協会や神戸市医師会の強い反対で、このうち高度医療に係る臨床研究での特定療養費制度の導入や高度先進医療制度の弾力的運用は認められなかったが、もし認められていれば事実上の混合診療全面解禁が起きていた可能性も否定できず、地域医療にとって非常に危険だったといえる。
 構想は中央市民病院を中核に、「アイセンター」や「神戸低侵襲がん医療センター」「ポートアイランドリハビリテーション病院(仮称)」など高度専門病院群、研究施設「先端医療センター」を整備した。
 中央市民病院は一般保険診療を担い、高度専門病院群では混合診療の一部解禁ともとれる当時の選定療養や評価療養を行う。そして、先端医療センターでは保険外診療でより実験的な臨床研究を行うというのが、神戸市の方針である(図2)。
 市が、高度医療に係る臨床研究での特定療養費制度の導入や高度先進医療制度の弾力的運用を求めたのは、実験的医療をより早く臨床現場に持ち込めるようにし、医療産業に魅力的な環境をつくるためだった。
 また、医療産業都市は08年に政府のスーパー特区に指定された。スーパー特区は、複数の大学病院、高度医療センター、企業などの「複合体」が行う先端医療の開発に、国が研究資金を投入するとともに、研究をスピーディに進めるため各種規制を緩和するものだ。
 スーパー特区の発端は、米国政府と日本財界による医療分野の営利化や市場化要求だ。07年、米国政府は日本政府への「年次改革要望書」で「医療関連産業があらゆる医療を提供することを可能に」と述べた。
 それを受け、08年3月の経済財政諮問会議で民間議員である伊藤隆敏、丹羽宇一郎、御手洗冨士夫、八代尚宏らが「イノベーションを支える『スーパー特区』の創設を」と題し、病院などの臨床研究施設が「民間企業の委託研究も可能とする」ことや新技術の承認審査を早めることなどを求める提案を行った。そして同年6月、その提案をそのままのむ形でスーパー特区設置を盛り込んだ「骨太方針08」が閣議決定された。
 スーパー特区は、臨床研究に国家や企業の資金を投入し、その研究成果を一早く企業が「商品化」するというきわめて企業本位の施策だ。とりわけ、企業の先端医療技術の商品化には、様々な優遇措置がとられている。規制当局との協議を行い、規制の「効率的」な基準策定が行われ「実用化が円滑に進」められる。また、「承認審査のスピードアップ」も掲げられ、安全基準を緩和してまで承認審査を早く行えるようにしているのである。
 加えて「薬事法による申請等に繋がる科学的評価可能なデータ収集の迅速化」を目的に、特区での研究成果に対し高度医療評価制度(保険診療と保険外診療の併用を認める)が適用され、混合診療推進だけでなく、治験の条件を緩和する実験医療も容認されている。
 特許の「超早期審査」もうたわれ、先端医療技術を企業の知的財産として保護し、出資企業にとって儲かる「商品」にすることを狙っている。
 こうしたスーパー特区の優遇策を神戸市と財界は利用し、医療産業都市構想をさらに加速させている。

先端医療開発に公立病院を利用


 医療産業都市整備の一環として、神戸市立中央市民病院が11年に移転した。同病院はもともとポートアイランドにあったが、神戸市は老朽化などを理由に、より市街から遠い海側に病床数を減らし移転させた。
 市民からは批判が巻き起こったが、市は移転を強行した。背景には、同病院を最先端医療施設のバックアップ病院として活用する計画があった。
 井村裕夫先端医療振興財団理事長は「中央市民病院の患者などを対象に...最先端医療の応用研究を進めている。このためにも、また救急事態への対応に際しても、市民病院があると便利で...移転させることになっている」と語り、当時の先端医療センター長はラジオ番組で「やっぱり(中央市民病院の)患者さんや一般の人が必要である...新しい医療が生まれるためには膨大な人体実験が必要でしょう」などと危険なことを述べている。
 つまり移転は、先端医療センターや高度専門病院群で突発的事態が起こった場合の救急対応と、先端医療センターなどで行う先端医療の被験者としての患者提供を目的に強行されたのだ。
 市民に情報を隠し中央市民病院で先端医療を行おうとする姿勢は、危険な医療行為を引き起こしている。09年2月1日付の神戸新聞は、神戸市が04年10月の心臓血管再生医療に使用する測定装置ノガでの事故を公表せず、担当医師が「安全性が確認されるまでは使えないと思った」にも関わらず、05年診療研究を再開させたと報じている。
 さらに11年、県は突如、神戸市須磨区の高台にある県立こども病院を医療産業都市に移転させると発表した。高台から沿岸部の人工島・ポートアイランドへの移転は、阪神・淡路大震災や東日本大震災での教訓を全く活かしていないと、多くの県民や医療関係者から反対の声が上がっている。
 中央市民病院に一定規模の小児科があるにも関わらず、移転先は中央市民病院の隣接地とされており、貴重な医療資源を自然災害リスクの高い場所に集中配置することにも、大きな反対が巻き起こっている。
 県医師会など医療の専門家からは、実験や研究を行う医療産業都市には様々なウイルスや菌が保管、利用されており、万一バイオハザードが起こると、抵抗力の弱い病児を危険にさらすとの指摘もされている。
 こうした批判にも関わらず、県は移転先を明らかにせずパブリックコメントを行うなど、県民に説明なしに移転を強行しようとしている。これはこども病院を高度専門病院群の一つとして位置づけ医療産業都市構想を推進するためで、地域医療を破壊し市民の命を危険にさらすものだ。

医療ツーリズムで資源を海外富裕層に


 医療ツーリズムも進められようとしている。政府の「新成長戦略」には、「アジア等で急増する医療ニーズに対し...日本の医療の強みを提供」とある。これが患者を海外から招く医療ツーリズムで、混合診療全面解禁の後押しになりかねない問題をはらんでいる。
 具体的には、「医療滞在ビザ」設置、外国人医師・看護師による国内診療、外国人患者の受け入れに資する医療機関の認証制度創設、海外プロモーションや医療言語人材の育成、アジア諸国などの医療機関等との連携を行うとしており、すでに「医療滞在ビザ」は11年1月に設置された。
 政府に呼応し、医療産業都市はKIFMEC(神戸国際フロンティアメディカルセンター)病院をつくり、年間50例を目標に海外から患者を受け入れ、生体肝移植を行う予定だ。これには多数の問題がある。
 一つは健康な体にメスをいれる生体肝移植の倫理的問題だ。03年、肝臓の一部を提供するドナーの死亡例が報告され、日本移植学会倫理指針でも「(生体肝移植は)健常であるドナーに侵襲を及ぼすような医療行為で...本来望ましくない」と規定されている。次に日本の移植医療の発展に及ぼす悪影響だ。もともと生体肝移植は脳死移植が臓器提供不足で進まないため、緊急避難的措置として開発された。生体肝移植のみへの偏重は移植医療の発展を大きく阻害する恐れがある。
 臓器売買の可能性も否定できない。08年に国際移植学会が採択した「臓器取引と移植ツーリズムに関するイスタンブール宣言」では「弱者、貧困層ドナーをターゲットとした移植商業主義は公正、正義、人間の尊厳を踏みにじるために禁止すべき」とある。10年のWHO総会でも、臓器移植手術目的の海外渡航を原則禁止とする決議が採択された。国境を越える移植医療の禁止が、世界の流れだ。
 京都大学付属病院では、04年肝臓提供者として来日したパキスタン人が「レシピエントのいとこを名乗ってドナーになれば金をもらえることになっていた」と証言しており、日本の医療機関も臓器売買の舞台となる可能性が高まっている。特にアラブ諸国は、一夫多妻制度があり家族の範囲が広く、ドナーが本当に親類かの特定は極めて困難とされる。国際的な生体肝移植はこうしたリスクも生む。

県民・医師会と連携し運動


 医療産業都市は、震災復興ではなく、むしろ混合診療拡大、承認審査の基準緩和、大企業の医薬品、医療機器開発への国と非営利医療機関の資源投入、実験医療への市民の参加、医療ツーリズム推進など、地域医療を根底から掘り崩す。
 これに対し、兵庫協会は10年以上にわたり様々な反対運動を行ってきた。運動を進める上では、県民はもとより神戸市医師会や県医師会との連携を常に意識し、懇談やインタビューを重ね、医療産業都市構想に足かせをはめてきた。今後も、県民や医師会と共同し運動を進めていく。
 

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